第13話

ベッドがふたつ。

それがガジュマルとヤシャの部屋だった。


「あっさりですね。旅人の部屋って感じです」


ゆゆねが感想を言う。

ここは『夢見のもぐら亭』二階、一番奥の部屋だ。


「オレは飯と酒があればいいからな。だが、ヤシャは本とか遺物とか、いろいろ地下にため込んでる」

ガジュマルは窓をあける。

ひんやりと、新鮮な風が二人をなでる。もうすぐ日もくれる。


「ヤシャさんは……なんで私を入れてくれたんでしょう」

「さあ? チートっての? それを利用したいんだろ」

「チート……。ガジュマルさんは、いいんですか。最初、反対していましたが」


ガジュマルはベッドに座る。

「ヤシャがリーダーだ。あいつが役立つと判断したらのなら、オレは従うだけだ」

「でも……内心は、どうです。やっぱり、面倒だって……」

「どうだろうな。熟練が後進を育てるのは推奨されている。義務ではないが、オレたちもそんな時期なのかもしれん」

「私、できるだけがんばります。でも正直……私。体も頭も……それに心も弱い」


ゆゆねは自分の靴先を見る。

「冒険者って、楽じゃないですよね。私、才能ありそうですか」

「ない」

「うぐ」


ガジュマルはふっと、息を吐く。

「生易しいことでも言ってほしかったか。だが、これから仕事仲間なんだ、ヤシャも言ったが容赦はしない」

ごろん。猫は寝た。

「才能とは結果だ。お前は今弱い。だから才能もない。もしあったのならすでに強い」

「……そ、それは。ちょっと異論があるというか」

「たくさん食って、よく寝ろ。まず痩せすぎだ。んで、依頼をこなせ。できるのを手あたり次第」

そんで、と猫は言った。「才能だのは、それからわかる」


「……努力します」ゆゆねは飲み込んだ。「でも、戦士タイプか魔術師タイプかくらいは知りたかったなぁ」


「それはない」ガジュマルは笑った。「どっちの才能もないな」


「ほら、やっぱり才能ってあるじゃないですか!」ゆゆねは突っ込んだ。


「さあね。猫人は適当だからな。あまり真に受けるな」

ガジュマルは耳を閉じ、目を閉じた。


ゆゆねは眠りにつくのかと思った。

「ねこさん、私はどこに……」

「ゆゆね」

ガジュマルは言った。まるで天井に話しかけているかのようだった。


「お前はなぜ、冒険者になりたいんだ」

「……」


風が凪ぐ。日が沈みはじめる。

ゆゆねは、その半分の太陽を見た。


「……お姉ちゃんを」ぐっと、少女はお腹に力を込める。

「お姉ちゃんを見つけたい」


――――――――――――――――――――――――


「姉?」

ヤシャは訊き返した。


場所は植物室。

蟲使いの亭主と影使いのエルフがいた。


「そっ。勇者アローナ。本名、佐倉ねねか」

「……アローナ……ガラクタの女王が、あの子の姉なの」


「ソダヨー。私が言うんだ、間違いない」

ええまったく、と亭主は言った。

「ほんと、瓜二つの瞳だったヨ。声も、指も」


「なるほど、そっちの方がよっぽどチートね」

ヤシャはみけんを抑える。

「それで、育てて英雄にでもしたいの? 魔王どもへの対抗に」


「いや、それはねねかがする。あの子は輪になるんだ」

亭主は靴先で、土の床をほじる。

「千切れかけの世界を。端切れの紐を。ツギハギの国を」

そして、長い指を見せびらかすように掲げた。

「縛り直してもらう」


「……わからない。古代機を抑えたいだけじゃなくて?」


「あれはウロボロス。あるいはメビウス。矛盾の輪。かつておき、これからおきること。――ええだから、強く太くなってもらわないと」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る