第11話 生い立ち
僕たちの両親の出会いは、海外留学をしていた時らしい。そしてお互いに親が会社を経営していて、似たような環境だったこともあり、意気投合したようだ。その後先に留学期間を終えた父は、大学に戻り無事卒業をした。その後は親が経営する会社に就職をしたようだ。その頃母は、留学期間を延長し真面目に学校へ行っていたらしい。父とはメールのやり取りはしていたようだが、日本と海外なので、会うことは難しかった。留学期間がやっと終わり大学へ通い始めた頃から、少しずつ会えるようになり、愛を育んでいったようだ。二年後に母が大学を卒業すると、祖父の会社に入社することになった。部署は営業部だった。その当時としては女性が営業をすることはほとんどなかったが、母のあのバイタリティによって、仕事をどんどん取ってきたらしい。一年程経つと営業成績がトップになっていたようだ。そして販路拡大と言うことで海外にも目をむけるようになり、祖父が母にその海外の話をしたらしいが、父がその頃母にプロポーズをしたようで、この時は話が流れたようだ。
そして、父が自分の両親に母を紹介した後、こちらの両親にも挨拶にきたようで、両家顔合わせをし、そして結納をし結婚がきまり、ホテルで挙式披露宴を行ったとありきたりな感じらしい。
結婚して二年目、入社して四年目の時に、僕らをお腹に宿したので、その頃では珍しい産休と育休をとり、母が妊娠した翌年に僕らは生まれた。
それで母は大騒ぎをし、生まれたのが双子だったものだから、両家の親や祖父の家の家政婦さんに助けてもらいながら子育てをしていたようだ。祖父も伯母もこの時のことを懐かしむように話していた。
「ほんとあの頃は、お前らよりもこいつの方がうるさかった。」
「子育てしてるんだから、当然でしょ。」
「ほんと、賑やかになっていたわ。」
「ミルクに、おしめに、眠いのに眠れないときに、ほんとあんたたちよく泣いてくれたわよ二人して。」
「それはな、お前が悪い。落ち着きなかったからな。何かお前子供の前で、痩せなきゃと音楽かけながらドスドスと音たてて踊ってただろ。」
「だって、痩せなきゃならないでしょうよ。」その会話を聞いて僕らは笑っていた。
「お前がドスドスする間、咲さんが面倒見てくれてたからよかったんだよ。そうじゃないと、えらいことになってたぞ。」そしてまた続きの話をしてくれた。
首が座ってハイハイしだすと、僕たちの家でいることが難しく、よく伯母の家に行ったり、両家の祖父母の家で過ごしていたらしい。その家でいるのが難しい理由だけれど、そのころ母はサボテンに興味をもち、あちこちに置いていたらしい。棘がたくさんあったので危なくて父さんも子供が小さいうちはやめてくれって言ったらしいが、母が聞き入れずにいて、そのうち増えていったようだ。
「何か取り憑かれたように、サボテン置いてたわ。」
「それで、そのサボテンどうしたの?」
「この家の温室にまだあるさ。」
「あるんだ。見てきていい?」
「やめとけ。」
そして子供達の安全確保しなければならないので、みんなが協力していたらしい。それから一歳の誕生日を迎えた頃、復帰していいか祖父に話をしたらしいけど、祖父は雷を落としたらしい。今でも自分で世話できないのに、子供はほっといて育つものじゃないんだぞって。父も同じ意見でもう少し自分たちでできるようになってからにしようと話をしていたらしい。ただ、言うことを聞かないのがこの母で、強行突破で仕事に復帰したらしい。そうなると、母といる時間より伯母達といる時間の方が長くなっていってたので、どうしたものかと話をしていたようだ。それでその状態で二歳半まできた時に、父に海外転勤の話がでてきたようだ。それで母に専業主婦になってくれって話をしたが、母が全く同意してくれず、離婚に至ったようだ。
「えっ、母さん自らだったの?」
「わしは止めたけどな。」
そう祖父は言っていた。祖父が離婚させたと思っていたがそうではないことが、今やっとわかった。
その後は実誠は母に引き取られ、僕は父に引き取られた。そのことについて母が、何故引き取ったか教えてくれたが、実誠を抱っこしても嫌がらなかったという理由らしい。
そんな話をしていると、玄関のチャイムが鳴った。そしてしばらく待っていると、父が現れた。
「ご無沙汰しております。」
「きたか。いつも娘がすまない。」
「こういう人だとわかっておりますので、大丈夫ですよ。」
「今僕たちの生まれた時からのこと聞いていたんだ。」
父は笑顔でそうかと頷き、空いている席に腰を降ろした。
母は離婚後に実誠を連れてこの祖父の家にいたらしい。そして沢山のサポートを受けていたようだが、僕は父と海外で暮らすことになり、シッターさんを雇ったり、向こうの保育所に預けたり苦労が多かったようだ。
小さい頃は互いによく熱を出したりしていて、そんな時は僕は父が仕事をしながら見てくれたようだが、母は全て伯母やお手伝いさんに押しつけていたらしい。
「伯母さん、よく怒らなかったね。」
「だって怒れないわよ。可愛いかったんだもの。」
「その節は咲さんありがとうございました。」そう母は言っていたが、引き続き幼少期の話をしてくれた。
そんな時に祖父母の中が険悪になっていたらしく、原因は長山さんのことだった。この頃に発覚したようだ。祖父は認知を祖母が知らないうちにしたらしいが、祖母はそこから父と顔を合わせるのが嫌になり、そして実誠の顔を見ると、関係がないのに怒りが込み上げてくるらしく、ここに実誠を生活させるのは危険だとなったようだ。だからと言って、一人にするわけにもいかず、結局伯母さんが実誠を引き取ることになったのだと、ただ母も仕事帰りに伯母のところには行っていたらしい。
僕はと言うと父に育てられて、小さい頃からパソコンに興味をもつようになり、父が使わなくなった古いパソコンをおもちゃ代わりにキーボードを叩いて遊んでいたようだ。ご飯も小さい頃に何でも食べさせて貰っていたおかげか、好き嫌いも殆ど言わなかったらしい。
「私が育てるとこうはいかなかったわね。」と得意げに母が言ったので、僕らは苦笑いするしかなかった。
実誠はガサツな母と違い、伯母がそばにいてくれたので、横暴になることはなかったようだ。
実誠も幼稚園に通いだして、何の問題も起こさない、どちらかと言えばおとなしい子だったようで、家ではテレビを見たり、伯母さんと一緒にお菓子作りをしたり、工作をしてみたりと過ごし、幼稚園の帰りとか幼稚園の休みの日は、公園へ行ったりお弁当持って出かけたりしたようだ。そんな時にまた母が海外に行くと言い出した。それで父と戻りたいのかと思いきや、海外の会社で働くと言い出して、また大騒動したらしい。それで父と暮らすと言い出したが、父が反対したようで子供を連れて行く予定だったけど、一人で育てることはできないからと、実誠を伯母に託してというか押し付けて、海外へ飛んだらしい。
「母さん、もう少し回りを見ないとダメだよ。振り回される方の身になってみなよ。」
「えっ、実誠そんなこと言うようになったのねぇ。」と実誠の言った言葉は全く母には届いていないようだ。
「実誠、お前の言っていることは間違ってない。父さんも常々思っていることだ。」
そう父がその話に入ってきた。
それで、母は祖父の会社を辞めて海外で秘書の仕事を見つけてきて、勝手にミドルネームをつけて仕事を始めたようだ。名前の由来を聞いても、ただ響きが良かったからと言うだけだった。
父は実誠も引き取ろうとしたけれど、伯母に諭されて実誠をお願いすることにしたらしい。その間伯父は知らん顔していたって。もちろん父が実誠の養育費は渡していたようだ。誕生日もプレゼントを買って贈ったりしていたらしい。それに関しては実誠は記憶にないと言っていたので、伯母さんが実誠が幼少期に使っていたこのおもちゃとかって話すと、あれ父さんからだったのと驚いていた。
その後僕は小学五年の途中まで海外で暮らしていたが、父が日本へ帰ることになったので、僕らは日本で暮らすことになったのだ。その時に父は祖父や伯母に挨拶をしていたらしい。ただ実誠の環境を変えるのは、実誠の為にならないんじゃないかということで、そのまま引き続き伯母が見ることになったようだ。
僕は海外では父に日本語を教えて貰っていて、家庭内で日本語を使っていたけれど、日本に帰ってきたらそれが逆になった。外では日本語に触れる機会は多く、今まで使っていた英語を忘れてしまう為、家庭内では英語で話すことになって少し戸惑ってしまった。ただそれも慣れてきたので、それが普通になっていった。
そういえば実誠の家での様子が祖父に筒抜けだったのでその話を僕がふると、母が割り込んできた。
「あっ、それ私が父さんと咲さんに頼んだのよ。」
「えっ、僕が就職する時に手を回したのは?」
「ああ、それね。父さんに私が頼んだ。」
「えっ、そうだったの。」と伯母も知らなかったようで驚いていた。
「わしは自由にさせてやれって言ったんだけどな、全てこれが言ったことだ。実誠すまんかったな。」
それを聞いて、実誠と僕が持っていた祖父の印象が百八十度変わってしまった。全て母の仕業だったとは、しかも母は知らん顔していたのに。
「けどさ、大学行き出して実誠のことをあまり知ることが出来なかったんだけど、その頃あなたが転勤で海外にきたから、そこから話を聞いてたんだよね。」
その頃は偶然実誠と僕は同じ大学に通うことになって、永島が僕を見つけて、一緒に過ごすことが多くなっていた。それで僕は実誠と永島に英語を父と一緒に教えることになって、二人は英語で会話ができるようになっていった。就職して五年ほど経った時に、専務が工場の責任者をしていた時に、不穏な動きをしている者がいることを感じとっていて、それを祖父に伝えたらしい。そして、僕を呼び寄せることにしたと言っていた。木下にその役目をお願いしたけれど、何を勘違いしたのか不正を働いて拓実を追い出そうとしていたので、まずいと思って父に相談したら、母から僕に連絡がきてという流れらしい。
母は僕が大学時代に自宅にいた時、父から電話を受けてその時に一緒にいて始めて話すことになった。それから度々電話をするようになっていたので、その後は母に相談することが多くなっていった。たまに父にも電話をしていたけれど、父は主にシステムの組み方などの相談をすることが多かったのだ。
実誠は少しずつ笑顔を見せるようになっていたけど、やはりどこか不安に思っているところがあったようだ。
「実誠、心配しなくても大丈夫。ショックかもしれないけど、全てこっちの手中にあるのよ。それで弁護士さんとは今どう言う話になってるんだっけ?」
そしてそこからは僕が話をすることになり、週明けに電話の履歴を取り寄せることになっていると伝えた。すると母は徐に自身の携帯を取り出し電話をかけ始めた。
ルルルルル、ルルルルル、ルルルルル僕らはその光景を静かに見守っていた。
「…はい。…」
「部長お久しぶりです、植野です。ごめんなさいね休みの日に。ちょっと頼みたいことがあってね。今私日本に一時帰国してるんだけどね、会社の電話の履歴を今年に入ってからの分だけでいいから取り寄せてほしいの。電話料金を会長が見直したいらしくてね、頼まれてくれる。」
「…はい、わかりました。」
「それ届いたら、拓実って、あっ東浦に直接渡してくれるかなぁ。」
「…はい、そのように致します。」
「…ありがとう。それじゃあお願いします。では。」そして電話をきった。僕は取り敢えずひとつ片付いたのかと思っていると、また何処かに電話をかけだした。
ルルルルル、ルルルルル、ルルルルル
「…はい、山田です。」
「植野です。部長休みの日にごめんなさいね。今いい?」
「…はい。」
「部長の会社でうちの息子が携帯を契約してるんだけど、携帯の履歴がほしいらしいのね。それでどうしたらいいのかわからなくて部長に電話させてもらったんだけど、本人横にいるから変わるね。」そして母は実誠に電話を変わった。そして先程の母の電話と同じように、今年に入ってからの電話の履歴がほしいと言っていた。そうして母とまた電話を変わり、しばらく話をまたして電話をきった。
「母さん、顔広いな。」
「うん。異業種交流とか以前顔出してて、未だに交流してるからね。」
これで心配せずとも、必要な書類が手に入ることになった。後はあちらの弁護士に電話するだけとなった。
しばらく話をしていたが、みんなが顔を合わせることも珍しいので、会長の邸宅のダイニングで昼食を頂くことになった。それでここでまた母がとんでもないことを言いだした。
「ねぇ、私再婚したいんだけど。」
「はぁ?誰と。」
「あなた達の父さんと。」
すると、父が咽せていた。父も寝耳に水だったようだ。
それで祖父が取り敢えず落ち着け、もっと相手のことも考えろと言っていた。
「母さんさぁ、再婚は好きにすればいいと思うけど、周りを振り回さないようにしてくれないかなぁ。付き合ってられないよ。」
「父さんもどうするの?母さんに言われっぱなしだけど。」
すると、お前達のことが落ち着いてからでないと無理だろうと話をしていた。父も別に再婚は構わないらしい。祖父は父に申し訳なさそうにしていたけれど、父がお互いに苦労しますねと返していた。伯母はその光景を笑顔で見守っていた。
昼食後僕ら三人は伯母の家に戻ることにした。永島から僕の携帯に電話が入ったので出てみると、実誠と連絡取れなくてと言っていたので、ああ今実誠忙しくて電話出れないよと答えた。まぁ今家に帰ってきてると言っていたので、実誠はしばらく伯母さんのところに泊まってるよ。だからしばらくそっちには帰れないと伝えておいた。それで僕に会えないかと言っていたが、僕もこれから出かけるから、会うのは難しいと伝えた。そうすると諦めたのか電話を切った。すると実誠が会わなくていいのかと言ってきたので、会わないと応えた。僕は今会うとこちらの手の内を見せるようで嫌だった。またそうすることで、あちらも動きを見せるんじゃないかとも思っていた。
そしてその後は三人でのんびり家で過ごすことにし、明日は日帰りで温泉に行こうと話をしていた。
翌日は朝から準備をして、実誠の車で三人で温泉に向かった。温泉街の店に入って土地のものを頂いたり、土産物を買ったり、温泉にゆっくりつかったり、今日は実誠の気持ちを癒す為の時間に使うようにした。明日からまたストレスのかかる事態になるからだ。伯母も楽しんでくれていた。伯母は染み染みと、私には子供が出来なかったけど、こうやって二人がそばにいてくれて、一緒に出かけてくれて、私は幸せものだわって言っていた。
その後は観光をしてから伯母の家に戻り、晩御飯を食べた後、僕は自宅に帰った。
週明けの月曜日、出勤した時に総務に顔を出して、昨日母が休みの日に電話をしたことを詫びて、依頼したことも届き次第僕に連絡してもらうよう、改めてお願いをした。それから情報システム部に行き、長山さんに今日仕事が終わったら時間取れるかと話をした。彼も話があったようで了解してくれた。八反さんには全て書類が揃いそうですと伝えた。八反さんに伝えば伯父の弁護士さんに伝わるからだ。その後は、いつも通りの業務についていた。
今日は仕事が終わると、長山さんと近くの居酒屋で話をすることにした。
「長山さん、何か話があるんでしたっけ?」
「はい、永島から連絡が入りました。日本にいると。」
「はい、日本にいるのは知っています。」
「それで、また僕に手伝えと言ってきたんです。」
「何を?」
「これから不正を表に出すって言ってました。けど、断りました。僕を巻き込まないでくれと。」
「それが賢明だね。そのあとは大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。それで部長も僕に話が?」
「うん。」そして、海外研修の話をした。お母さんのことが心配なら一緒に連れて行ってもいいし、一人で行くならお母さんをこちらがサポートするしと話すと、母と相談してから返事をしてもいいですかと言ってきたので、かまわないと伝えた。彼も海外には興味を持っているようだったが、お母さんのことが心配で踏み出すこともできなかったし、諦めていたようだ。それと、祖父たちと話をしていたんだが、一度プライベートで祖父に会ってみないかと言うと、それは母が嫌がるのでできないと断られた。やはり祖父のことが怖いのだろうと思っていると、母から聞いたと言って本当のことを教えてくれた。
彼の母は住み込みで祖父の邸宅で働いていたのだけれど、あの家で過ごす内に祖父に惹かれていったようだ。
それで、祖父も彼の母を見ていて自然とそういう関係になり、彼を身籠もってしまって、それで祖父が無理矢理襲った形にして、家も用意してもらってそこで子供を産み育てていたそうだ。それで彼の母は恐怖からではなく、僕らに申し訳ない気持ちの方が強くて、会うことは難しいらしい。それで僕は土曜日の祖父宅で話をしたことを彼に聞かせると、凄く驚いていた。誰も恨みには思ってないし、これからは僕らと親戚付き合いをしたいんだよって話すと、彼は泣き出した。もしよかったら僕から君の母に会って話そうかと言うと、僕から話してからでもいいですかと言われたので、それでかまわないと僕は返事した。
居酒屋を出て駅で長山さんと別れたあと、永島から電話がかかってきた。
「なぁ、暇なんだけど、飲みに行かない?」
「俺既に飲んで帰るとこだよ。今日は勘弁してくれ。」
「そうなのか、今日本にいるんだしまた誘ってくれよ。」
「わかったわかった。じゃあ今から電車乗るから切るよ。」そう言って僕は電話を切った。
家に戻ると母に電話をして、長山さんに海外研修の件と親戚付き合いの件伝えておいたと言うと、母は拓実仕事早いねぇと言われてしまった。ついでにあいつの動向を聞くと、まだ動きはないみたいだから動きがあったら連絡すると言っていたので、そのまま電話を切った。
その後は、シャワーを浴びて仕事の準備をして、アレクサで音楽を聴きながらぼうっとしていた。明日は、あっちの弁護士に連絡を入れて断りを入れることになっている。仕事が終わる時間帯に連絡をいれるとして、またあいつから連絡が入るのかと考えていると、眠くなってきたので、ベッドにむかった。
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