第7話

私はゆゆね。女性。14歳。

小説と絵が好きで、運動は苦手。

本日。

あの卵が割れてから、大変なことの連続だったけど。

今が、一番、大変なことになってます。


それはバトル漫画のようだと思った。


始めたのはローブの3人。

何かを唱える。

すると各々の杖先が、指先が、瞳が、光った。


ねこさんの足元から火炎が噴出した、

ねこさんが見えなくなる。

その火炎の中に雷が落ち、さらに太いイバラが渦をまいて抱いて閉じた。


「あっ」


死んだ。と思った。

あのねこさんが、キレイな毛皮のねこさんが。


一瞬だった。

離れて見ていた私でやっとわかったんだ。

ねこさん当人からは、訳もわからぬ内に起きたことに違いない。


がくりとへたり込む。

ねこさん。

会ったばかりだったし、ちょっと言葉遣いが怖かった。

でもあのねこさんは、昔拾った……。


「相変わらず、限度がねぇな。魔術を大事にするんじゃねぇのかよ」


どこからか声。……空? 太陽の中?


「ぎぃ!」

魔法使いの一人が叫ぶ。血を吹き出し、体中にいくつもの突起ができていた。

柄だ。刃物の柄が、見えるだけ胴体に三本。


次いで。

炎と茨が生んだ黒煙。その一番濃いところから、なにかが飛び出した。

私は矢かなにかだと思った。またナイフを投げたのだと。

違った。人だった。

ねこさんそのものが飛び出し、一団に向かっていった。


ねこさんは気づけば、おじいさんの目の前で、素手の右手を振りかぶっていた。

爪で裂く、と思った。

だが寸前。びょんと、重力を無視したような動きで、ねこさんは下がった。


「やるな、じじい。ぶつぶつ言うだけが取り柄じゃないみたいだな」

ねこさんは胸を抑える。薄く、赤く濡れていた。ピンクにさえ見える鮮やかさ。

毛皮で傷口は見えないが、胸を切られたのだとわかった。


おじいさんはいつの間にか、淡く光る剣を持っていた。

どこか非現実的で、硝子細工を思わせる薄い剣。


「賞賛と受け取ろう。だが鈍いぞ、猫。この身が10年若ければ、切れていたのは胸の薄皮ではなく、心の臓だ」


ねこさんは頬を緩める、腰の短い方の剣を抜いた。


「もしもはなしだぜ、じいさん。オレも5年前だった斬られても構わず喰いついてた」

「ふん……亜人種が。下手に行儀など覚えるからだ」


おじいさんは杖と硝子剣をクロスして構える。

「獣は獣らしく戦うのがもっとも強い。攪乱や投擲など、寄り道よ。……忘れたのか、首を目指し、刈る。それが猫の本分だろう」


ねこさんはゆらゆらと、短刀の構えを不定形に保っていた。

「悪いね、だいぶ躾けられてな。今のご主人さまが厳しくてな。上品にしてないと、シッポ踏まれてな。もうおっかなくてさ」

「ご主人? 今、猫人を隷属するものはいないだろう。貴様らが逆らい、滅ぼしたばかりではないか」

「いいやいるんだよ、一人。時代錯誤で、傲慢で、見栄っ張りで、容赦なくて……本当にマジで――」


「――口を慎みなさい、私のしもべ」


女性の声が、場に落ちてきた。

若く、幼いとさえ言える声。

しかし凛と、有無を言わさぬ威厳があった。


ガジュマルは笑い、言葉の続きを言った。

「……びっくりすぐるぐらい、美人の姫さんがよ」

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