第18話

「ノート、開いて」


ステイタス。これが私の唯一の武器。

相手を解析する。

最速で、最短で、最適な。

私が勝てる方法を見つけ出せ。


「大丈夫。ゲームは慣れてる」


右目で歩きキノコを睨み、左目でステイタスを操作する。

必要な情報を速読していく。


「……これなら」


解ったと思った。

なら、あとは試すだけだ。


「ふぅ……」


立ち位置を変えていく。

最適な場所に、ゆっくりと自然に。

敵を睨み、ステイタスから得られる情報を取りこぼさないようにしながら。


敵とゆゆねを、一本の獣道が結ぶ。


腹を括ってもなお、ゆゆねは怯えていた。

心の芯は、疑問と懸念をばらまいていた。


ねえ、あのキノコさんを殺して。

そしたら次はなにを殺すの。

モンスターならいいね、ドラゴンだったら英雄だね。

でも、ほら、人間だったら。

目的のために、何を誰を、踏みつけるの。


「……うるさい……」


睨む。世界を、自分を。

ぐちゃぐちゃ騒ぐな。

ねこさんは言った。人はどこでも一人だと。

ヤシャさんは言った。己の目的を一番に思えと。

それが足りなかったから、私はこの世界にきてしまった。

なら今回こそは、利己的に、傲慢に。

世界(わたし)を愛してみよう。


「来い!」


石を拾い、投げる。

石は歩きキノコの顔を打つ。

ダメージはないに等しい。

が、怒らせるには十分だ。


歩きキノコは震え、走りだした。

敵が来る。迫る。

私は目を閉じ、覚悟し、そして。

丸まった。


「げっ!」


それはどちらの声だったのか。

ゆゆねは背の痛みに耐えながら、立ち上がる。

振り返ると、きのこは倒れていた。

ばたばたと、もがいていた。


ゆゆねは自身を、小石にしたのだ。

固く丸まり、敵の足を掛ける。

歩きキノコはヤシャによって片腕にされている。

残った腕だけでは、寸胴の巨体を持ち上げることはできない。


ゆゆねは背の鈍痛に耐えながら、歩きキノコに近づく。

その腹と地面の間に手を差し込んでショートソードを抜いた。


「ごめんね」

ゆゆねは剣をかかげた。

「この世界では今度こそ、私は……私を守る」


ゆゆねは生れて初めて、暴力をふるった。

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