クラスで一番嫌いなあいつが、クラスの人気者である幼馴染に告白しやがった。あいつに取られるぐらいなら、俺が惚れ薬を使って幼馴染と付き合いたい

 その日の昼休み。いつものように、自分の席でお弁当箱を広げていると、ツヨシがお弁当を片手に、近付いてきた。


 ツヨシは俺の席に弁当箱を置くと、俺の前の席の椅子に座る。


「晴彦。渚ちゃんの話、聞いたか?」

「渚の話って何だ?」


「その様子だったら聞いてないみたいだな」と、ツヨシは言いながら、弁当包みを開け始め「今から言う事、落ち着いて聞けよ」


「落ち着けって何だよ。気になるな」

「渚ちゃん、健二に告白されたんだって」

「はい? ケンジって同じクラスの?」

「そう、同じクラスの」

「何でまた?」

「そんなの知らねぇよ。前から気があって、卒業近いから告白しようと思ったんじゃないの」

「へぇ……」


 くそ、まじかよ……よりによって何であいつなんだ。


 ツヨシはお弁当箱の蓋を開けながら「へぇって、それだけで良いの?」


「良いのって何だよ」

「本人に結果を聞かなくて良いの?」


 落ち着け……渚はサッパリした性格だから、気のない相手に曖昧の態度を取ったりはしない。


 いつも通りハッキリと断ったに違いない。


「別に……俺と渚は幼馴染なだけだし、付き合うかどうかは、あいつの勝手だろ」

「あっそ。せっかく教えてやったのに……」

「それはどうも」


 ツヨシは両手を合わせ、ハシを手に取る。俺もお弁当を食べようとハシを握った。


「ちなみに渚ちゃん、一週間だけ考えさせてって返事したらしいぞ」

「え? どうして?」

「どうしてって、俺に聞くなよ。仲が良いんだから、本人に聞いてみれば良いじゃないか」

「そりゃ……そうだけど……幼馴染だからって聞けないことだってあるだろ」

「ふーん……いずれにしても、後悔ないようにしろよ。陰ながら応援してやるから」

「ありがとう」


 ――渚の奴、なんで考えさせてって言ったんだ? 今までそんなこと、誰にも言ってこなかっただろうが。


 しかも何で、俺が一番嫌いな健二なんだよ。


 あいつは部活の最後の大会で、俺のバスケットシューズをゴミ箱に捨てて、レギュラーを奪った、どうしようもないクズだぞ? それはお前にも話しただろうがっ。


 ※※※


 国語の授業が始まり、それぞれが席に着く。俺は渚の斜め後ろから、渚の横顔をジッと見つめていた。


 渚……俺はどんな男にも取られたってお前が幸せなら仕方ないと思っていた。だけどやっぱり、あいつだけは駄目だ。


 あいつに渡すぐらいならいっそ……俺が付き合いたい。


「――はい次、鈴木。読んで」

「あ、はい」


 当てられてしまったので、慌てて教科書を持ち、音読を始める――。


「はい次、高橋。読んで」

「はい」


 俺は教科書から手を離すと、また渚の方へと視線を向けた。


 でも俺が告白したところで、他の振られた男たちと変わらないだろうな。


 そんな風に思っていると、渚との過去が走馬灯のように駆け巡り、何だかセンチメンタルな気持ちになってしまう。


「はぁ……」と、その気持ちを吐き出すかのように、周りに聞こえないぐらいの溜め息をつく。


 どうしたら健二から離す事が出来るんだろ? あいつの悪口を言う? ――いや、逆に俺が嫌われるかもしれない。


 そんなの嫌だ。他に……他に……駄目だ。全然、思いつかない! 俺は頭を抱える。こんな調子で大丈夫か? 


 確かツヨシは一週間だけ考えさせてって言っていた。渚がいつ告白をされたか分からないけど、グズグズなんてしていられない。


 ※※※


 放課後になり、俺は教室を出ると玄関に向かった──下駄箱を開けると、見なれない小さなビニール袋を見つける。


「ん? 何だこれ?」

 と、ビニール袋を手に取り、開けてみる。


 そこには白い便箋と茶色の小瓶が入っていた。とりあえず四つ折りにされている手紙を開き、読んでみる。


『晴彦君へ』と、最初に丸くて可愛らしい字で名前が書かれていた。


 女子? いや、男でもこんな字を書くやついるからな。


 俺の名前が書いてあるって事は、少なくとも俺の知り合いか?


『渚さんの噂を聞きました。私は相手の男の人を生理的に受け付けません。厚かましいお願いですが、どうか同封した惚れ薬を使って、相手を諦めさせてください。説明書は瓶の中に入っています。あなたの協力者より』


 あ? 何だって!? 廊下から足音が聞こえてくる。俺は慌てて、手紙を折り畳み、袋にしまった。


 ──平静を装い、靴を履きかえると外に出る。


「晴彦、じゃあな」と、ツヨシが自転車で通り過ぎていく。


 俺は歩きながら手を振り「おう、またな」


 ──確か朝、渚が見せてくれた惚れ薬の瓶も茶色だったな。でも茶色の瓶なんて腐るほどあるし、本当かどうかは分からない。


 まぁどの道、こんなにガヤガヤと人が帰っていくところで、見るもんじゃないし、帰ってから、ゆっくり見るか。


 ※※※


 家に帰り手洗いうがいを済ませると直ぐに二階にある自室へと向かう──部屋に入ると机に向い、薬が入ったビニール袋を置くと、椅子に座った。


「さて……どんなことが書かれているんだ?」


 俺はビニール袋を開け、薬を取り出す。蓋を開けると錠剤と一緒に、折り畳まれた説明書? が入っていた。


「なんだこれ? ピンクのハート型って胡散臭いな」


 とりあえず説明書を広げ、読んでみた──。


 なにか色々と書いてあるけど、要は惚れさせたい相手に飲ませて、一番最初に見られれば良いだな。


 効果が持続するのは使用量によって違って、1粒で1週間程度。2粒で1ヶ月。3粒で年と増えていって、5粒で永遠の大人の愛へとなっていく。


 永遠の大人の愛って……そんなの書かれたら、ちょっといけない気持ちになっちゃうよな。


「大体分かったけど、どうするか? これを使えば何とか凌げそうだけど、ちょっと怪しい雰囲気があるし、使って大丈夫のものなのか?」


 説明書を机に置き、天井を見上げて考えてみる──。


「効果があるかも分からないし、心配だから自分に使ってみるか……でも、誰に? 家族や友達は嫌だろ。渚は……考えるまでもないし──そうだ!」


 俺は惚れ薬を一粒、瓶から取り出すと、説明書を瓶の中にしまい、蓋をする。惚れ薬を持ったまま一階に向かった──。


「丸~……丸~……」と、柴犬の丸を呼ぶと、居間からヒョッコリ、丸が顔を出した。


「そこに居たのか」


 丸は呼ばれた事が嬉しかったようで、尻尾をブンブンっと振って近づいてくる。


 ちょっとドキドキするが、いきなり渚に使う訳にはいかないもんな。


 ──俺は意を決して惚れ薬を口に入れた。すぐに丸をジッと見つめる。丸は俺の前にチョコンと座り、まだ尻尾を動かしていた。


「可愛い奴め~」と、丸の顔を揉みくちゃにする。


 丸は嫌そうな顔? を浮かべながらも逃げる事無く、されるがままだった。


「考えたらこれ、意味あるのか?」


 俺と丸は相思相愛! 惚れたかどうかは分からないじゃないか!


 ──まぁ、体に害があるかどうかぐらいは分かるか。

 これで明日まで様子を見てみよう。


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