クラスメイトの容姿端麗な女子が3日間、私を好きにして良いよと言ってきた。罰ゲームだと分かっているので、そうさせて頂きます!

 わぁ……女子の部屋ってこんな感じなんだ。白を基調にしたスッキリした部屋だけど、所々にファンシーグッズが飾られていて可愛らしい。部屋はシーンと静まり返り、本当に俺たち以外、誰も居ない。


「どうぞ、座ってくださいな」と葵さんは言って、白いフカフカの座布団を置いてくれる。俺はそこへ向かうと、「あ、ども」と言って座った。葵さんは丸い小さなテーブルを挟んで向かい側に座る。


 まぁ……見掛けは誰も居ないが本当に誰も居ないのか? 変なことをした瞬間、出てきたりしないだろうか? 


 辺りをキョロキョロと見渡したいが、女子の部屋でそんな事なんて出来ず、黙ってテーブルを見据える。


「ふふ、緊張してる?」

「うん」

「私も。男子を部屋に入れる初めてだもん」

「へぇー、そうだったんだ」


 初めてと聞いて、嬉しくてドヤッ! と思ってしまう。葵さんは近くにあるモフモフしたウサギの縫いぐるみを膝にチョンと乗せると「じゃあ……何をしようか?」


「うーん、何をしようかね……」

「達也君は私に何かしてもらいたい事ないの?」

「え? 何かして貰いたい事?」

「例えば……膝枕とか!」


 えぇ~~~! 憧れだったからメッチャしてもらいたい!! でもこれは罰ゲーム。そのあとどうなることやら──あ~でも……えぇい!! その後なんてどうでもいい! 心を剥き出しにしろ!!!


「して貰いたいです」


 葵さんは床に縫いぐるみを置くと、胸の前でパンッと両手を合わせて「よし、決まり!」と言って、立ち上がる。


 俺の横に来ると「ねぇ、服装はこのままで良い? それとも制服?」


「ブッ!! 制服……さすがにそれは──鼻血が噴出しそうなので、止めておきます」

「ふふ、分かった。じゃあ、こっちに来て」と葵さんは言って、正座をした。


「本当に良いの?」

「うん、良いよ」

「それじゃ遠慮なく──」


 ゴクリと固唾を飲んで──柔らかそうな葵の太ももに頭を乗せる。


 おぉ~!! これは良いぞ!!! と興奮していると、葵さんは照れくさそうに俺の顔を見つめ「ねぇ、何で正面を向いているの?」


「その方が葵さんの表情が見れて良いから」

「えっと……恥ずかしいんだけど」と、両手で顔を覆う葵さんをみて、本当に可愛いなと思う。


「じゃあ、目を瞑って少し休ませて貰うよ」

「うん。それなら大丈夫」


 ──そうは言っても、こんな興奮している状態で眠れるはずもなく、俺はしばらく目を瞑り様子を見る。


「達也君、もう寝た?」


 ここで返事をしてしまえば、もう終わりと言われてしまいそうで俺は寝たふりを続けた──。


「どうやら、寝たようね」と、葵さんは言うと優しく俺の髪を撫で始める。あぁ……これも良いな。何だか昔を思い出し、落ち着く──。


「こんなの……ちっとも罰ゲームじゃない」


 葵さんがボソッと呟くと、髪を撫でていた手が止まる──フワッと石鹸の良い匂いがしたかと思うと、唇に湿った柔らかいものが当たった。え、ちょ、これってまさか! キ、キス!?


 あぁ~~~!!! いますぐ目を開けて確認したい!! そしていま、葵さんがどんな表情をしているのか確認したい!! でも、そうすると寝たふりがバレてしまうし……。


 葵さんはまた俺の髪を優しく撫で始め「あ……でも直ぐに離れ離れになっちゃうから、罰ゲームみたいなものか、寂しいな。──いま言っても意味はないけど、こんなチャンスもうないからハッキリ言っちゃうか。──達也君、君のこと好きだよ」


 もう我慢できないよッ!!! 俺は目を開けたい衝動を抑えきれずパッと目を開いた。


 葵さんは手を止め、驚いた表情を見せるが、直ぐに恥ずかしそうに微笑むと「寝たふりなんてズルいぞ」と言って、俺のおでこを人差し指でツンっと突いた。


 かわぇぇ~~!!! 何だこの可愛い生物。俺はゆっくり起き上がり、葵さんの方へと体を向ける。


「全部、聞こえてた?」

「ごめん、興奮して眠れなくて」

「そう……」

「あのさ」

「なに?」

「罰ゲームなんかにさせないよ」


 俺がそう言うと葵さんは驚いた表情をみせ「え……」と声を漏らす。


「葵さんとはあまり話してこなかったけど、ここ数日の数時間がとても特別で、もっともっと君の事を知りたくなった。俺、時間見つけて会いに行くから。電話だって迷惑じゃない限りするから、だから──罰ゲームなんかにさせないよ」


 葵さんは両手で顔を覆うと涙を浮かべながら「嬉しい……ありがとう」と言ってくれた。俺はそんな葵さんを包み込むかのように抱きしめ「俺と付き合ってください」


「はい……喜んで」


 ※※※


 その後、落ち着いたところで俺は罰ゲームの経緯を教えて貰った。クラスメイトの性悪女が、人気者の葵さんに嫉妬して、嫌がらせをするため自分に有利な罰ゲームを仕掛けてきたとの事だった。


「まぁゲームだし、もうすぐ転校だから断ることが出来たんだけどね」

「じゃあ、何で断らなかったんだ?」


 葵さんは俺の顔をジッと見つめ「もう、分かっているくせに。そんなに言わせたいの?」


「はい、聞きたいです」

「しょうがないなぁ……君が好きだったけど、消極的な私は近付く事が出来なかったから、これを利用して近付きたかったからです~。これで満足?」

「満足じゃないかな」

「え~、正直に話したじゃん」

「違うよ。正直に話してくれたのは満足だけど、君がやられっぱなしのようで満足じゃない」


 葵さんは驚いているようでキョトンとした表情で固まっている。


「あのさ、俺も今までやられっぱなしで満足していないんだ。だからお願いしたいことがあるんだけど」

「え、なになに」

「明日さ──」


 俺は明日、やってもらいたいことを説明する。葵さんはやる気満々のようで笑顔で聞いていた。


 ※※※


 次の日、俺たちは教室のドアの前で手を繋ぎ、ドアを開けると、元気よく「おはよー」と二人で一緒に入っていった。


 見慣れない光景にクラスメイトはビックリしているようで、妙に静まり返っている。


 俺は悪戯をして優越感に浸っていたクラスメイトにドヤッ! 葵さんは嫌がらせをした性悪女にドヤっ! 顔を披露し、教室の真ん中で立ち止まった。


 顔を見合わせ「せーのッ」と声を掛けると、「俺たち、付き合うことになりましたので、よろしく!」とお辞儀をした。クラス内はようやく、どよめきだした。


 いままで悪戯されてきたことにモヤモヤしていたが、いまは感謝をしている。俺がこんなにも大胆になれたのは、こなくそッ! って気持ちがあったからだ。葵さんはどうなんだろ?


 俺たちは顔をあげると、お互い顔を見合わせた。葵さんは「ふふ」と笑い、とてもスッキリしたような表情をしている。どうやら葵さんも、俺と同じ気持ちだったようだ。


 ざまぁ、あざっす!!!


 俺たちはこうして、二人仲良く過ごし幸せに暮らしましたとさ。

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