もちろん嫌な事はあったけど、可愛い女性とイチャイチャしたり、ちょっぴりエッチな生活を送って、ハッピーエンドを迎えられたので、幸せ一杯です! (短編集)

若葉結実(わかば ゆいみ)

人気者の女子がゲームに勝ったら話したいことがあると、勝負を挑んできた。気にはなるけど、完膚なきまでに叩き潰したら、何度も勝負を挑んでくるようになって幸せです。

 高校二年の何の変哲もない長閑な昼休み。俺は和樹かずきと携帯電話で通信対戦できるトレーディングカードゲームで遊んでいた。


「おま。初心者相手に、そのカードはないだろ?」

「初心者だからって手加減しないのが俺なの! 知ってるだろ?」

「知ってるけどさ……容赦なさすぎ!」


 和樹がそういった時、後ろから「ねぇねぇ、次は私と対戦しない?」と、聞き覚えのある可愛い女子の声が聞こえてくる。俺はビックリして直ぐに後ろを振り返った。


 女子に話しかけられるだけで奇跡的なのに、その相手をみて和樹と俺は、黙り込む。男子生徒に人気がある超絶美人な明菜あきなちゃんが俺達とカードゲーム? 嘘だろ……。


 明菜ちゃんは円らの瞳を細めてニコッと微笑むと「ダメかな?」と首を傾げた。ダメな訳がない! 俺は緊張しながらも直ぐに「うぅん、大丈夫だよ」


「やったー」と、明菜ちゃんは嬉しそうに返事をすると、和樹の横に立ち「ねぇ、和樹君。ちょっと席を譲って貰って良い?」


「あ、あぁ……ごめん」


 和樹はそう言いながら、席を立った。明菜ちゃんは直ぐに俺の向かいに座る。そのときフワァっと女子の良い匂いが漂ってきて、ドキドキしてしまった。


 明菜ちゃんは気合を入れたいのか、セーラー服のポケットからヘアゴムを取り出すと、黒くて綺麗なセミロングの髪を、後ろで束ねてポニーテールにした。


「ゲームに勝ったら話したいことがあるから、負けないからねぇ」


 明菜ちゃんはそう言って俺をジッと見つめる。俺は照れくさくて目を逸らしながら「話したい事? なに?」


「内緒! じゃあ始めよ」

「うん」


 ゲームが始まりカードが並ぶ──ゲームを進めていくと明菜ちゃんは結構、レアなカードを持っていることが分かった。多分、課金しているな。通りで自信ありげに勝負を挑んでくるわけだ。


 でも、選択するカードが素人臭い。明菜ちゃんが言ってた話したいことは気になるけど──負ける気は無い!


「あ~……負けた」と、明菜ちゃんは悔しそうに言って項垂れる。俺は携帯をブレザーにしまいながら「残念だったね。レアカード持っているだけじゃ、このゲームは勝てないよ」


 明菜ちゃんは顔を上げると、怒ったような表情で「もう! 話したいことがあるって言ってるのに、何で勝っちゃうかな!」


「そんなこと言ったって……勝負だし」


 俺がそう言うと予鈴が鳴る。明菜ちゃんはスッと立ち上がり「まぁいいわ」と言って、自分の席の方へと歩いて行った。


 何やら視線を感じ、和樹の方に顔を向ける。和樹は何か言いたそうな顔で俺を見つめていた。


「なに?」

「勿体ねぇ」

「うっせぇ、俺は自分に素直なんだよ」


 ※※※


 それから明菜ちゃんは毎日のように昼休みになると俺に勝負を挑んでくるようになった。彼女なりに努力はしているようで、ネットとかに載っている攻略を使ってきたりする。でもまだまだ甘いな。


「もう、何で!」

「それネットに載っているやつだろ? それだけじゃダメなんだよ」


 普段は誰にもコツを教えない俺だが、こうも熱心に来られると、ついつい教えたくなってくる。


 俺は体を乗り出し、向かいに座っている明菜ちゃんに近づいた──すると心なしか避けられた気がして「あ、ごめん。嫌だった?」


 明菜ちゃんは直ぐに首を横に振り「うぅん、そんなんじゃないよ」と言って、俯いた。


「そうか、良かった」と俺は返事をして体を戻す。


「ただ……恥ずかしかっただけだから」

「え、恥ずかしい?」


 明菜ちゃんは慌てた様子で立ち上がり「あ、もうすぐ昼休み終わりそうね。また相手にしてね」と言って、そそくさと自分の席の方へと歩いて行った。


「あ、うん」


 ──恥ずかしいねぇ……ちょっとは脈があったりして? ──ってそんな訳ないか。


 翌日、また俺は明菜ちゃんに勝利をする。明菜ちゃんが席に戻るのを見送ると、入れ替わるように和樹がやってきた。


「明菜ちゃん、よほど負けず嫌いなんだな」

「今日も勝ったのか?」

「もち」


 俺がそう言ってピースをすると、和樹は困ったように眉を顰め「──いい加減、勝たせてあげたら?」


「はぁ? 何で?」

「何でって……俺の口からは言えないけどよ」

「何だよそれ」

「まぁとにかく、俺はアドバイスしたからな」


 和樹はそう言うと、自分の席の方へ戻っていった──今が凄く楽しいのに、負ける訳ないだろうが……。


 ※※※


 それから数日後。俺と明菜ちゃんは今日もゲームをしていた。


「あ~……あとちょっとだったのに、もう悔しいな!」


 本当に今日はヤバかった……ここ最近、こんな勝負ばかりだ。いつ負けてもおかしくはない。


「明日こそ、勝つからね!」

「返り討ちにしてやるよ」


 俺が強がりを言うと、明菜ちゃんはスッと席を立つ。ニコッと微笑むと手を振りながら去っていった──。


 負けたら最初に言っていた話したいことが聞ける──でもこの関係は終わってしまうかもしれない……そう思うと何とも複雑な気分だ。


 翌日──今日は少しでも長く明菜ちゃんとゲームを楽しみたくて、我儘を言って放課後、教室に残ってゲームをしていた。


「静かだね」

「うん、集中して楽しめるね」

「そうだね」


 ──数分して、俺は不利な状況へと追い込まれる。このままじゃマズイ……緊張で携帯を持った手が汗で濡れていく。


 クラスメイトは帰ったか、部活をしていて、教室には俺達しか居ない状況……だったらいっそ──いっそ、ここで君が好きだと告白してしまおうか。


 そうすればこのままの関係をずっと続けられる──でもダメだったら? 確実にゲームオーバーだぞ?


 どうする──迷いながら明菜ちゃんを見ていると、明菜ちゃんは一瞬、目を見開き驚いた。え、どっちだ……良いのか? 悪いのか?


 明菜ちゃんは躊躇うかのように手が止まっている。俺は固唾を飲んで見守るしか出来なかった──


 ようやく明菜ちゃんの手が動く。明菜ちゃんが出したカードは──直接、プレイヤーのライフを大幅に削るレアカードだった……これで俺はライフ0、つまりゲームオーバーだ。俺は負けたことによる悔しさより、この時間が終わってしまったことがショックで項垂れる。


「──負けちゃったね」


 明菜ちゃんが発した言葉が意外で、俺は顔を上げると、明菜ちゃんを見つめる。明菜ちゃんは何処か悲しげ? な表情を浮かべていた。


 どうして? ようやく勝ったんだぞ? もっと手をあげて喜ぶと思っていたのに。


「おーい。お前たち、まだ残っていたのか。早く帰れよ」と、担任が教室の外から話しかけてくる。


 明菜ちゃんは携帯をスカートのポケットにしまいながら「はーい、今帰りまーす」と返事をした。


 担任はそれを聞くと歩き出す──。


「この後、時間ある?」

「あるよ」

「じゃあ、一緒に帰ろう。えっと……話したいことがあるから」

「あ……うん、分かった」

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