妻に裏切られた俺は、家政婦になっていた高校時代の同級生を雇うことにしました。その女性は俺に優しいので幸せです

 ある日の夕方、俺は残業消化のために早く帰宅した。


「ただいま~」と玄関で声を掛けながら中に入ったが──返事が無かった。


 あれ? おかしいな……いつもなら奈々さんが出迎えてくれるはずなのに。


 心配になった俺はダイニングのドアを開け「奈々さん?」と声を掛けた。


 でも、ダイニングにも居間にも奈々さんの姿は無かった。


 二階かな? 俺は階段を上げって二階へと向かい──まず寝室のドアを開けた。


「奈々さん?」と声を掛け中に入ると、俺の布団がモッコリと膨れ上がっているのが目に入る。


 え……まさか!? 驚いていると、奈々さんは俺の声に気付いたようでムクっと起き上がった。


 目と目が合い、何だか気まずい雰囲気だ。とりあえず俺は「お、おはよう……」と挨拶をしてみた。


 奈々さんは苦笑いを浮かべながら、照れ臭そうに髪を撫で「おはよぉ……ごめん、ちょっと疲れちゃってベッド借りてました」と返してくる。


 俺の布団は緑、由香の布団はピンクだから、どっちかは分かるはず……俺はそれが無性に気になってしまい「それは良いけど、えっと……なぜ俺の布団?」と聞いてしまった。


「えっと……それは栄治君の匂い──じゃなかった」と、奈々さんは慌てた様子で首を横に振り「み、緑。そう! 緑の方、好きだったから」


「へぇ……緑が好きなんだね」

「うん、うん。そう! 緑が好きなの!」

「ふーん……」


 奈々さんは目を泳がせると「えっと……温めておきましたけど、一緒に寝ます?」


 気が動転しているのか、奈々さんは行き成りとんでもないことを口にする。俺は思わず「え!?」と、大きな声を出してしまった。


「し、しないよね!? 何を言っているんだろ私……」と、奈々さんは頬を真っ赤に染めながらベッドから出て、立ち上がった。


「それじゃ私は夕飯の準備を始めるね、ごゆっくりどうぞ」


 奈々さんはそう言って、そそくさと寝室を出て行く──一人残された俺は、とりあえずベッドに座った。


 いけないとは分かっている──分かっているけど! 欲望のままクンカ、クンカと布団の匂いを嗅いでしまう。


「あぁ……」


 微かだけど奈々さんの匂いが残っていて、奈々さんが俺の匂いと言い掛けたのが分かった気がした。


 ※※※


 今日はザンザンと雨が降っている……奈々さん、買い物のときとか濡れていないかな? なんて心配しながら家に帰り、ダイニングのドアを開ける。


 すると!! 目の前に濡れた服を脱いで下着姿になっている奈々さんが目に入ってしまった!!!


「きゃ!」

「ご、ごめん!!!」


 俺は慌ててドアを閉める。その行動とは裏腹に、ラッキースケベ万歳!!! と叫んでいた。


 ──少しして俺が「えっと……開けて大丈夫?」と声を掛けると、奈々さんは「うん、大丈夫」と返事をした。


 ドアを開けると、奈々さんは恥ずかしがっているのか俯き加減で正面に立っていた。


「いきなり、ごめん」

「うぅん、大丈夫。私こそ、ごめんね。なんだか自分の家のようにくつろいでしまって……」

「それは構わないよ」

「ありがとう」


 ──奈々さんの下着を見てしまったせいか、ご無沙汰だったのもあり、妙に気持ちが高ぶっているのが分かる。恥ずかしそうにしている奈々さんをみて、何だか抱きしめたい衝動に駆られていた。


 俺はゆっくり両手をあげる──奈々さんはその先を察してか、ギュッと目を瞑ってくれていた。


 ──付き合っても居ないのに、そんなのダメだよな……きっと優しい奈々さんの事だ。ここで抱きしめてもオプションだからと言って済ませてくれるだろう。だけどそれに甘えるのは卑怯だ。


 俺は開いていた手をグッと握ると、直ぐに下ろして「寒くない? もし大丈夫なら、夕飯にしようか?」と声を掛ける。奈々さんは目を開けると「うん、大丈夫。じゃあ準備するね」


「お願いします」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る