5話 知将との再会
ウルヴァナと別れて1日と少し。
俺たちは目的地へと辿り着いた。
「……あれが、エルフの誇る大森林、そして「世界樹」か」
大森林。それは、200メルク……地球の単位で200メートルクラスの巨木が集まった広大な森。果てが見渡せない程に広い、緑の世界。
その中央には世界樹と呼ばれる巨木が屹立している。
200メートルの木も十分にオカシイが、世界樹はその比ではない。大森林の中心に屹立している世界樹は、およそ400メートル。ウルヴァナと会話するよりも前から……それこそ神話の本を読んだくらいから既に観測は出来ていた。
浸透圧と蒸散は何処に行ってしまったのかという話だが、それがファンタジーパワーの為せる技。魔力があれば、木だって限界を超える。
「……こうして木を切りつけて、と」
巨木の側面に切れ込みを入れると水が溢れ出す。この種類の木は地下の水を吸い上げるのだが、木の中を通る過程で水がろ過されるので、綺麗な水を入手できる。旅の途中での水確保手段である。
魔力を持ったファンタジーな木は再生能力も凄まじいので、これで枯れることは無い。これらは、師匠から学んだ大切な知識の1つだ。
さて、と。水分補給も終わったので、目の前のコレを考えるとしよう。
「――さて。考えなきゃいけないのは、このフィデルニクスからの招待状……或いは、果たし状か」
大森林の周囲を覆うように展開された魔術結界。閉じ込めたり防いだりよりは、侵入者の存在を感知する類の術のようだ。
そして、その中に暗号が刻まれている。
術式を構成する文字列の中に、何の効果も発揮していない文字が紛れ込んでいるのだ。
……成程。「エイジ」の文字列を加えれば、結界とは別の魔術が発動するようになっている。小規模な異界に移動するような、そんな術の式だ。
「如何されますか?」
「受けよう。あからさまな誘いだけど、フィデルニクスに会うメリットを見逃すことは出来ない」
淡い緑色の結界に文字を書き込み――
◇◇◇
「ニュクリテス以来ですね。お久しぶりでございます、魔王様。……それとも、エイジ様とお呼びすべきでしょうか?」
「……やっぱり気付いていたか。後者で頼む。出来れば、敬語や「様」付けも止めてくれ」
「承知致しました、エイジ君。ただ、敬語は私の標準装備ですので、ご容赦を」
造り出された異界にて再びの邂逅を果たした男の名は、フィデルニクス。
「前回」にて魔王軍四天王となったエルフであり、知略を担った軍の頭脳。
「さて、エイジ君。とりあえず、グエラエでも指しながら話すのは如何でしょう?」
「お前ら軍師キャラって、それ好きだよな。キャラ被りしてるぞ」
「その言葉ということは、オルトヌスと戦いましたか。ちなみに、勝敗は?」
「俺が勝った」
「それは僥倖です。察するに、「前回」の反省を活かしたつもりで、「前回」に囚われた作戦でも立てたのでしょう。結果、己が慣れ親しんだ戦い方を捨てることとなり、不慣れな戦い方で敗北した……概ね、こんな所でしょうか」
「凄いな。正にそんな感じだったよ」
擁護するのであれば。
オルトヌスも強かった。「軍師」の名は伊達では無い。
ただし、彼は「前回」を意識し過ぎたのだ。「前」の記憶を基に立てた作戦では、「今の俺」には適さなかっただけ。
「はは、そうでしょうとも。それくらいは分かります。……「軍師」オルトヌスに知略で勝利可能な王。その王が居るにも拘らず、「知将」「頭脳」「参謀」などと呼ばれ続けたのですからね、私は」
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