スクールカースト上位になるほど可愛い転校生がやってきた。俺には関係ないと放課後、誰も居ない教室で過ごしていたら、彼女が涙を流しながら入ってきました

 ある日の高校二年の春、転校生がやってきた。


 前の学校のセーラー服を着ていて、髪は黒のセミロングだが、毛先にパーマを掛けていて、少し大人びているように感じる。クリッとした目が可愛らしく、整った顔をしていて、とても可愛い女の子だ。周りの男子がどよめくのは、無理はない。


「竹内さん、自己紹介して」と、担任が言うと竹内さんは深くお辞儀をする。


「〇〇高校から転校してきました竹内 架純カスミです。早くクラスに馴染めるように頑張りますので、仲良くしてもらえると嬉しいです」


 竹内さんは臆することなくハキハキと自己紹介をすると、ニッコリ微笑む。クラスメイトは歓迎の拍手をしていた。


「じゃあ竹内さん。空いている席に座って」

「はい、分かりました」


 残念……彼女の席は一番前の窓側、俺の席は一番後ろの出入り口側だ。


 まぁ隣だったとしても、俺には関係のない事。あれだけ可愛くて、社交的な印象のある女の子だ。きっと彼女はそう遠くないうちにスクールカースト上位になるだろう。興味がない訳ではないが、高望みはしない。俺は自分のことをよくわかっている。


 ※※※


 それから数か月が経過する。竹内さんは茶髪にピアスとドンドンあか抜けていき、俺の予測通り、手の届かない人気者になっていた。いまもクラスメイト数人に囲まれ、キャッキャと会話を楽しんでいる。俺はそんな竹内さんを横目に教室を出た。


 高望みはしないなんて思っていても、可愛い女の子を目で追ってしまうのは男の性というものだろうか? 


 ──そんなことを考えながら図書室に着くといつものように本を選び時間を潰す。しばらくして、本を借りると図書室を出た。


 廊下を歩き、教室に戻ると自分の席に座る──この時間帯は既に帰っているか、部活に行っているので誰も居ない。俺はいつもこうして夕日が差し込む静かな教室で読書を楽しんでいた。


 少ししてガラガラガラ……ッと、俺が座っている後ろ側のドアが開き、俺は読むのを止めて、誰だ? と視線を向けた。すると驚いた顔で立っている竹内さんと目が合った。彼女はなぜか、目に涙を浮かべていた。


「どうしたの?」と俺は思わず聞いてしまう。彼女は何も言わずにピシャリと教室のドアを閉めてしまった。


 まぁ当然の反応だと思う。誰だって泣いている姿なんて見せたくないだろう。特に俺みたいな奴なんかに……そう思いながらまた本を開き読み始める──だけどどうも集中できない。


 そんな風に思っていると、今度は前側のドアがガラガラガラ……ッと開く──入ってきたのは竹内さんだった。帰ってなかったのか。


 竹内さんは自分の席の方へと進み、俺に背を向け黙って座る。さっきは話しかけてしまったが、今度は様子を見るため俺は黙って小説の続きを読み始めた──。


「ねぇ」


 微かに竹内さんがそういった気がして、チラッと視線を向ける。だが竹内さんは俺に背を向けたままだった。


 気のせいか? そう思い、小説を読み続けていたら「──ねぇったら!」と、苛立ちが混じった竹内さんの声がハッキリと聞こえてくる。


 驚いてまた視線を向けるが、竹内さんの姿勢はそのままだった。なんだ、さっきのは気のせいじゃなかったのか。


「ごめん。俺みたいなやつに話しかけてくるなんて思ってなかったから、スルーしちゃった。それでなに?」

長戸ながと君っていつもここに居るの?」

「うん」

「一人で?」

「うん、一人でここに残って読書を楽しむのが好きなんだ」

「へえ……長戸君ってクラスメイトと関わっているところ、あまり見たことないけど、その……寂しかったり恥ずかしいと思ったりしたことないの?」

「え、普通にあるよ」


 竹内さんは余程、驚いたのかこちらにバッと体を向けると「え、あるの?」


「そりゃあるよ」

「じゃあ何で関わらないの?」

「んー……寂しいと思ったりするけど、それ以上に人と合わせながら過ごすのが嫌だなって思ってしまって。俺は出来るだけ自分の気持ちに素直でいきたいんだ」


 竹内さんはまた正面を向いて、俺に背を向けると「なるほどね。私はどちらかというと寂しがり屋で人の目を気にしちゃうタイプ。だから周りに合わせながら生きてきたんだ」


「そうなんだ」


 ──それ以上、掛ける言葉が見つからない。それが良いのか悪いのかは人それぞれだ。しばらく沈黙が続き、教室が静まり返る。


「さっきは見苦しい所みせて、ごめんね」

「あ、いや、大丈夫だよ」

「ありがとう。実はさっき、友達に抜け駆けしたでしょ? って言われちゃって、とある男子を好きなグループから外されちゃったの……私にそんな気は全く無かったんだけどね」


 竹内さんはそう言って、項垂れると「なんかもう、周りに良い顔して生きていくのが嫌になってきちゃった。どうしたら良いんだろうね」


 可愛い女の子に悩みを打ち明けられるなんて、まるで小説に出てくるようなシチュエーションだ。小説の主人公なら、ここでグッと来るようなセリフを言って、二人の仲は急接近するだろう。俺はそんな小説をいくらでも読んできた。でも──いざこうなってみると何も思い浮かばない。だからせめて──。


「俺はいつも、この時間帯にはここに居るから」とだけ伝える。


 竹内さんは何を言っているんだ? っと思っているのか微動だにしない。しばらく様子を見ると、スッと立ち上がりこちらを振り向いた。


「ありがとう。読書の邪魔をして悪かったね」

「あ、いや、大丈夫だよ」


 竹内さんはクスッと笑うと「バイバイ」と言って俺に手を振ってくれる。それだけで嬉しくて、口元が緩んでいるのが分かる。


「うん。また明日」と俺が返事を返すと、竹内さんは教室の出入り口の方へと歩いて行った──。


 ちょっと会話をして、悩みを聞いた。たったそれだけなのに今日が何だかとても特別な日のように感じた。


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