スクールカースト上位になるほど可愛い転校生がやってきた。俺には関係ないと放課後、誰も居ない教室で過ごしていたら、彼女が涙を流しながら入ってきました

 次の日の朝、教室内がどよめく。原因は竹内さんだった。


「架純! どうしたの? その恰好」とクラスメイトの女の子が竹内さんに近づくと、竹内さんは「何も驚くことないよ。前に戻っただけ」


 竹内さんはピアスを外し、髪の毛をバッサリ切って、ショートヘアにしており、黒髪のストレートになっていた。周りに合わせるのを止める決意をしたのかな? 気になるところだけど、ソッと見守る事にする。


 ──放課後になり、俺はいつものように読書を始める。だけど、どうも落ち着かない。きっと心の奥底で、竹内さんがガラガラガラ……と教室のドアを開け入ってくるんじゃないかと期待しているからだと思う。


 ──それから数時間が経過する。教室には竹内さんどころか誰も入ってこなかった。俺は本を閉じると、「そんな訳ないか」とボソッと呟く。


「何を期待しているんだか……」


 ※※※


 数日が経ち、俺はいつもと変わらぬ日々を過ごしていた。竹内さんはやっぱり少し変わり、派手なグループとは関わらなくなっていた。それでも男子の人気は健在で、むしろファンが増えたのでは? と思う事が多々あった。


 今日はバレンタインデー、俺には全く関係のない日だ。この日は男子も女子もソワソワして、長く教室に居るから帰ることにする。


 校門を出ていつものように通学路の並木道を歩いていると「長戸君」と、聞き覚えのある女子生徒の声がした。


 俺は歩みを止め、後ろを振り向く。声を掛けてくれたのは竹内さんだった。竹内さんは駆け寄ってきて俺の前で立ち止まると、息を整える。


「もう! いつもここに居るからって言ったじゃん! 何で教室に居ないの?」


 竹内さんは何やら怒っているようで、不機嫌そうにそう言った。


「ごめん。今日はほら、教室に残っている人が多そうだったから、帰ることにしたんだ」

「あぁ、なるほどね!」

「よく俺が学校から出たって、分かったね」

「探し回った後に、まさかと思って下駄箱をみたら、靴がなかったから」

「あぁ、そういうこと。悪かったね、それで何で探していたの?」

「えっと──」


 竹内さんはそう言ってブレザーの制服のポケットに手を突っ込む。濃いピンクのリボンが付いた薄くて可愛いピンクの袋を取り出すと、「はい」と俺の方へと差し出してきた。


「これって……」


 思わぬ出来事に言葉が出てこない。今日はバレンタインデー……ということは、この袋の中身はチョコ? だけど、どうして?


 俺が戸惑っていると、竹内さんは更に袋をズイッと突き出す。


「この前の御礼」

「あぁ! なんだ、そういう事か!」


 俺は手を差し出し、袋を受け取ると「そんなの気にしなくて良かったのに。ありがとう」


「あなたのおかげで少しずつだけど、周りを気にせず過ごせるようになってきたから」

「俺のおかげって……俺は何もしてないけど?」

「うぅん。あなたがいつもここに居るからって言ってくれたから、私は安心して一歩を踏み出せるようになったんだよ。だからあなたのおかげ」

「そう、それなら良かった」


 なんか面と向かってそんなことを言われると恥ずかしい。あの時の返事は間違っていなかったんだな。


 そう思いながら、貰った袋を眺めていると「──ねぇ」と、竹内さんが話しかけてくる。


「ん?」と、返事をしながら竹内さんの方に視線を向けると、竹内さんは心なしか顔を赤くしているように感じた。竹内さんは両手を後ろで組むと、体を少し傾ける。


「それ──本命かどうか聞いてくれないの?」


 竹内さんの言動が可愛らしくて、ドキッ! っと心臓が高鳴り、体がカァっと熱くなっていく。こりゃ反則だよ。


「えっと……さっき御礼だって」

「うん。言ったけど──義理とは言ってないよ?」

「じゃあ……」


 もう本命だって言ってるようなもんじゃない? 竹内さんも気づいたようでハッとした表情を一瞬浮かべると、すぐに照れくさそうに微笑む。


「もう本命だって言っているようなものね」

「う、うん」


 竹内さんは落ち着かない様子で髪を撫で始める──。しばらくして意を決したように手を止めると「バレちゃぁ、しょうがない。正直に言います! 私、前からあなたの事が気になっていました」


「え……俺なんか、どうして?」

「最初はクラスメイトと仲が悪い訳ではないのに、何で長戸君は関わらないんだろ? って不思議に思って、目で追っていたのがキッカケ。それで決め手はやっぱり、あの日の優しい言葉、あれでグッと好きになっちゃった」


「マジか……そんな素振り無かったから気づかなかった」

「気分を悪くしたら、ごめんね。それは周りと合わせるために、ずっと隠していたからなんだ」


 竹内さんはスッと近づき、遠慮しているのか優しく俺の手に自分の手を重ねる。


「だけど今は違う。そんな事する必要ないから」


 俺は竹内さんの気持ちが嬉しくて、今までのことを振り返りながら竹内さんの手をギュッと握った。


「──俺、自分に自信が無いから、ずっと高望みはしないと過ごしていた。だけど竹内さんが本当の事を伝えてくれたから、俺も素直な気持ちを伝えたい。俺も竹内さんの事が好きでした。お付き合いしてください」


 竹内さんはクシャっとした可愛らしい笑顔を浮かべ「もちろん!」と返事をしてくれる。俺たちは手を繋いだまま、肩を並べて歩き出した。


 こんな可愛い彼女が出来るなんて、人生なにがあるか分からない。だから自分はダメだ。そう決めつけて動かないのは、本当は勿体ないことなのかもしれない。少しずつでいい、俺も竹内さんのように変われたら……そう思いながら、幸せをかみしめて、家に帰った。


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