人気者の女子がゲームに勝ったら話したいことがあると、勝負を挑んできた。気にはなるけど、完膚なきまでに叩き潰したら、何度も勝負を挑んでくるようになって幸せです。

 ──俺達はまた注意される前に早く校門を出て、通学路の並木道を並んで歩き始めた。チラッと明菜ちゃんの方に視線を向けると、明菜ちゃんは後ろで手を組みながら、爽やかな表情で歩いていた。


「話したい事だけどね……」

「うん」


 明菜ちゃんは落ち着かない様子で髪を撫で始めると「──私、あなたの事がずっと好きだったの」


 ──え? ちょっと待て……いま俺、告られた? 


「だから告白するキッカケが欲しくて、ゲームのアプリ入れて、いっぱい課金して……話しかけたんだ」


 おいおい、こんな漫画みたいなイチャイチャ展開って、いきなり来るもんなのか!? 思考が追い付かない!


「えっと……何で俺なんか?」


 明菜ちゃんは髪を撫でていた手を止め、こちらに顔を向けると、ニコッと微笑む。


「何でって……顔が好みとかあるけど、一番は自分が好きって思う事、楽しそうにやっているの見ていて素敵だと思ったからかな」

「はは……」


 聞いといて何だが、照れ臭くて痒くもないのに頬を掻く。


「それなのに女子相手に、話したいことがあるとまで言ってるのに、まさか負けるだなんて思わなかったなぁ~……」


 明菜ちゃんは含みのある言い方でそう言うと、顔を正面に向け、可愛らしく頬を膨らませる。


「う~……空気読めなくて、ごめんなさい」

「本当だよ! ──って言うのは冗談で、結果これで良かったなぁって思ってる。だって──」


 明菜ちゃんは嬉しそうにニコッと微笑むと「こうやって楽しい時間を過ごせたんだもん!」


 はぁ……可愛い。吐息が漏れそうなぐらい超可愛い……こんな可愛い女の子が俺を選んでくれるなんて幸せでしかない。


「正直に言うとね。さっきレアカードが出た時、メッチャ悩んだ。このままこの楽しい時間を終わらして良いの? って……だから、もう止めようか? って、言おうかと思ったけど……やっぱりやめた」

「なんで?」


 明菜ちゃんはゆっくり立ち止まる。俺も合わせて立ち止まり、向き合うように立った。


「だってそんな関係、いつまでも続かないじゃない? だから私はダメでも良いから、ずっと続く道に賭けてみたかったの」

「そういう事か……」


 明菜ちゃんは不安そうに俯くと「──返事、今でなくても良いから、待ってるから」


 俺だったら直ぐに返事が欲しい。気を使ってくれているのかな?


「正直に言うとさ、俺も明菜ちゃんと同じ気持ちだった。明菜ちゃんに負けそうになった時、終わらせたくないって本気で思った。だから……返事はもう決まってる」


 俺は明菜ちゃんに近づき、ソッと手を取って「俺も君の事が好きです。付き合ってください!」と告白した。明菜ちゃんは顔をあげ、パァァ……っと明るい顔を見せる。


「もちろんです!」

「良かった……また明日もゲームしような?」

「うん!」


 俺達は手を繋いだまま、ゆっくりと歩き出す──もしもあの時、わざと負けていたら、どんな結末を迎えていたのだろう? きっと告白はOKするだろうけど、ここまで仲良くなれていただろうか? 


 ──いや、女の子と話す事さえ経験の少ない俺だ。仲良くなれなくて自然消滅していたかもしれない。


 遠回りにはなったけど、自分を偽らなくて本当に良かった……俺は紅く染まる空を見つめ、明菜ちゃんの手の温もりを感じながら、そう思った。


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