4話 「仲間」

 クリスティアーネと遭遇したのは、バルバルから出て少しだけ歩いた地点。

 まだ彼女がそこにいるかは分からない。けれど、確かめてみる価値はあるだろう。

 故に、その場所目指して旅路を急いでいた。

 だというのに。


「いや、さっき結構いい感じの別れ方したじゃん。後世に語り継がれる感じだったじゃん。何で居るの?」

「最後に殺しに行くとは言ったけど、それまで着いて行かないとは一言も言ってないよ」

「やっぱり変質者じゃん!ストーカーじゃん!」

「忘れたの?君に人権は無いんだよ」

「もうやだ!この世界!」


 今、俺は橙色髪の男と遭遇している。



◇◇◇



「まぁ、そんなわけでね。急いで教会に突撃して、「首輪」壊して戻ってきたのさ」


 ヴァルハイトの話をまとめると。

 彼の「嘘を見抜く」という魔法の有用性は非常に高く、俺を取り逃がしてしまったとはいえ、教会も手放すことは出来なかった。

 そのため、裏切ったら恐るべき苦痛を……場合によっては即座に殺せる術式を埋め込まれていたという。

 しかし、彼は教会に対しても自らの真の実力を隠し続けていたらしく。本当はいつでも術式を破ることは可能だったらしい。

 昨日、俺と会話をしたヴァルハイトは、俺に同行した方が楽しそうだと判断。

 彼を縛るべく用意された魔術の儀式場を崩壊させて、舞い戻ってきたのだという。

 嘘を見抜く彼が最も嘘まみれとは、何という皮肉だろうか。


「それを俺に信用しろと言うんですか?貴方が教会の手先ではないと?教会の支配を本当に抜け出したと?」

「まぁ、それを言われるとね。おじさんには証明する手段なんて無いわけよ」


 こんな男、普通に考えて信用なんかできない。

 ただ、戦力になることは間違いないし。今の俺は猫の手でも借りたい状況ではある。

 また、コイツなら守る必要がない。いざという時には囮にして逃げることも可能だろう。

 「前」の情報や、異端審問官だからこそ知っている教会の裏事情もあるはず。

 駄目だ。考えれば考えるほど、デメリットよりも圧倒的にメリットが多い。

 そして、何よりも――


「でもさ、これが一番楽しそうじゃない?」


 コイツの壊れた価値観であれば、この選択に一切の違和感が無い。


「少年の旅は波乱万丈で面白そうだし?力を合わせて苦難を乗り越えた仲間と、涙ながらに殺し合わなきゃいけない……ってラストは倒錯的で実にそそるだろ?」


 この破綻者であれば、確かにそう考えるだろう。

 どんなルートを辿っても、彼に対して情が湧くようなことは無いだろうけども。


「分かりましたよ、ヴァルハイト。短い間ですが、よろしくお願いします」

「そうこなくちゃね、少年。おじさんも短くなることを祈ってるよ」

「教会に喧嘩売ってきた人が誰に祈るというのです?」

「あー、それは正論だね。なら、「魔王様」に祈ろうかな」


 俺と彼は、親愛の情など欠片も無い握手を交わす。

 彼は俺を、楽しみながら殺す獲物として。

 俺は彼を、生き残るための道具として。

 ここに、あまりにも歪な「仲間」が成立した。

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