第16話

見えた。

まぶたの裏に、白い文字。


ゆゆねは怖くなって、目を開ける。

だがそれでも文字は消えず、エルフの少女の顔に被さるように浮いていた。


「み、見えます。見えます。うぇ、なにこれ、ホントにゲーム画面みたい……」

ゆゆねは立ち上がり、空中を掻く。


能力、アイテム、装備、クエスト、地図、設定。

ゆゆねが見たのは、そんな言葉だった。


ヤシャはゆゆねの肩を抱き、静かに座らせる。

「そう。よかった。最悪、備わってないこともありえたから」

「よくないですよぉ。気持ち悪いです。視界がぐちゃぐちゃで……ホントに機械じゃ」

「交信している金の約定は古代機に関係があるけど、あならは正真正銘のヒト種よ」

「交信? わいふぁいでも出てるんですか、私!?」

「さあ? とにかく、それがあなたの武器よ。理解し、受け入れなさい」


ヤシャはゆゆねが落ち着くまでの5分、黙って座り続けた。


「慣れてきた? どういうものか」

「はい……なんとなくは。ある意味では、すごく馴染んだものです」

「そう。それはあなたが自分で使いこなせるようになるしかない。私には推測しかできないから」

「おっ。ヤシャさんの能力もわかります。レベル64! 高い……高いのか? 属性は水と土で……えぇ!?」

「……! やめて、ゆゆね」

「ヤシャさんって本当にお姫――」

「やめなさい……!」


パン。閃光。

二人の間で、なにかが爆ぜた。


「ひゃ! ご、ごめんなさい。すみません、プライバシーでした……」

「……いいわ。どれぐらいのことが出来るのか、目安になったし」

ヤシャは銀髪を流す。

「さて。じゃあ実践に移りましょ。ゆゆね、その状態できのこを調べてみて」

「きのこを……はい!」


―――――――――――――――――――――


「これでよし」

ゆゆねは立ち上がる。

荷物袋には選び抜いた一つの黒キノコが入っている。


「今回に関しては、小魔力のきのこも使えるんだけど……。あなたの訓練だわ、一級品だけ採集しましょう」

とは言いつつ、ヤシャは残ったきのこを自分のローブに仕舞った。


「深いダンジョンでは、その場での選別は大事な能力よ。どれもこれも持ち運べるわけじゃないからね」

ヤシャは杖で、ゆゆねの背嚢を小突いた。

「大事な盗賊の技よ。魔術なら、看破や査読。どちらも一朝一夕では身につかない」


「なるほど……」とゆゆね。

「確かによく考えたら、チートなのかもしれません。見知らぬ世界の動植物の名称や、簡単な説明がわかるなんて」


「さてと。地図もあると言ってたわね。活用して……そうね、ぬめり森の深部、中央を目指して」

「あっ……はい。マップマップ。……東に2キロくらいですかね」

「正確ね」

「でもヤシャさん、中魔力くらいの黒きのこなら、ここら辺でも見つかりそうですよ」

「深部のほうが多いわ。でもゆゆね、私はちょっと別のこともしてほしいの」

「それも依頼ですか?」

「ええ、一環にはなる」


ヤシャはゆゆねの武器、腰のショートソードを指す。

「ボス戦をしてもらうわ」

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