親の再婚で義理の妹と同居するようになった。天真爛漫で可愛い妹は俺に懐いてくれているけど、俺は君に手を出せない

 夜になり、明日の講義の準備をしていると、テーブルに置いてある携帯が鳴る。俺は手に取り、着信画面を確認すると電話に出た。


「もしもし、父さん。どうかしました?」

「香澄だが、そっちに遊びに行ってないか?」

「いえ……来てないですけど、どうかしたんですか?」

「いや……来ていないんなら良いんだ。夜遅くに悪かったな」


 正さんはそう言って、直ぐに電話を切った。喧嘩した原因を聞き出せるかと思ったが残念だ。


「電話?」と、パジャマ姿で浴室から出てきた香澄が質問してくる。俺はテーブルに携帯を戻すと「うん、電話」


「誰から?」

「父さんからだよ。香澄は居るかって聞いてきたから、とりあえず居ないと答えておいたぞ」

「ありがとう。それでOK」

「面倒な事になる前に解決しておいた方が良いよ」

「うん……分かってる……」と、か細く返事をするので、それ以上は何も言えなくなる。


 俺はパジャマを手に取ると「さーて、俺も風呂に入ってくるかな」と立ち上がり、風呂場へと向かった──。


 ※※※


 そんなある日のこと。俺は友人から最悪の事実を知らされる。俺は何もする気にはなれず、アパートの電気も点けないまま、ただ茫然と座っていた。


 香澄は出かけて、まだ帰って来ない。一体どんな顔して会えばいいんだろうか? そう思っているとガチャっと玄関のドアが開く。


「ただいま……」

「お帰り」


 香澄は靴を脱ぎ、部屋の中へと入ってくると「お兄、電気も点けずにどうしたの?」


「香澄こそ元気が無いようだけど、どうしたの?」


 お互いがお互いの気持ちを探るように質問する。香澄は洗面所で手を洗いながら「私は別に……疲れただけ」と返してきた。


「そう……なぁ、香澄。今日、出かけた先で何か無かったか?」


 俺がそう言うと、香澄は居間に来て、電気を点け「どうしたのお兄? なんか変だよ?」と言って、眉を顰めながら座布団の上に、静かに座った。


 このまま探り合いをしていても埒が明かない。俺は思い切って「今日、香澄が見た事……知ってるんだ」と打ち明ける。


「え……」

「その場にいた俺の友人が録画して送ってくれたから……亜希、浮気してるんだろ?」

「──うん」


 香澄は消え入りそうな声でそう言って、悲しげな表情で俯いた。


「何で初めに言わなかったの?」

「だってぇ……お兄がそれで傷ついたら、可哀想だなって思って……」


 香澄はそう言って大粒の涙を零し始める。慌てた俺は近くにあった洗濯物の山を崩し、ハンカチを取り出した。


 そして何も言わずに香澄に差し出す。香澄は「ありがとう……」と、受け取り、瞼にハンカチを押し当てた。


「ごめんな。俺のせいで嫌な思いをしたのに、気持ちを探るような真似をして。俺のために隠し事をしたまま過ごして欲しくないと思って、そうしちゃったんだ」

「うぅん、大丈夫だよ」


 ──それから会話が途切れ、時を刻む音だけが響き渡る。


「少し落ち着いた?」

「うん」と、香澄は返事をしてテーブルにハンカチを置く。


「それなら良かった」

「──ねぇ、お兄」

「ん? どうした?」

「こんな時に言うべき言葉じゃないと思っているけど、後悔したくないの。聞いて貰って良い?」

「どうぞ」


 香澄は目を閉じ大きく深呼吸をする。終わると目を開け俺を真剣な眼差しで見つめ「私……お兄のこと大好き。勘違いしないで、兄妹の好きじゃない。異性として好きなの」と口にした。


「え……ちょっと待って。香澄は俺のこと兄として慕ってるだけじゃなかったのか?」

「始めはそうだった。でも次第に兄としてじゃない事に気付いて。でもその時にはもう遅くって、お兄は亜希さんと付き合っていたの」


 驚きのあまり言葉にならない……本当に人生はどうなるか分からないものなんだな。


「私が突然、お母さんの手伝いをして家事を習ったのは、お兄がもし空いたら、すぐにサポート出来るようにするため……だから亜希さんの浮気を見つけた時は、内心すごく喜んでいた」


 香澄は俺から目を逸らすと「最低の女でしょ?」


「でもそれじゃ、大好きなお兄が不幸になってしまうかもしれない。そういう気持ちもあって、さっきは言い出せなかったの、ごめんなさい」


 正直、なんと言って良いのか分からない。嬉しい気持ちは当然ある。だけど今、それを伝えて良いのか? ちょっと違う気がする──少し考えて、ようやく絞り出した言葉は「そうか、ありがとう」だった。


「うん……」

「返事、ちょっと待っていてくれないか?」

「いらないよ。どうせ分かってるもん」

「そう……今日はもう遅いから寝ようか?」

「うん」


 俺達は寝る準備を済ませると、背中合わせで寝る。いつもは向かい合わせに寝るだけに、複雑な気分だ。──とにかく明日、亜希を呼び出して話をする。すべてはそれからだ。


「お休み、お兄」

「お休み、香澄」

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