七歳の麒麟児


 アッシュは七歳になった。

 レベル、魔法共に順調に成長中だ。


 かつてまだ魔法を覚えたてだった頃は、到底ヴェッヒャーに勝つことなど無理だと思っていた。


 しかし今のペースで成長ができれば、負けイベントを覆し勝利する事は決して不可能ではない。

 そう思えるくらいに、彼のキャリー作戦は上手くいったのだ。


 アッシュはダストなる人物を名乗り、その上に自分の上司がいる――ような話し方をして、意図的に彼らに誤解させた。


 王都にいる人員の中でもっとも条件に適し且つ強力なブライ達を呼び込み、彼らが本来の個別イベントで欲していた物をエサにして、こちら側への協力を取り付ける。


 そして彼らについていき、未調査ダンジョンで魔物の素材や宝箱を検分する――という名目で、魔物の戦闘に混じり適性のある魔法を覚えることに、成功したのだ。


 おかげでアッシュの今の魔法のバリエーションは、なかなか凄まじいことになっている。


 最初にレベルアップで覚えたのと、終盤に手に入れるような強力な魔法が並んでいる状態と言えばわかりやすいだろうか。


 ちなみに三人には魔法の素養はないため、彼らは魔法を習得せずに探索を終えている。


 というか、そもそもそういった人材を選んだのだ。

 終盤で覚える魔法を他の者達に覚えられると、どう影響が出るかわからない。


 強力な魔物との戦闘でレベルは相当上がったはずだが、戦闘回数はそれほど多くはないのでストーリーに致命的な齟齬が生まれることはないはずだ。


 一応三人には目隠しをし、毒を飲ませ、前後不覚に陥らせてからダンジョンに入ってもらった。

 彼らだけでダンジョンを再度見つけ出すこともほぼ不可能なはずだ。


 そもそも王家の抜け道は、そう簡単に見つけられないようにできているのだし。


 一応魔物の戦闘にちょびっと参加しただけでもレベルは上がったので、今の彼は更に魔力も増えている。


 ただレベルは、キャリー作戦をした五歳の頃に上がったっきり、上昇は止まっている。


 何度も彼らを隠しダンジョンに入れれば露見する可能性が上がるだろうと、結局本格的に探索をしたのはあの一回きりだったのだ。


 あそこにいる魔物達は、未だ人間界ではほぼ全て新種の魔物だ。

 素材の値段もそこから作れる武具もとんでもない値段になる、言ってしまえば宝の山なのだ。


 それに気付けるほどの余裕が皆になかったからなんとかなったが、何度も行って戦闘に慣れたりすれば、絶対に良くないことが起こるはずだ。


 マチルダなんかは本当に仲間を引き連れてあそこへ入っていきかねない。


 魔法が覚えられたボーナスステージ、アッシュは王家の墓のことをそう割り切っていた。



 ちなみに戦闘の難易度は高すぎて、四人とも誇張抜きで数十回は死にかけた。


 道中何個か拾ったエリクシルや、全回復魔法を使いこなす極白天使(ミカエラ)を倒すことでアッシュが覚えたヒール系の各種魔法がなければ、間違いなく全員あの場で帰らぬ人となっていたことだろう。


 m9の世界に蘇生魔法はないが、それに近いことはできる。

 要は即死さえしなければなんとかできる、全回復魔法というものが存在しているのだ。


 存在そのものが魔法に近い火精霊(マグナ・エレメンタル)や宙に水中プールを浮かべて動く機動鯨等、出てくる魔物は強化されていなくとも準最強クラスだった。


 そして幸か不幸か、彼らはストーリー終盤で凶化する前の素の状態でも、その後に使うはずの強力な魔法を覚えていた。


 そのせいで死にかけた回数は相当な数に上ったのだが……おかげでアッシュの使える魔法のレパートリーに物語終盤~クリア後の物を入れることができた。


 知力が足りていない分威力はそこまでではないが、いざという時の切り札が手に入った形だ。


 アッシュの現在のレベルは21。

 彼のMPと魔力一覧は――。

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