分裂

連喜

第1話 ブログ

 "暖かい家庭" 、俺には縁がない。

 この言葉から連想するのは、テレビや映画の世界だけだ。

 俺の実家も親戚の家も暖かい家庭とは程遠かった。


 みなさんの家は”暖かい家庭”だろうか?

 もし、そう思うなら、あなたはものすごく運のいい人かもしれない。


 これはネットで拾ってきた話。


 AさんというOLさんがいた。

 30歳くらいで独身、彼氏なし。

 フルタイムで真面目に働いていて、仕事の合間にネットサーフィンをすることを気晴らしとしていた。


 毎日、ブログランキングの上位に入るような、主婦のブログを見るのが好きだった。まだ独身だからちょっと変わっているかもしれない。


 Aさんは母子家庭で、暖かい家庭とは無縁だった。

 両親は離婚していて、兄がいるけど、不良で母親を泣かせるタイプ。

 高校を中退して、東京に行ってしまった。

 連絡はほとんど来ない。結婚したそうだけど、お母さんもAさんもお兄さんの奥さんと子供には会ったことがなかった。それなのに、いつの間にか離婚していた。

 もちろん、仕送りなんかくれない。

 兄がなぜ母に少しも感謝していないのかわからなかった。

 母は女で一つで育ててくれたのに・・・。


 母という人は、人付き合いが苦手で友達が全然いない人だった。

 人に「ああしろ」、「こうしろ」と指図するタイプの人で、敬遠されているんだと思う。Aさんでさえ、時々、母のいないところに行ってしまいたいと思うほどだったから。


 お母さんは今60歳くらいで、病気で体力が落ちてしまったので、午前中だけ掃除の仕事をやっていた。


 だから、Aさんは文字通り家計を支えていた。高校を卒業して、正社員で同じ会社に12年勤めていた。ヤンキーの多い会社だけど、Aさんは真面目だったから、彼氏はできなかった。たまに、遊びで声を掛けて来る人がいたけど、Aさんは断った。

 だから、Aさんは今まで彼氏がいたことがなかったそうだ。


 健気でいい子。みんなそう思うだろうけど、Aさんみたいなタイプは、あまり社交的でないから、男と全然接点がない。俺が彼女に出会いたいと思っても、会うすべが思いつかない。

 

 でも、いつか暖かい家庭を持ちたいと思っていた。


 理想は、LOHAS= Lifestyles of Health and Sustainability な家庭だったそうだ。俺はよくわからないけど、イメージ的には、エコ、オーガニック、リサイクル、癒し、なんかじゃないだろうか。2000年代初めの頃は、日本人の30%はロハス志向だったらしいけど、この言葉を知らなそうな、今の若い人の方がよっぽどこういうライフスタイルを実践している気がする。


 Aさんお気に入りのブログは、フィオナさんという主婦の人がやっている、『有機な家族(仮名)』というブログだった。


 とにかくテーブルウエアやインテリアがおしゃれで、料理はみんな手作り。庭では家庭菜園をやっていて、子供たちの服もみんな自分で縫っているということだった。旦那さんも優しくて、持病のあるフィオナさんを優しくサポートして、子どもたちの面倒も見てくれる。この夫婦は高校の同級生で、今までほとんど、喧嘩したことはないそうだ。


 Aさんは、フィオナさんのブログを見ているとほっこりした。暖かい雰囲気が画面からあふれていた。

 


 

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