無自覚成長チート


 シルキィと出会ってから二年が経ち、アッシュは五歳になった。


 結局おっかなびっくりではあったが始まりの洞窟もクリアし、今ではそこで上げられるギリギリ限界までレベルを上げることに成功していた。


 アッシュの現状のレベルは12まで上がっている。

 一番最初のダンジョンでここまで上げるのはなかなか大変だった。


 しかしそのおかげで、アッシュのMPはかなり上昇している。


 それにレベルアップに伴い、使える魔法も一気に増えた。

 習熟度も上がったので、今のアッシュの脳内に浮かぶ魔法はこれだけ増えた。



MP 52/52


魔法


魔法の弾丸 使用MP1

魔法の連弾 使用MP2~10

ヒール 使用MP2

フレイムアロー 使用MP3

ウォーターエッジ 使用MP3

ストーンランス 使用MP3

ウィンドカッター 使用MP3


 まず目につくのは、新たに手に入れた大量の魔法だろう。


 どうやらアッシュは四属性全てに適性があるらしく、レベルが7に上がると同時に四つの魔法を一気に手に入れることができた。

 ちなみにヒールはレベル10になると覚えられた。


 おかげで今まで買っていたポーションが必要なくなったので、彼は今小金持ちになっている。


 だが色々な魔法を覚えた今でも、アッシュが最も使っているのは魔法の弾丸だ。


 というかレベルが上がり魔法の威力が上がったせいで、他の魔法だと明らかにオーバーキルになってしまうのである。


 四歳の頃、魔法の弾丸を使用し続けると魔法の連弾なるものを覚えた。


 今まで一発ずつしか撃てなかった弾丸が、最大十発まで同時に打つことができるようになったのだ。


 シルキィに言われた遅延の魔法がないために射出のタイミングは同時になってしまうが、それでも大きな進歩だ。


 今までは簡単に避けられてしまっていた魔法の弾丸を、点ではなく面の攻撃として使えるようになったのだから。


 レベルアップに伴うMPの上がり方は、アッシュが魔法使いの素養を持っていることを明らかにしてくれた。


 その理由についてはまずm9内の仕様について話をする必要があるだろう。

 m9では、レベルアップごとに各パラメーターが1~5上昇するようになっている。


 各パラメーターは筋力・防御力・知力・素早さ・HP・MPの計6つであり、これらの上昇にはキャラごとに設定された適性が参照されるのである。


 アッシュはレベルを10上げたことで、MPが43上昇していた。


 基本的に上がるパラメーターの値の平均は2に設定されている。


 3上がれば使える、4上がれば強キャラ、5上がれば主人公といった塩梅と言えば、アッシュのMP上昇平均値4.3がどれくらいすごいことなのかがわかるだろう。


 それにレベルが上昇し増えるのは、何もMPだけではない。


 現状ではMP以外のパラメーターを確認する術がないので、詳細に把握できてはいない。

 しかし明らかに、アッシュはレベルが上がり強くなっていた。


 まず知力が上がったおかげで、魔法の威力が向上した。


 今ではゴブリンの身体を弾丸一発で貫通できるようになった。

 もう以前のように、スライムの核を狙う時に、弾丸を何発も当てる必要はなくなった。


 身体能力に関しては、既に五歳児の範囲を逸脱していると言っていい。


 素早さが上昇したおかげで全力で走れば前世の頃より早く走れるし、防御力が上がったおかげで今ではゴブリンの一撃をもらってもほとんど痛みを感じない。


 腕力も上がったので、我流ではあるがしっかりとそれっぽく剣を振ることもできるようになった。


 体力に関しては、それほどダメージを負う機会がないのでわからないが……これも他の値に負けないくらい上がっているはずだ。


 色々な面でアッシュはこの二年間で強くなった。

 だが同時に、現状できる限界に到達してしまってもいたのだ。


 レベルを始まりの洞窟でこれ以上上げるのは、不可能に近かった。


 既にレベル12に上げるまでに、数えるのも馬鹿らしくなるほどのゴブリンやスライムを狩っている。

 これ以上はあまりにも非効率だろう。


 それに始まりの洞窟に魔法を使う魔物は出てこないため、レベルアップが見込めない現状では、新たな魔法の習得も難しい。


 アッシュは新しい魔法を覚えなくてはいけない理由がある。

 素の状態の魔法の弾丸だけで倒せるほど、ヴェッヒャーは甘い相手ではない。


 それに自分の魔法の適性についても早く知りたい。


 一応四属性全てに適性はあるとはいえ、自身が最も得意な属性を知るには魔物を狩って試してみないことにはわからないのだ。


 使える属性によって、目指すべき戦い方も変わってくる。


 火魔法なら火力、水魔法なら回復、土魔法なら防御、風魔法はサポートとそれぞれ得意な分野が変わってくるのだ。

 各属性の適性によって、アッシュの今後の戦い方は大きく左右されるのは間違いない。


 だが五歳の現状、食堂を経営している両親に内緒で勝手に出て行くわけにもいかない。

 そんなことをしては、二人とも悲しむだろう。


 父も母も、相当小さな頃から賢しらに話し始めた自分に対しても、気味悪がったりせずに大切に育ててくれた。


 しっかりと愛情を受け取ってきたアッシュにとっては、今世の父も母も大切な家族だった。


 なので悩ましくはあるが、周りが仕事を始める十歳になるくらいまでは王都で暮らしていたいと考えている。


 一応王都でも今以上に強くなる方法が、ないではないからだ。


 今までとは違い今回はかなりの危険も伴うし、信頼できる者が必要なのであまりやりたくはないのだが……これが成功すれば少なくとも魔法に関しては、心配しなくて良いだけの強力なものが揃うことになるはずだ。


 リスクも大きいが、リターンはそれ以上に大きい。

 その作戦を実行に移すべく、アッシュは確実性を上げるために王都を回り、最も良いタイミングを窺っている最中であった。





 ちなみにアッシュがこれだけ魔法の才能が高く、各種パラメーターの上昇が高くなっているのにはもちろん理由がある。

 アッシュは序盤に出てくる、操作に不慣れなプレイヤーでも躓かずゲームが進められるようにするためのお助けキャラだ。

 そのため各種適正が、かなり高めに設定されている。


 アッシュのパラメーター上昇幅は、全能力値の平均で4.4である。


 これはメインキャラクターの主人公ライエンと王女イライザに次いで、実は三番目に高い。


 恐らくは序盤で殺されるキャラのため、細かな調整が面倒でそうしたものだと思われる。


 だがゲームの仕様を忠実に再現しようとするこの世界で、アッシュは異常とも言えるスピードで実力を上げていた。


 他に比較対象がないため、これがモブの限界かなどと考えているアッシュは知る由もない。

 自分が既に、チートスキルを持つ主要キャラクターに並ぶ存在へ成長しかけていることに……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る