クラスで一番嫌いなあいつが、クラスの人気者である幼馴染に告白しやがった。あいつに取られるぐらいなら、俺が惚れ薬を使って幼馴染と付き合いたい


「これ」

「これって……」


 圭子は茶色い瓶の蓋を開け、掌に向かって振って中身を取り出す──ピンク色のハート型の錠剤、惚れ薬にそっくりだ。でも落ち着け、本物だとは限らない。


「いま流行りの惚れ薬だよ」

「本物?」

「さぁ、どうでしょ? 食べたんだから分かるんじゃない?」

「──渚が居るって知っていて、何でこんなことをするのさ」


 圭子は小悪魔のようにニヤリと微笑み「何でって聞くまでもないでしょ。ハル君の事が好きだからだよ」


 続いて俺の太ももに手を乗せ「ねぇ、渚と別れて私と付き合わない? そうしてもあなたは何も悪くない。惚れ薬のせいなんだから、ねぇ?」


「そんな事を言われても……俺も幼い頃から、ずっとずっと渚が好きだった。十年以上、築いてきたその想いが惚れ薬なんかに負けるはずがないよ。だから、ごめん。君の気持ちには応えられない」


 渚と同じ気持ちだったから、俺は何度も聞いた渚の想いを口にする。


 圭子は目を瞑り、しばらく黙り込むが口を開くと「──そう。やっぱりダメか」


「もう一度聞くね、これは本物?」

「──これも健二君に渡したのも偽物」

「え……ちょ、健二のもって、どういう事?」


 圭子はソッと目を開き、うつむくと「もう二人とは友達ですらいられないから、正直に話すね。あれは私が二人を別れさせるよう仕組んだってこと。健二が揺さぶりに使った写真は私が撮るようにお願いしたの」


「そんな……」


 圭子は顔をあげると「ごめんなさい。でも、本気だったから、そんな事をしてまであなたを手に入れたいと思ったの」


 圭子はスッと立ち上がり、向き合うように俺の前に立つ。


「最後だから聞かせて欲しいことがあるの」

「なに?」

「こんな私だけど今日、ドキッとする瞬間あった?」


 俺は一日を振り返り考え込むと「──あった」と正直に答えた。圭子はこの日、一番かわいいと思う笑顔を浮かべると「やっぱりあなたは優しいね」


 そしてクルッと俺に背中を向けると「バイバイ」と言って歩いて行ってしまった。そこへなぜか、息を切らした渚が現れる。


 圭子は渚の横で立ち止まり、ポンっと渚の肩を叩くと「大丈夫だよ。ハル君は渚のこと、惚れ薬に負けないぐらい好きだって」


「え……」


 圭子はそう言い残し、止まることなく歩いて行ってしまった。どうやら圭子は、渚に全ての事をメールか何かで伝えていたらしい。俺は呆けて立っている渚の所へ、ゆっくり近づく──。


「渚、用事は?」

「済んだ」

「そう」


 会話が続かねぇ……渚の表情をジッと見ていると、何だか怒っているように見える。


「もしかして、怒ってらっしゃる?」

「べっつに!」


 怒ってんじゃん……それでも俺は手を差し出し「帰ろうか?」

 渚は黙ったままだが、俺の手を握ってくれる。そのまま会話がないまま歩き出し、少しすると「ねぇ」と渚が話しかけてきた。


「どうした?」

「今度からいくら友達とはいえ、異性と二人っきりで出掛けたり、気軽に何か貰ったりしないでね」

「はい、面目ねぇ……」

「いくら惚れ薬を飲みあった仲でも、不安は不安なんだからね」


 正面を向きながら照れくさそうにそう言う渚を見て、俺はギュッと抱きしめたいぐらいに可愛いと思う。


「そうだな。逆の立場だったら、俺もそう思う。ごめん、気を付けるよ」

「分かれば宜しい!」


 こうして渚の肌の温もりを感じていると、こいつとならきっと、永遠の愛を誓い合えると思える。だから……渚が作った惚れ薬は本物だったのかもしれない。

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