第2話 憧れ・・・
私のことを好きになってくれる人なんていないだろうなぁ・・・。Aさんはため息をつく。フィオナさんの旦那さんのトロさんみたいな人に、どうしたら出会えるんだろう・・・。
フィオナさんの誕生日の記事。旦那さんがサプライズでパーティーをしてくれて、手作りの皮財布をプレゼントしていた。それに、子どもたちからの手書きのバースデーカード。画用紙にクーピーで書いたものだけど、心がこもっている。朝早く起きて、パパと子供たちでこっそり飾り付けして、料理を作ってくれたらしい。愛されているフィオナさん。素敵な家族。
Aさんは働いてコツコツ貯金しているけど、ずっとこのままなんだろうな、という気もした。母の面倒を見なくてはいけないからだ。去年、社長の勧めで取引先の男性社員と見合いをした。相手は真面目そうな人で眼鏡をかけた”もやし君”みたいな感じの人。全然タイプじゃないのに、先方から断られた。ショックだった。
Aさんは毎日フィオナさんのブログを見て、新しい記事があると毎回コメントしていた。夫婦の記事が出た時に、どうしたら素敵な旦那様に出会えるのかと尋ねてみた。そしたら、『いい人いないかな~と思って探していたわけじゃなくて、夫には自然に出会ったので、きっとHNさんもこれからですよ』と書かれていた。
自然に・・・か。Aさんはフィオナさんらしいと思った。きっとキレイな人なんだろう。
Aさんはできる範囲でフィオナさんのライフスタイルを真似てみた。ソーイングを始めたり、ジャムを手作りしたり、洗剤を使わないで重曹を愛用するとか・・・。オーガニックの食生活は無理だった。食材が普通の2倍くらいするからだ。いつもオーガニックと言っているわりに、フィオナさんの家計簿は食費が3万くらいしかかかっていなかった。Aさんは違和感を感じた。
ちなみに、俺の印象だと、全部オーガニックにすると月8万くらいはかかると思う。
『オーガニック高くないですか?』Aさんは質問した。
すると、『近所の農家さんから格安で分けてもらうんです』という返事だった。人柄がいいから、きっと近所の人とも仲がいいんだろうなと思った。自分は近所の人と交流なんかない。
やっぱり根本から違うんだ・・・。Aさんは落ち込んだ。
フィオナさんみたいな暮らし。家でも白いワンピースを着ているような・・・。Aさんも真似して部屋着を無印の綿のワンピースにしてみた。洗うとシワシワになってしまう。
『シワになりませんか?』
『伸ばして乾かすとわりと大丈夫ですよ』
やってみたけど、やっぱりゴワゴワだった。
ある時の記事ではイチゴをたくさんいただいたので、子どもたちとジャムを作りました。と書いてあった。
でも、後ろの方にぼんやりと市販のジャムのボトルが写っていた。
それに、フィオナさんの家のインテリア・・・よくよく見ると、不自然だった。まるで、どこかのお店のインテリアを写真に撮っているみたいだった。マガジンラックに置いてある海外の雑誌は、インテリア用の見本でカバーしかないことをAさんは知っていたからだ。
Aさんの趣味はウインドウショッピングだった。おしゃれな家具屋さん。今住んでいる激安賃貸には置くところもないし、買う余裕もないのに、インテリアを見るのが好きだった。色々な家具を見比べて、将来こんな家具を買いたいな~と、想像するのが楽しかったんだ。
フィオナさんの家にある雑誌は、ソファーセットなんかのコーナーに見栄えがいいからと飾ってあるもので、中は白紙だったのだ。それが家にあるのはおかしかった。
ネットで”フィオナ”、”有機な家族”で検索すると、ウソとかヤラセというキーワードが出て来た。一部の人が、フィオナさんのブログの矛盾をたくさん指摘していたんだ。
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