第5話

女性が出てきた。

ヤシャと同じくらい。外見的には15歳前後に見える少女だ。


長い黒髪、体毛のない白い肌、骨ばった痩せた体。


「……人間に、似ているな」


少女はヒト種の中の、人間に見えた。

この世界でもっとも数の多い種族だ。

繁殖力と持久力、芸の多彩が特徴だ。

なによりその強い欲望は他を圧倒する。

古くから己を、「人間」と呼称していた。

我らこそ、ヒト種の中央だと。


半分の殻の中で、少女は自分の体を隠す。

少女は裸だった。なにもつけず、卵の粘液に濡れていた。


「……あー、服。持ってくればよかったか」


ガジュマルは人間に興味はないが、礼はわかる。

自分のマントを剥ぐと、少女にかけた。


「す、すみません。……ええっ、ええええっ!?」


少女はマントを羽織るのも忘れ、口を開ける。

丸い目でガジュマルを見ていた。


「あん? 立ってくれよ、早く。さっきも言ったが、時間が――」

「ね、ねこ。ねこ? ねこさん?」


少女はうわごとを言いながら、手を伸ばす。

手はガジュマルの胸に触れた。

ガジュマルは咄嗟に下がろうとしたが、自制した。


「猫人を見たことがないのか? 召喚人ってのはそうなのか?」

「ほ、ほんものなの? 毛が、心臓が……す、すごい」


もう少女は両手を使って、ガジュマルの体をなでる。撫でまわすと言ってもいい。


「……やめろ」

「……すごい。すごい。ねこさんだ、ねこ人間だ……」

「……やめろ、不快だ。――おい」


ガジュマルは低く、重く言う。

怖がらせたくはなかったが、本音の方を優先した。


「ひっ。ご、ごめんさない。びっくりしちゃって……」


少女はやっとマントを羽織る。


「ねこ、好きだから……飼ってたこと、あったから……」


少女はぶつぶつ、下を見る。

まだなにか言っているようだが、言葉としては読み取れなかった。


「混乱しているだろうが、時間がないんだ。とにかくここを離れないとならない」

「えっ、えっ。はい?」

「説明はあとでしてやる。今はオレについてきてくれ」

「でも、わたし」

「悪いようにはしない。約束する」

「……約束」


少女はガジュマルの目に、瞳に、感じたものがあったのか。

マントをぎゅっと握った。


「……はい。約束、しましょう」


どこか嬉しそうに、うなずいた。

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