いつもあなたに出来る訳ないでしょと煽って来る幼馴染に、俺は出来る奴だと分からせるため、好きな人に告白する

 日曜日になり、約束通り家の前で芽依を待つ。


 芽依の家は、家から歩いて5分も掛らない。ここに立って居れば、直ぐに気付くだろう。


 そう思って、芽依の家の方を見ていると、曲がり角から芽依が現れる。


「おはよー。早いじゃん」と、芽依が手を振って近づいてくる。


 芽依はバッチリ御化粧をしていて、清楚なネイビーのワンピースを着ていた。


 デニムのショートパンツに白いTシャツといったラフな恰好しか見たことないので、とても新鮮で、何だかドキドキしてしまう。


 微かに石鹸のような香りが漂ってくる。香水も付けているのか?


「どこかのアイドルが出てきたと思った」

「でしょー」と、芽依は満足そうに笑みを浮かべる。


「今日はどうしたんだ?」

「どうしたって?」

「いつもと服装とか違う感じがしたからさ」

「湊が知らないだけで、こういう恰好する時あるよ」

「へぇ……そうだったんだ」

「それより床屋でしょ? 行こ」

「うん」


 俺達は肩を並べて商店街の方へと歩き出す。


「今日はどんな髪型にするつもり?」

「うーん……とりあえず刈り上げない程度に短くする」

「それっていつもと同じじゃない?」

「うん、そう」

「つまらない。いっそツーブロにしてみなよ」

「ツーブロね……似合うかな?」

「似合う、似合う。やってみ」

「そこまで言うなら、やってみるかな!」

「うん!」


 ※※※


 数十分歩き、床屋に着くと中に入る男性店員に案内され席に座ると、ツーブロックにしてくださいと伝えた。


 芽依は長椅子に座り、俺が終わるのを待ってくれている。店員がヘアピンで髪の毛を留めていく。


「じゃあバリカンを入れますね」と、バリカンを手にすると、俺の髪の毛を次々と刈っていった。


 こんなに短くするのは初めてだったので、ドキドキする。

 似合うか心配しながら、待つこと15分。カットが終わり、店員が鏡を持ってくる。


「いかがでしょうか?」

「大丈夫です」

「では顔を剃りますね」


 ツーブロがこんなに自分に似合うとは思いもしていなかった。新しい自分を見つけて、気分が高揚する。


 早く芽依の反応が見たいな――顔そりが終わり、仕上げが終わるとお金を払って、芽依と一緒に店を出る。


「うんうん、良い良い。カッコ良いよ!」と、芽依は言って腕を伸ばし、刈り上げた部分を触って来る。


「このジョリジョリ感も最高ね」

「確かに気持ち良いな」

「でしょ!? しかも夏だから丁度良いんじゃない?」

「確かに」

「さて、今日はこれだけ?」

「いや、服も見ていこうかと思ってる」


「そういえば告白はどこでやるの? 服って事は学校じゃないよね?」

「うん。来週の日曜日に花火大会があるだろ? そこでしようかと思ってる」

「なるほどね……じゃあ甚平でも見に行こうか?」

「甚平か……着た事無いしな」

「着た事無いからイメチェンになるんでしょ! 行こ」


 芽依はそう言って、俺の手を掴み引っ張る。俺はそれに合わせ、歩き出した。


 ※※※


 数分歩き、近くの服屋に入ると、甚平を探す。


「――あったよ」と、芽依は言って商品棚に近づき、俺も後に続いた。


 色々なデザインの甚平が置かれていて、どれが似合うかサッパリ分からなかったが、芽依が率先して選んでくれた。


 黒の一色の甚平を購入すると、店を出る。


「今日はこれでお終い?」

「買い物はね。あとは飯にしようぜ」


 芽依は左腕に着けている腕時計を見ると「その前に雑貨屋に行かない?」

「いいよ。何を見るんだ?」


「内緒!」と、芽依はそう言って歩き出す。俺も後に続き歩き出した。


 ――雑貨に到着すると、芽依は目的のものがあるようで、ズンズンと中へと入っていく。


「女の子は匂いに敏感だからね~」と、香水が並ぶ棚の前で立ち止まった。


 一つの香水を手に取ると「たまにはこういうのも付けてみたら?」


「興味はあるけどね。香水は好みがあるだろ?」

「そうね。じゃあ私が選んであげる」


 ――芽依は香水を手に取って匂いを確かめては戻すを繰り返していく。


 青い香水の入った透明の小瓶を手に取ると「これが良さそうね」


「ねぇ、これの匂いを嗅いでみて」と、小瓶を差し出してくる。


 俺は受け取ると、匂いを嗅いでみた。この匂いって……。


「これ、芽依がいま付けている香水と一緒じゃないか?」

「え? 気のせいでしょ。似たような匂いなんていっぱいあるわよ」

「そういうもんか」

「そういうもんよ。それでこの匂い、どう思う?」

「自然な感じで良い匂いだと思うよ」


 芽依は嬉しそうにニコッと微笑む。


 俺から瓶を回収すると「じゃあこれ、買いね」と、行ってレジの方へと歩き出す。俺は追いかけながら「おい、俺が買うよ」


「いいよ、買ってあげる」

「何で?」

「そんな気分だから」

「そうか。ありがとう」

「どう致しまして」


 ※※※


 俺達は買い物を済ませ雑貨屋を出ると、ファミレスに向かった。


 雑談をしながら頼んだ料理を食べ進めていく。最後にチョコレートパフェを二人で分け合って食べると、外に出た。


「湊、ご馳走様」

「今日は付き合ってくれて、ありがとな」

「うん!」


 芽依は返事をすると、平手で俺の背中をトンッと叩く。


「では健闘を祈る!」と、言うとニコッと微笑む。


「うん」

「それじゃ、バイバイ」と、芽依は手を振ると、俺に背を向け帰っていった。


 俺はその背中を黙って見送る。ありがとう芽依、君の為にも頑張るよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る