クラスで一番嫌いなあいつが、クラスの人気者である幼馴染に告白しやがった。あいつに取られるぐらいなら、俺が惚れ薬を使って幼馴染と付き合いたい

 次の日、何の体調不良も起こさず俺は学校へと向かっていた。


「おはよー」と、元気な渚の声が後ろから聞こえたので、俺は歩きながら振り返り「おはよう」


 渚は嬉しいことでもあったのか、ニコニコと笑顔を浮かべていた。


「なにか良いことでもあったのか?」

「良いこと? 別に?」と、渚は答え、肩を並べて歩き出す。


「昨日はごめんね」

「何が?」

「さきに行っちゃったから」

「あぁ、気にするな。それよりさ――」

「なに?」


 あの後、次の事を考えて薬を飲ませた後、誰にも邪魔はされたくはないから、何度も何度も家に誘うセリフを頭で繰り返してきた。


 なのにいざこうして誘おうと思ってもドキドキして、なかなか口に出す事が出来ない。


「どうしたの?」と、渚は不思議そうに首を傾げる。


「いや、その……今日、空いてる?」

「学校終わったら? それなら空いてるよ」

「良かった。だったらさ……家来ない?」

「良いけど……二人で?」


 二人で? 何でそんな事を聞くんだ? 散々お互いの部屋に行っているから、今までそんなこと気にして無かっただろ。


 ──もしかして、健二のことがあるから後ろめたさを感じているのか?


「そうだけど二人は嫌?」


 渚は直ぐに横に首を振る。


「そんな事無いよ、大丈夫。じゃあ、一旦家に帰った後、行くね」

「分かった」

「美味しいお菓子、用意しといてよ!」

「渚の好みか分からないけど、用意はしておくよ」


 シミュレーション通りにはいかなかったけど、何とか家に誘う事が出来た……でも、惚れ薬なんて使って良いのか?


 ※※※


 学校が終わり俺はすぐに家に帰る。渚と約束した通り、ポテトチップスと板チョコをコンビニで買って用意した。


 あとは惚れ薬を砕いて入れたオレンジジュースを部屋に運ぶだけだ。


 ──俺がジュースを部屋に運び終わると、インターホンが鳴る。渚かな? 俺は直ぐに階段を駆け下りた。


「はーい」と、声をかけ玄関を開ける。

 そこには白いブラウスにデニムのミニスカートを履いた渚が立っていた。


「やっほー、来たよ」と、手を振って来る。


「わざわざ着替えてきたの?」

「うん、制服だと汚れてるし」

「そう。あがって」

「お邪魔しまーす!」


 渚は元気よくそう言って、家に入った。考えてみたら、渚を家に入れるのは何年ぶりだろう。


 少なくとも高校に入ってからは一度も無いかもしれない。


「晴彦の部屋に入るの久しぶりだから、何だかドキドキしちゃうな」と、渚は階段を上りながら言った。


「なんも変わってないぞ」

「そうなの?」

「うん」


 ──俺は部屋の前に着くとドアを開け「はい、どうぞ」


「ありがとう」と、渚は返事をして、キョロキョロと部屋を見渡しながら入ってく。


「あんまジロジロ見るなよ。恥ずかしいだろ」

「へぇ……本当に変わってないね」

「だろ?」


 渚は俺のベッドの前に立ち「ベッドに座っていい?」


「あぁ、良いよ」


 俺が返事をすると、渚が勢いよくボンっとベッドに座る。その時、微かに嗅ぎ慣れない大人の香水のような匂いがした。


 お風呂でも入ってきたのか? なんだか慣れない匂いにドキドキして落ち着かなくなってしまう。


「おいおい、そんなに勢いよく座ったら壊れるだろ」

「だって、いつもやってたから、やらないと落ち着かなくて」

「まったく……変わらないな」

「てへっ。のど乾いちゃった。ジュース頂戴」

「はいはい」


 俺は惚れ薬が入ったジュースを手に取る。良いのか? まだ間に合うぞ。


「どうしたの?」

「いや。オレンジジュースで大丈夫だった?」

「うん。大丈夫」

「分かった」


 躊躇うな……本当に悪いと思うけど、大切な渚を健二になんか絶対に渡したくない!


 俺はジュースが入ったコップを渚に差し出した。


「ありがとう」と、渚は言って受け取り、口に付け──。


「あ……」

「ん?」


 俺が声を漏らしたから渚はコップから口を離した。


「え? まだ飲んじゃ駄目だった?」

「あ、いや。そんなんじゃないよ」

「良かった」


 渚はまたコップに口をつけ、ゴクゴクと美味しそうにジュースを飲んでいく。


 本当にごめんな、渚……お前の気持ちも考えないでこんな事する俺も健二と一緒で、どうしようないクズだ。


「晴彦、ポテチ取って」

「あ、うん」と、返事をして、机にあるポテチを手に取ると、渚に渡す。


「ありがとう」


 だけど一週間だけで良いから、俺に付き合って欲しい。そうしたらちゃんと距離を置くから。


「晴彦、座らないの?」

「あ、座るよ」と、 俺は椅子を引き寄せ、座った。


「そっちじゃなくて、隣においでよ。一緒にポテチ食べよ」

「あ、うん」


 俺は立ち上がり、渚の隣に座る。なんだか照れ臭くて、距離をあけてしまった。


「はい、どうぞ」


 渚がポテトチップスの封を開け、俺の前に差し出してくれる。


「ありがとう。その前にちょっと良いかな?」

「なに?」

「あのさ――」


 落ち着け……これは惚れ薬の効果を確かめるためだ。


「渚は俺のこと、その……好き?」


 渚は黙ったまま顔を俺から逸らし、ソッとポテトチップスの袋を絨毯の上に置く。


「うん……好き」


 効いてる!? ――いや、まだ確かめないと。


「それは友達とか幼馴染として?」


 渚の頬が赤く染まっていき「それを言わせるの?」


 渚らしい返答だ。


「ごめん。じゃあさ、俺と付き合ってくれないか?」


 渚が擦り寄って来て、俺の二の腕に頭を預ける。


「うん、いいよ」


 偽りだと分かっていても、なんとも言えない高揚感に駆られてしまう。あぁ……これが本当なら、どんなに幸せだろうか。

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