9話 “Game Over”
シスが勇者エスリム。
想定していた範囲内ではある。しかし、考えられる限り最悪のパターンだ。
彼女の背後には教会騎士が数十名。勇者が「シス」として時間稼ぎをしている間に周辺から集めたのだろう。
そして、勇者以外にも血生臭い場には似合わない少女が1人。車椅子に座り、目には目隠しをした黒髪の少女。その隣には長い髭の、貫禄の凄まじい白髪老人が1人立っている。
その素性は、手持ちの情報と比較検討すれば自ずと答えは出る。
どちらも「前回」において6名の勇者一行に選ばれ、「魔王」を討伐した者。
黒髪の少女が「メレリア」。最新の「聖女」。
白髪の老人が「クレイビアッド」。大陸に名高い「賢者」。
賢者は世にも珍しい「転移魔法」の使い手。膨大な魔力を使用するために乱発は出来ないらしいが、自分と数名を一瞬でテレポートさせる超チート魔法。
今回は勇者からの知らせを受けた賢者が、オーロングラーデに転移して聖女と合流。もう1度転移を行って、ここに来たのだろう。
普通に戦えば勝ち目なんてゼロだ。ならば。
「勇者さま、ね。なぁ、少し話をしないか?俺は……」
「問答は無用だよ。キミの言葉に惑わされるつもりはない」
まずい!
魔王軍に使ったハッタリによる困惑か、記憶喪失だと明かして同情を誘うか。どちらかを使おうと思っていた。
だが、何の躊躇いも無く攻撃してくるだと!?
事前に収集していた情報と乖離している!勇者は博愛精神に溢れた優しい心のお花畑ちゃんだったはず!
「記憶事変」が彼女の人格を一変させたのか!?
これが「勇者」のやる事かよ!
「……っ!」
本当はもっと会話をして情報を集めたかったが……!
致し方ない!
右手に持った種を潰す。
これは植物関連の魔法・魔術に精通した師匠特製の大魔術。その触媒。
貴重過ぎて1つしかないのに加え、1人にしか効果を発揮しないという代物である。
基本となっているのは、外敵に幻惑を見せて身を守る植物の種。
これを使えば、使用者そっくりの幻を出現させつつ、使用者の姿・匂い・魔力といった全てを認識不能にする。たった数秒間だけだが、その効果は絶大。
ヴァルハイトが語っていた、勇者の剣に刺された魔王が生きていた……というのも、これを使ったのだろう。
背後は巨大な裂け目。落ちたら即死確定だが、唯一の逃げ場でもある。
無論、敵は崖下に逃げられた場合も考えているだろう。
しかし、対象が既に死亡したと認識したのなら話は別。わざわざ手間をかけることも無い。
魔王が死んだとなれば、追跡や捜索も止めることが出来る。今後は今よりも活動しやすくなるはずだ。
勇者一行と教会騎士数十名。その言葉を疑う者なんて居ないだろう。ウアたちを探すのも随分と楽になる。
幻影を発動させつつ一歩下がり……
「もう騙されないよ」
……馬鹿な!?
幻影を突き刺した勇者は、そのまま直進。
姿が見えないはずの俺に向かって聖剣を突き刺そうとしている。
不味い不味い不味い不味い……!
何か打開策を……!
くそっ駄目だ!切れる手札が存在しない!
「さよなら、エイジ」
「ぐぁあああああああああああああ!!!!!!!!!」
激痛。
幻影は霧散。鮮血が噴き出す。
視界には胸に深々と突き刺さった聖剣。
そのまま、俺と勇者は崖下へと転落していく。
「ウア……師匠……バルバル……」
意識…が……途切れ…る………着地が……………
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