クラスメイトの容姿端麗な女子が3日間、私を好きにして良いよと言ってきた。罰ゲームだと分かっているので、そうさせて頂きます!

 約束の最後の日となる日曜日。俺はバッチリおしゃれをして、待ち合わせ場所の公園へと向かった――。


 待ち合わせ場所のベンチ前に来ると、10分前だというのに葵さんは座って待っていた。


 葵さんは白のブラウスに黒のロングスカートを履いていて、いつもは茶髪を下ろしたロングヘアなのに、髪をアップにした大人っぽい姿になっていた。


 俺は葵さんに近づき「お待たせ」と声を掛けた。葵さんはスッと立ち上がり微笑むと「そんなに待ってないよ」


 葵さんが動いたことで石鹸のような良い匂いが漂ってくる。顔をよく見るとメイクをバッチリしていて、ちょっとビックリしてしまった。なんだよ……罰ゲームだからラフな格好で来るかと思ったら、ガチじゃないか。


「えっと……それじゃ行こうか?」

「うん!」


 俺たちは電車に乗って、ショッピングモールに向かう。特に目的がなかった俺たちは上から順へと回っていった。


 ──偽りの関係だと分かっていても、葵さんと会話をしていると楽しくなる。通りで人を惹きつける訳だ。俺は楽しさのあまり注意力が欠け、葵さんの手に自分の手をコツンッと当ててしまう。


「あ、ごめん」

「うぅん、大丈夫」


 ──それから会話が途切れ、気まずい空気が流れる。葵さんは歩きながら「ねぇ、達也君」


「なに?」

「手……繋いで良いんだよ?」

「え、良いの?」

「うん、好きにして良いって言ったじゃん。嫌だったらちゃんと断るよ」


「分かった」と俺は返事をして、固唾を飲みこむ。ゆっくり葵さんの手の方へと自分の手を伸ばし──ソッと手を繋いだ。


 スベスベしていて柔らかい手……それにすごく温かい。周りにからかわれても良い……このままずっと手を繋いでいたい。


 ※※※


 俺たちはショッピングモール内にあるレストランでへ移動し、食事を済ませると、コーヒーを頼んだ。


「この後、どうする?」と俺が質問すると、なぜか葵さんは俯いて黙り込む。


「──あのね。その……うちの両親、日曜日が仕事だから家には夕方まで誰も居ないよ」

「へぇー、そうなんだ」


 俺はそう返事をしたが、葵さんからは何も返ってこなかった。


 しばらく様子を見ていると、葵さんは口を開き「へぇ、そうなんだじゃないよ! 男の子だったら、その先はないの!?」


 そう言った葵さんの口調がちょっと強く、ご立腹なのだと感じる。そうは言われてもねぇ……それ以上先に踏み込んでも良いものなのだろうか?


 葵さんは「私はこれ以上、言わないからね。あとは達也君が好きなようにして」と言って子供の様に可愛らしくホッペを膨らませる。


 自分から誘わないのはクラスメイトと交わしたルールなのかな? それともマイルール? 良く分からないが、はてさてどうするか──。


 クラスメイトの罠のようだけど、不思議といつものような嫌な予感がしない。でも油断は出来ないし……ヤバかったら逃げる! これ一択で先に進んでみるか。女子の部屋に行くなんて、これから先、無い可能性もあるからな。


「じゃあ……遊びに行っていい?」

「うん!」と葵さんは返事をして、ベージュのハンドバッグを手の取り、立ち上がろうとする。


「あれ、まだコーヒー来てないよ」

「あ、そうだった」


 葵さんはそう言って、恥ずかしそうに髪を撫で始めた。あわてんぼうの所もあるんだな。学校じゃ見られない葵さんの一面を見ることが出来て、俺は「ふふ」と、つい笑ってしまった。


「笑わないでよ」

「ごめん、可愛くてついつい」

「もう……」


 ──俺たちはゆっくりコーヒーを楽しむと、さっそく葵さんの家へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る