第13話 株主総会
明日臨時株主総会が行われる前日の朝出勤すると、修一の母から修一に震える声で電話があったようで、僕がいる情報システム室の部屋に、慌ててノックもせずはいってきた。
「大変です。会長が倒れました。玄関にタクシー呼んでます。社長にも先に連絡してます。行きましょう。」そして促されるまま、八反さんに出かけます、あとお願いしますと早口で言って、玄関に急いだ。
玄関に到着すると、実誠も出てきたので三人で祖父が運ばれた病院に向かった。
病院に着くと修一ママと僕らの両親、伯母さんが先に来ていた。それで今祖父は手術室に入っていると言われたので何があったのか聞くと、修一ママと食事の前に庭を散策していたら胸を押さえて苦しみだしたようだ。それで直ぐに救急車を呼んだらしい。以前から病院にはかかっていたようだが、急にこのようになるとは本人も思っていなかっただろう。修一ママは凄く震えていたので、母が抱きしめていた。
「父さんは大丈夫だから、修一ママおいていかないから、ねっ。」すると修一ママは泣きながら頷いていた。
僕らはこのまま待つわけにもいけないので、修一を残して実誠と僕は一旦会社に戻った。
会社に戻ると専務が僕らを見つけて近づいてきた。
「会長は。」
「今手術室に入っています。秘書の植野だけ残して帰ってきました。」
「わかりました。明日の臨時株主総会はどうしますか?」
「それはそのまま行いましょう。」そうしてそれぞれの部屋に戻って行った。
情報システム室の扉を開けると、八反さんと佐々木さんが僕の様子を見て心配していたようで、僕が部屋に戻ると二人が入ってきた。
「部長、何かありましたか?」
「はい。会長が倒れました。今病院で手術を受けています。秘書の植野は置いてきました。そして手術が終わり次第連絡があります。」
二人は驚いていた。
「まだ何もはっきりしないので、他言しないようにしてください。」
「わかりました。」
「部長、今日部長がやる予定だったことを教えて頂けますか、業務引き継ぎます。」
「ありがとうございます。」
「あと、明日の件は?」
「予定通りです。」
「わかりました。」そして僕は、八反さんに業務を引き継ぎ、社長室に向かった。
社長室に入ると、専務に今日の業務の引き継ぎをしているところだった。
「連絡きたか?」
「いや、まだだ。八反さんに仕事引き継いできた。」
「そうか、こちらももうすぐ終わるから待っていてくれ。」
「わかった。」そして僕は社長室のソファに腰を降ろした。専務は業務を引き継いだあと、明日の準備はこちらでしておきます。東浦部長は弁護士さんに連絡をお願いします。会長のお願いしている方にもですよ。そう言われてハッとした。実誠はまぁ顧問弁護士はいることはわかっているが、もしもの時のことは伝えていない。それで少し隣の秘書の部屋に入り、二人の弁護士の方に電話を入れ、会長の件と明日の臨時株主総会は予定通りに行われることを併せて伝えておいた。
僕が社長室の方に戻ると、実誠の携帯が鳴った。スピーカーにして実誠がでると、無事手術が終わり今ICUに入っていることを伝えられた。そして病院くるかどうかは任せるけど、もう大丈夫だから明日の臨時株主総会に備えなさいと母が言っていた。拓実にもそう伝えるように言われたが、横にいるから聞いてると僕が応えた。修一は休ませるから修一ママも貧血起こして倒れたからと言っていたので、了解と伝えた。それで総務部長を社長室に呼び出して、会長の病状や植野の母のこと、そして彼が今日休むことを伝えた。
その後は明日の準備をしてから、実誠と共に早退をして病院にむかった。
病院に到着すると、まだ祖父は眠っていた。お医者様の話では、はっきり目が覚めるのは明日の朝になると言っていた。僕らは顔を見た後、会長の邸宅に向かった。
中に入ると、皆んなが集まっていた。ただ修一ママだけ自室のベッドで横になっていると言っていた。
「顔見てきたの?」
「うん。」
「明日、頑張ってきなさいよ。」
「大丈夫。弁護士の方にも連絡は入れているから。」
「そう。」それでその後母が、今日はここで皆んなで晩御飯を頂きましょうと言っていたが、家政婦の方も今日は慌てていたので、何も用意できてないと言われたので、出前とりましょう。そう言って、母が家政婦さんの分も含めて注文をしていた。しばらくして蕎麦屋さんが来たのだが、その顔に見覚えがあった。退職した人事部長だった。出前を届けてもらった時に、僕にメール見て頂きましたかと言われたので驚いていると、Sですと言っていた。それで、その件は解決しましたので大丈夫ですと言っておいた。部長は家業の蕎麦屋で息子と共に働いているらしく、彼も一緒に出前を届けにきていた。
「こいつも親父に扱かれながらも、やってますよ。何かこの仕事がむいてるようです。」そう嬉しそうに話してくれたので、またお店にも伺いますねと言っておいた。その後母がお金を払っていたので、僕は中に出前を運び込んだ。
昨日祖父が倒れたが、今日は予定通り臨時株主総会が行われる。朝早くから祖父の弁護士一名と、僕らが頼んだ弁護士事務所の方三名が社長室に入ってくれ、専務と実誠、それと僕は打ち合わせをした。
その後大会議室の横の部屋に移動し、弁護士の方々と僕はそこで待機をしていた。大会議室には続々と株主が入ってきていた。その中には永島や野村さんの姿もあった。彼らは実誠を追い出されると思っているが、こちらも色々準備しているので、彼らの思い通りにはならない。
定刻になったので、総務部長の司会で臨時株主総会が始まった。ここで会長のことが告げられた。そしてその代理として祖父の弁護士と僕が大会議室に呼ばれることになった。
そして僕らが席についた後、今回の会を開くにあたっての緊急動議について、招集を依頼した方からお話がありますと言って、永島が立って話をし出した。
「永島です。実は社長のパソコンからこのようなものが見つかったようです。それとそれを裏付ける銀行の口座です。」そして、彼は用意していたそれらのコピーを株主に配っていた。
「社長、これはどういうことでしょうか?」
「僕はこの口座のことは、全く知りませんでした。」
「でも、社長の名前ですよね、そんな言い訳通用しないのではないですか?」永島は自分に酔っているのか、もっともらしい意見を述べていた。
「このパソコンの内容も見に覚えがないのですが。」
「けれど、これ社長のパソコンの情報ですよ。こちらに専門の方がいるので聞いて見ましょうか?どうですか東浦さん。」面倒くさいな、僕に振るなよ。
「確かに社長のパソコンからのようですが、以前のものですね。」
「以前のものとは?」
「社長の普段使ってるものではないということです。」
「それは事実ですか?秘書の野村さん。」
「いえ、社長からこのIDとパスワードを教えて頂いていたので、間違いはございません。」
「東浦さん、あなたの知らないこともあるようですね。」そして僕は実誠に合図をして、反撃をすることにした。
「いえ、このIDについて気づいていましたよ。それで調べましたから。後社長のその口座についても調べてあります。」彼らは少し動揺を見せていた。
「この件に関しまして、弁護士の方にお願いしておりますので、こちらにお呼びしてもよろしいですか?」僕がそう言うと他の株主の同意が確認できたので、弁護士を招き入れた。
「ご紹介致します。フラワー法律事務所の八反さんと、結城さん、平松さんです。ではここからは八反さんにお願い致します。」そして八反さんにバトンタッチした。
「ただいまご紹介に預かりました、フラワー法律事務所の八反と申します。まず結城と平松が資料をお配り致します。」そして彼らが資料を配り終わるのを待って、また話始めた。
「まず先程の銀行口座についてですが、こちらで銀行に照会をかけました。そして、その口座を作った人物の防犯カメラの映像、それとその口座を操作していた人物の映像を全て確認致しました。そして、口座を作った人物、それは以前社長秘書をしていたあなたでした。永島さん。そして口座を操作していたのは現秘書の野村さんでした。また、もう一つ束にした資料がありますね。こちらは社内の社長のパソコンを操作した時間とその時にパソコンを操作していた人物の防犯カメラの映像、そしてその時間に社長がどこで何をしていたのかと、その時の映像です。ここまで質問はございませんか?」そう言うと一人の方が手を上げた。
「あの、社長が頼んだと言うことは考えられませんか?」
「それについてですが、社長室や専務時代に使っていた電話の記録、社長の携帯電話の記録を取り寄せて内容を確認をとっておりますが、そのような話はございませんでした。この件が仕組まれたものであることの決定的な証拠がございます。それはこちらで確認して頂きます。」そして大型のテレビ画面が用意され、映像が流された。そして、その時の音声も流された。
「これは、そちらにいる永島さんと野村さんにより仕組まれたものであり、社長はこの件は全く関係ないことを示しております。ただ、これは会社のお金が引き出されておりますので、こちらの会社の方と相談した結果、刑事告訴することになりました。」すると、二人は驚いて、立ち上がったが、弁護士二人によって肩を掴まれ座らされていた。
「警察の方がこちらに来ますから待っていてください。」そしてしばらくすると警察の方が社員の誘導で入ってきたので、そのまま二人は警察に連れて行かれた。
その後、臨時株主総会は緊急動議については社長に問題はないと判断されたので、そのまま続投と言うことで解決し、幕をおろした。
その後僕は母に連絡をし、全て終わったことを告げると、会長も目を覚ましたと告げられた。あとで会長にも言っておくとのことだったので、電話を切った。そして弁護士の方々に挨拶をした。
「本日はありがとうございました。祖父も目を覚ましたようで、今日のことも後で報告するようです。」
「それはよかったです。これから横領の件について我々は動きますので、またこちらに伺うと思います。」
「はい。これからもよろしくお願い致します。」
「僕は代理として座っていただけですので何もしてませんが、会長がご無事でなによりです。」
「いえ、来ていただいて感謝しております。僕だけでは出席が許されなかったと思いますから。」
「そうですか。それでは私もこれで失礼します。」
「ありがとうございました。」そして僕は弁護士の方々を見送った。実誠も同じようにお礼を言っていた。
無事に臨時株主総会が終わったので、後片付けをしていたら専務に話しかけられた。
「社長と、東浦部長、こちらはやっておきますから、会長に報告に言ってください。」
「いや、大丈夫ですよ。母が話してますから。」
「いいえ、二人の顔を見せて安心させてあげてください。それがいい薬になりますよ。」そう笑顔で言われたので、実誠と僕は、実誠の車で病院に行き会長に報告をした。会長は僕らの顔を見ると、ほっとしたのか顔が綻んでいた。その後しばらくは病院にいたが、長居すると疲れるので早々に病院を出た。
その後、僕らは伯母さんの家に行き、無事終わったことを告げると、伯母さんはよかったと言って僕らを抱きしめるように抱きついてきた。それから伯母さんが用意してくれていた食事を頂いた。食事の後、伯母さんが入れてくれたお茶を飲みながら話をした。
「やっと終わったわね。」
「まぁね、でも刑事事件だからこれから裁判だよ。」
「そっか。」
「それで連れて行かれた二人はどうなるの?」
「懲戒解雇になるだろうね。」
「そっか、残念だね。」
実誠はまだ辛そうだった。知らぬ間に信頼していた友人から、敵意を向けられていたんだから仕方ない。ただこれからもまだしばらくは続くので、辛い日が続くだろう。
僕はその後、伯母さんに実誠のことをお願いして、自宅にタクシーで戻った。
翌日会社に行くと、会社に警察が入ったので皆が動揺していたし、メディアの取材も来ていた。ただまだ捜査はこれからなので、あとは警察の方にお願いしていることを会社として発表をした。これは事前に相談し八反弁護士が準備してくれていたので、それを出したかたちだ。社内でも一度社員が集められ、専務より説明をしてくれた。その後はいつも通りの業務に就くように指示され、各部へ戻っていった。
僕らの母は今日あいつの弁護を担当するあの弁護士の元におもむいたようだ。それで、永島が勘違いをしていることを伝えてもらうようにお願いするらしい。その勘違いしている内容は、祖父が無理矢理に会社を奪ったのではないと言うことだ。事前に祖父は彼の父親から、自分が病気であり、任せる人材がいない為に相談をしていた。そして亡くなった後に、社員が路頭に迷うことのないように、会社を祖父に託したということだった。祖父は彼がもう少し育ってきた時点で、彼の父親から託された会社の株も彼に譲ることになっていたのに、彼が勘違いからこんなことを起こした為に、それも出来なくなってしまったと。それを聞いた後、彼の弁護士は驚いていたようだ。そして彼に伝えてくれると約束してくれた。後、罪を償ったらもう一度私が鍛え直すとも伝言をたのんだそうだ。
あの日から二週間程経ち、祖父が病院から退院した。そして永島の弁護士と野村さんの弁護士から持株を実誠に譲る旨の書面が用意されたので、改めて臨時株主総会が開かれることになった。今回は彼らの持株と、会長の持株についての話になる。会長の持株は、専務である幸田さんと息子である咲登に半分ずつ譲られることになった。そして会社の人事も変更され貼り出された。
辞令 代表取締役会長 植野咲一 代表取締役会長解任
辞令 取締役社長 植野 実誠 代表取締役社長就任
及び支店立ち上げの為USAへ移動
辞令 専務取締役 幸田 洋平 取締役副社長就任
辞令 情報システム部秘書 植野 修一 取締役就任
及び支店立ち上げの為USAへ移動
辞令 総務部長 山野 和成 専務取締役就任
辞令 経理部長 島野 総司 常務取締役就任
辞令 細田 裕子 総務部長就任
辞令 山内 尚志 経理部長就任
辞令 人事課長 橋本 秀弘 人事部長就任
辞令 米田 沙織 人事課長就任
辞令 CY Company(USA)へ研修中秘書 永島 咲登
懲戒解雇
辞令 社長秘書 野村 孝 懲戒解雇
新しい人事が発表された時、山野さんや島野さんは幸田さんの時と同じように断りを入れてきたが、会長が専務とかと話あって決めたことですから異論はありませんよ。ですので辞令が発表されたら受けてくださいと言っておいた。
その後実誠と修一は海外に拠点を作る為、母達のところへ出発をすることになった。僕は実誠が戻るまでの間はまだ一年この会社にいなければならない。伯母と、修一ママは凄く寂しがっていたが、二人に拓実で我慢しといてと言われて目を丸くしていた。
母は相変わらずだが、父にこの件片付いたんだけどと結婚をせまっていたので、父はハイハイと言って用意していた婚姻届を出して母に渡していた。結局収まるところに収まるらしい。母は急いで書くから一緒に持って行きましょうと言って、婚姻届にサインをしていた。その後二人で出かけていたので、役所に持って行ったんだろうと思う。
祖父は修一ママに寄り添われ、リビングに座っていた。身体の方はあまりまだ無理できないので、身体はまだリハビリ程度にしか動くことができない。こちらもたまに僕が顔を見せにこなければならない。まぁ会社の方は引退したので、家でゆっくりしていれば良くなるだろうとは思う。
伯母は、茶道教室を始めた。その教室に僕も通うように言われているので、取り敢えずは教室で出される色とりどりのお菓子目当てに行くようにしている。伯母はこの中から未来の僕の結婚相手が見つかればいいわねと言っているが、僕は一人でいることがまだ気楽だと思っているので、それは叶いそうにない。
会社の方は社長不在の為、副社長と専務、常務が相談しながら会社を守ってくれている。僕も情報システム部部長として、会社全体のシステムを管理している。たまに専務が僕のところにきて、あの独特の語りと笑い方を聞かせてくれている。情報システム部のメンバーも日々システムに問題が起こってないかと、新しいシステムの構築についての対応をしてくれている。
―――――――――一年後―――――――――――
やっと、実誠と修一が日本に戻ってきた。二人とも何故かファッションセンスも磨かれてきたようだが、新しく海外に拠点を作ってきたようだ。そして新たに海外に何人かを送り込むことにしたようだった。それで副社長や専務、常務とこれまで会社を守ってきた人達と相談してメンバーを決めていったようだ。僕はと言うと、実誠と修一が戻ってきたので、元いた会社に戻ることにしている。それにともなって新しい人事が発表された。
情報システム部部長 東浦 拓実
一身上の都合により退職
辞令 情報システム部部長代理 八反 幸人
情報システム部部長就任
そして僕は会社を去った。情報システム部のメンバーには残念がられたが、元々期間限定の予定だったことを伝えると僕がこれ以上の役職に何故つかなかったのか納得されていた。そしてこれまでのお礼を言ってから情報システム部を後にした。
翌日からは元いた会社に再度入社することが決まっている。それは僕の両親から部長に話をしてもらっていた。ただ以前に辞める時も、戻ってくるように言われていたので、問題はなかった。
そして、翌日の朝僕は目覚め、変わらぬ日常がスタートした。
W〜敵か味方かそして・・・〜 渡邉 一代 @neitam
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