クラスメイトの容姿端麗な女子が3日間、私を好きにして良いよと言ってきた。罰ゲームだと分かっているので、そうさせて頂きます!

 高校2年の冬。担任の言葉に教室内がどよめく。クラス──いや、クラス以外でも人気者のある容姿端麗な笹原 葵さんが転校するというのだ。


 葵さんとは前に委員会が一緒だったぐらいで、あまり関わり合いがなかったけど、クラスメイトが居なくなるのは何だか寂しい。


 ホームルームが終わり、クラスメイトがゾロゾロと葵さんの周りに集まる。きっと転校の事をあれこれ聞いているのだろう。俺もちょっと聞いてみたいし、転校する前に挨拶ぐらいはしておきたい。でもあれじゃ、無理だな。そう思って放課後まで様子を見ることにした。


 ──放課後になり、クラスメイトがチラホラ帰っていく。そんな中、まだ葵さんの周りには人が集まっていた。本当、人気者だな。仕方ない、直ぐじゃないだろうし今日は帰るか。俺は通学鞄を肩に掛け、立ち上がった。


 一人でいつものように通学路の並木道を歩いていると、ポンっと後ろから誰かに肩を叩かれる。そんな事が無い俺はビックリして慌てて後ろを振り返った。


「ビックリした?」


 俺は肩を叩いた相手をみて、なおビックリする。


「葵さん……どうしてここに?」


 葵さんはクスッと笑うと「どうしてここにって、帰り道。こっちだもん」


「それは知ってるけど、さっきまで葵さんの周りには人が集まっていたじゃないか」

「よく見てるね。切りがなかったから、適当な事を言って抜け出してきちゃった」

「あぁ……人気者は大変だね」


 葵さんは青く澄み渡る空を見上げ、腕を後ろで組んで歩き出す──色々と聞ける絶好のチャンスなのに、こうして肩を並べて歩くことが、もう奇跡のようで、なかなか言葉が出てこない。


「──私ね。転校するのは一週間後なんだ」

「え、そんな直ぐなの?」

「うん、本当は結構前から分かっていたんだけど、なかなか言い出せなくて」

「そうだったんだ……場所は県外?」

「うん、県外。──だからクラスの皆とはなかなか会えなくなるかな……」と、葵さんが悲しそうに言うので、俺も何だか悲しい気持ちになる。


 葵さんは空を見上げるのをやめると、俯きながら「だから達也君。3日間、私を好きにして良いよ」


「え!?」と驚きのあまり声を漏らすと、葵さんは悲しげな表情のままこちらに顔を向け「罰ゲームなの」


「あ、あぁ……そういうこと」


 嬉しさのあまり一瞬、テンションがマックスになったが、それを聞いて一気に転落する。俺は何処にでもいる平凡な高校生。だけど大人しいせいなのか、こういう系の罰ゲームの対象にされることが多々あった。


 さて、どうするか? 葵さんの心境は転校までクラスの皆と仲良く暮らしたいから断れなかった。そんな所だろうか? 正直、俺の気持ちも考えずに自分勝手だなと思う。でもその気持ちは分からないでもないし、こんな可愛い女の子を好きに出来るんだ。悪くない話かもしれない。


「じゃあさ──」と俺が言うと、葵さんは強張った表情で固唾を飲みこむ。


「俺と友達になってよ」


 俺がそう言うと、葵さんは安心したかのように微笑み「何言ってるの。達也君とはもう友達だよ」


 友達なのに、罰ゲームを実行するのか。そうは思ったが──。


「じゃあ今度の休みにデートしてくれない?」

「うん、良いよ」

「え?」

「ん?」

「いや、何でもない」


 やけにあっさり承諾したな。もっと『え~、それはちょっと』とか言われるかと思った。まぁ、男友達と出かけるなんて、葵さんにとっては日常茶飯事のことなのかもしれない。


「じゃあ連絡先を交換しようか?」

「あ、うん」


 俺たちはこうして連絡先を交換し、世間話をして帰った。

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