美人な幼馴染に振られてしまったけど、もう一人の可愛い幼馴染は俺に優しいです!

 公園のどこかで鳥のさえずりが聞こえる長閑のどかな朝。


 俺は学校に行く前に話がしたいと違う学校に通う幼馴染からメールを受け取り、ベンチに座って待っていた。


 そろそろ来るかな……と、入口に目を向けると、セーラー服姿の美香が、セミロングの茶色い髪を耳に掛けながら、近づいて来るのが見える。


 美香は俺と目が合ったはずなのに、表情一つ変えない。彼女の目は切れ長でカッコイイと思うけど、こういう時、どこか冷たさを感じてしまう。


「おはよう」と、俺が立ち上がり挨拶をすると、彼女は俺の前に立ち「おはよう」と素っ気なく返してくる。


 何かがおかしい……俺、美香を怒らせるようなことをしただろうか? ──いや、まったく心当たりはない。


「あのさ、メールの話したい事ってなに?」


 俺がそう声を掛けると美香は通学鞄を自分の前に持ってきて、イルカのキーホルダーを外し始める。何だか嫌な予感がする……あれは俺たちが初めてデートをしたとき、合わせるとハートになるから可愛いねと言うから買ってあげたものだ。それを外しているということは──。


「これ……」と、美香は眉を顰めながら、キーホルダーを俺の前に突き出してくる。これが何を意味しているのか、鈍感な俺でも気づく。それでも──。


「なに?」

「これ、返す」

「何で?」


 怒りが込み上げてきて、自分でも口調が強くなっていることが分かる。


「ごめんなさい。──他に好きな人が出来たの。だから別れて欲しい」


 怒りが頂点に達し、フルフルと拳を震わせる。はぁ!? ふざけんなッ!!! と、怒鳴り散らしたい……でも、みっともない気がしてグッと堪え、美香の手からむしり取るようにキーホルダーを回収した。


「──分かったよ」

「それじゃ……」


 美香はそう言うと直ぐに俺に背を向け、公園の出口の方へと歩いていく。俺はそれを黙って見送った。


 ──美香は小さい頃からこうと決めたら曲げない性格。俺がどんなに話したところで、もう戻ることは出来ないだろう……。


 こうなる事は付き合い始めてから覚悟はしていた。美香は俺と違って偏差値の高い高校に通えるぐらいに頭がよく、美人で社交的、中学の時はモテモテで、恋多き女なんて言われるぐらい男なんていくらでも寄ってきていた。だから俺は必死で彼女に合う彼氏でいるため、努力をしてきた。それなのに──今までありがとうさえ無いのかよ。


 ※※※


 もう終わったことだ。気にするなと心に言い聞かせながら通学路の並木道を歩く。それでも体は正直で涙が溢れ出そうになってくる。


「先輩、おはよぅ」


 後ろから、おっとりとした優しい声で挨拶してくれる愛実つぐみの声が聞こえてきて、俺は立ち止まり後ろを振り向くと「おはよう」と返した。


 ブレザーの制服を着た愛実は黒縁眼鏡をクイッと上げると、ニッコリ微笑む。その笑顔を見ただけで何だか少し安らいだ気がした。


 愛実は黒の艶のあるロングヘアを揺らしながら、ゆっくり近づき俺の前に立つと、後ろで手を組み、体を傾け「どうしたの?」


「え、何が?」

「いつもより、表情が暗い気がしたから」

「え、そう? ──寝不足だからかな」

「ふーん……」と、愛実は納得いかないような返事をし、体を戻す。

「何か、困ったことや悲しいことがあったら遠慮なく言ってくださいね」


 愛実はそう言って笑顔を見せる。この子はいつもそうだ。美香と違って俺をちゃんと見ていてくれている。


「ありがとう」

「いえいえ」


 俺たちは肩を並べて歩き出す。──さっきは嘘を言ってしまったが、誰かに聞いて貰って愚痴りたい。愛実もあぁ言ってくれたし……。


「あのさ──」

「なに?」

「ちょっと聞いて貰いたいことがあるんだけど」

「うんうん、聞くよ」

「今朝、俺さ──振られちゃった」

「え……?」


 愛実はそう声を漏らし、眉を顰めている。そりゃ行き成りこんなことを言われれば、そんな反応になるわな。


「どうして?」

「好きな人が出来たんだと。買ってあげたイルカのキーホルダーも返されちゃった」


 愛実はそれを聞いて強張った表情で眉を吊り上げ「何それ! 酷いッ!」


「だろ?」

「あの人はいつもそうだ! 欲しい物は何としてでも手に入れようとするくせに──」と、なぜかそこから愛実の愚痴が始まる。


 愚痴りたいのは俺だったが、黙って聞いていると不思議とスッキリしてきて、俺は思わずクスッと笑ってしまった。


 愛実はそれを見逃さなかったようで「あ! やっと笑ってくれたね先輩!」とニッコリと笑って「嫌なことがあった時は、とにかく笑うのが一番ですよ!」

 そうか、笑わせようとしてくれていたのか。

「ありがとう」

「いえいえ」


 俺たちはしばらく黙って歩き続ける──。愛実は突然、手を後ろで組むと空を見上げた。


「実はね──」

「ん?」

「私も最近、振られたんだ」

「え? そうなの? こんなに可愛くて性格の良い愛実を振るなんて勿体ない奴だな」

「お世辞なんて良いよ」

「俺、お世辞が嫌いだって知ってるだろ?」


 愛実はうつむくと恥ずかしそうに「うん」と小声で答えた。


「それ言ったら、先輩だって同じだよ。性格いいしカッコいいし勿体ないと思う」

「またまた~」

「本当だよ。私もお世辞が嫌いだって知っているでしょ?」


 確かに愛実は俺と一緒で、お世辞を言うぐらいなら黙ってしまうタイプだ。だったら本当か? 嬉しいな。


「うん。知ってる」


 お互い顔を見合わせてクスッと笑う。


「似た者同士だね」

「そうだな」


 愛実は後ろで腕を組むのをやめると、のぞき込むように俺の方を見て「──ねぇ、ちょっと提案があるんだけど」

「なに?」

「これをキッカケにお互いイメチェンしてみない?」

「え?」

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