憎たらしいクラスメイトが、お前みたいな冴えない奴を好きになる奴なんていないと言ってきた。いや、こんな俺でも好きになってくれる女子は居る! そう信じていたから、可愛い彼女が出来ました!

 高校の人気のない体育館裏。そこでブン殴りたいほど不愉快な声で、クラスメイトのあつしが腹を抱えて笑っている。残念なことに俺は、下駄箱に入っていたラブレターが悪戯だと思いつつも来てしまったのだ。


「あー、面白れぇ……お前みたいな冴えない奴を好きになってくれる女がマジで居ると思っていたのかよ?」


 篤は俺に近づき、気安く肩に手を乗せると「そんな奴、いる訳ねぇだろ」と言って、笑いながら去っていった。


 怒りで体が震える。何も言い返せなかった自分にも腹が立つ。俺を好きになってくれる人は居ない? そんなの……分からないじゃないか。


 ※※※


 それから数日が経った昼休み。やる事もなくボケーっと黒板を見つめていると、「夢斗君、机の下にキーホルダーが落ちとるよ」と、誰かが優しく声を掛けてくれる。


 慌てて声の方に体を向けると、ウェーブの掛かった金髪ロングヘアを耳に掛けながら、鈴木 愛羅あいらさんがキーホルダーを拾ってくれていた。


 俺は直ぐに受け取り、紺色のブレザーのポケットにしまうと「あ、ありがとう」


「何で直ぐ隠すん?」

「え、そりゃ……ねぇ。高校生なのにとか、馬鹿にされるのが嫌で」

「ふーん……うちはそんなの気にしないから、大丈夫よ」

「はは……ありがとう」


 愛羅さんは隣の空いた席に座ると「さっきのキーホルダー、醜い魔法使いのアルウィンやろ? 好きなん?」


「うん、小学校の時にテレビで観てから好きなんだ」

「うちも好きやよ」

「へぇー、そう言ってくれる人、周りに居ないから嬉しいな」


 愛羅さんはニコッと微笑むと「なぁなぁ、夢斗君は〇〇テーマ―パーク行ったことあるん?」


「うん、大好きだから何回も行ってる」

「じゃあ、じゃあ。うちと二人だけで、そのテーマパークへ行かない? 醜い魔法使いのアトラクションあるんやろ?」

「え?」


 いきなりのお誘いにビックリして固まっていると、愛羅さんは悲しそうに首を傾げ「うちとじゃ嫌か?」


「あ、ごめん。嫌とかそんなんじゃなくて、良いのかな? とか色々考えちゃって」

「うちは大丈夫よ」

「じゃ、じゃあとりあえず連絡先、交換しようか?」

「そうね」


 こうして俺たちは連絡先を交換する。始まりのチャイムが鳴ったので、愛羅さんは「じゃ、また」と言って、手を振り自分の席の方へと戻っていった──。


 それにしても驚いた……僕は平凡で大人しい性格。だから派手で積極的な性格の愛羅さんとは一生、関わり合いが無いと思っていた。それが二人だけで、しかもテーマパークに行く? ──本当に良いのかな?


 ※※※


 断る理由もなく、俺は日曜日になると待ち合わせの駅に向かう。ネットでカジュアルな服を探して買ったけど、これで大丈夫だったかな……そう不安に思っていると、愛羅さんが小さく手を振りながらやってくる。


「ごめんな、遅くなって」と愛羅さんは言って、申し訳なさそうに眉を顰め、金色イヤリングを揺らしながら「服選びに迷ってん」


 愛羅さんの服装は白いシャツに黒のインナーを着ていて、デニムのショートパンツを履いていた。普段もスカートを短くし履いているけど、この服装も目のやり場に困ってしまうほど短い。だけど「──愛羅さんらしい服装で良いと思うよ」と素直な気持ちを口にした。


 愛羅さんは俺の前で立ち止まり、二カッと明るい笑顔を見せると「ありがとうな。夢斗君はいつもそんな感じなん?」


「あ、いや……実は慌てて買ったんだ。普段はもっとラフな格好をしてるよ」

「そうなんや。今度からは普段着で良いからな」

「うん。ありがとう」


 ──ん? いまサラッと返事をしてしまったが、今度から?


「ほな行こうよ」

「あ、うん」


 愛羅さんはせっかちなのか、それとも余程楽しみにしているのか、スタスタと俺を置いて歩き出す。俺は慌てて後を追い掛けた。


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