いつもあなたに出来る訳ないでしょと煽って来る幼馴染に、俺は出来る奴だと分からせるため、好きな人に告白する


「え!? 大学進学とは聞いていたけど、県外なの!? そんなの聞いてないけど」


 いつも通り芽依と一緒に学校に向かっている途中、俺が県外の大学に行くことを告げると、芽依は驚きの声を上げた。


「そりゃ、そうだよ。いま言ったんだから」

「えっと……大丈夫なの? 一人で家事とかできる?」

「多分」

「多分って……」


 芽依は心配してくれているのか、俯き加減で立ち止まる。俺も立ち止まって、黙って様子を見ることにした──。


 芽依は顔を上げると眉を顰めながら「──あなたに……」と言い掛け、思っていることを消し去るかのように直ぐに首を振る。


 そして苦笑いを浮かべると「きっと出来るよね。子供じゃないもんね」と言って、歩き始めた。俺も合わせて歩き始め「うん」と返事をする。


 予想はしていたけど、あなたに出来る訳ないと言わないか……ちょっと寂しいな。俺はそう思いながら、寂しさを埋めるかのように芽依の手を握った。


 ※※※


 それから数日が経つ。芽依と俺はあれから進路の話はしていなかった。そんなある日、自分の部屋で受験勉強をしていると、突然、芽依から電話が掛かってくる。


「はい、どうした?」

「あのさ、いま時間あるかな?」

「あるよ」

「じゃあさ、近くの公園に来てくれない?」

「分かった。直ぐに行く」


 どうしたんだろ? 元気が無いようにも感じたけど。まぁとにかく行ってみるか。俺はラフな恰好のまま直ぐに公園へと向かった──俺が公園に着くと、芽依は俯きながら、街灯が近くにあるベンチに座っていた。


「おーい、芽依。お待たせ」と声を掛けると、芽依は顔を上げて立ち上がった。


「突然、ごめんね」

「大丈夫だよ、それよりどうしたの?」

「ん……直接会って、話ししたいなって思って」

「そう。とりあえず長くなりそうなら座ろうか?」

「そうだね」


 ──俺達はベンチに向かって歩き、並んで座る。芽依は直ぐに話を始めるかと思ったが、一点を見据えたままで、黙り込んでいた。話したいタイミングは誰にもある。急かしても仕方ないから、様子を見ることにした。


 俺が澄んだ夜空を見上げていると、「あのさ……」と、芽依が口を開く。


「ん?」

「進路の事……応援してるよ」

「ありがとう」

「──いつもの言って欲しい?」


 いつものってあなたに出来る訳ないってやつだよな?


「ちょっとね」

「そう……本音を言っても引かないでね?」

「引くわけないって、分かってるだろ?」


 芽依はクスッと微笑むと「そうね」


「本当はあなたから話を聞いた時、いつもの言おうと思った。だけど……意地悪な性格が顔を出して、寂しくなるから言わない方が良いんじゃない? そうしたら県内に決めてくれるかもよ? って言うから言えなくなっちゃって……ごめん」


 今にも泣き出しそうな顔で話す芽依をみて、俺はポンっと芽依の頭に手を乗せた。


「大丈夫、俺も同じ気持ちだったよ。芽依と離れるのは寂しくて、いっそ県内に決めてしまおうかと思った時期もあった」


 俺は芽依の頭から手を離し、夜空を見上げると、「だけどね、俺が目指す大学には将来、俺の役に立つ学部があるんだ。俺……少しでも君と楽しく過ごせるように勉強しておきたいんだよ」


「湊……ありがとう」


 芽依はそう言ってポロポロと大粒の涙を流し始める。俺は慌ててズボンのポケットに手を突っ込み、涙を拭くものがないか探した。


「ふふ、大丈夫だよ」と芽依は笑うと、黒色のトレーナーから白のハンカチを取り出し「こんなこともあるかと思って、わたし持ってきてる」


「はは……良かった」


 俺はしばし芽依が落ち着くのを見守る。芽依はハンカチを上着に戻すと「ねぇ、湊」と話しかけてきた。


「なに?」

「一人暮らしなんて、あなたに出来る訳ないでしょ! 諦めたら?」


 あぁ……これだ。これが無くても大丈夫! そう思っていたけど、やっぱりこれがあると無いとじゃ全然違う!


「なにを! だったら一生懸命頑張って、やれることを証明してやるよ!」


 俺がそう言うと芽依は「ふふふ」と笑う。俺はその笑顔をみて「ふふふ」と笑みを零した。


 長く付き合ってきた俺達だから、これ以上の会話はいらない。お互いもう理解している。またいつものような日常が始まることを──。

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