第10話 不正の事実
祖父の邸宅に到着すると、祖父のいる部屋へ通された。すると専務もその場にいたので驚いたが、会長の目の前のソファを会長が指さしたので、そこに腰をおろした。僕の横には専務が座った。そして何の話なのか聞くと、これからのことだというので黙って会長が話始めるのを待った。
会長が話始めてからしばらくして、何故専務が呼ばれたのかを理解した。そして、何故僕がこの会社に呼ばれたのかも会長が話をしてくれた。まさかそこまで分かった上でのこととは思わなかったが、これからお前がすることは、実誠と会社を守ることだと言われた。その後は自由だとも。そして、会社の会長の持株についての話もされ、弁護士に書面にしてもらっているとのことだ。そしてわしに何かあった場合は弁護士に連絡するようにと、名刺を渡された。そしてこのことは実誠に黙っておくようにと言われたので、分かったと返事をした。
僕は会長の邸宅を一足先に後にした。専務は一緒に食事を共にしてから帰るらしい。車を走らせながら、会長は何故そういう気持ちになったのだろうと不思議に思っていた。いつもは傲慢なところがある印象だからだ。何か心境が変わる何かがあったのだろうかと考えても、見た目には何も変わった様子はなかったので、わからないままだ。
家に帰る途中お腹も空いていたので、ラーメン屋に立ち寄って、餃子セットを注文して食べて帰ったのだが、今日は珍しく甘いものが食べたくなったので、コンビニに立ち寄った。コンビニで何を買おうか見ていると、我が社の製品もあったので、そういえば入社した時長山さんに色々食べさされたことを思い出して、懐かしく感じていた。生菓子を買ったので、うちの製品ではないが帰ってコーヒーを飲みながら、美味しく頂いた。
翌日は朝から社長がいない為、社長のパソコンは僕の手元にある。社長にはこちらに預けるように前もって言っていたが、あまり今は第三者に触られたくない。昨日の会長の話があったからではないが、あいつも立場が逆なら同じことをしているかもしれない。遅刻の件は社長から専務に連絡は入れていたようなので遅れても問題はなさそうだ。僕は昨日のウイルスに犯された社長のパソコンについて対応していた。しばらくすると箕島さんが、ウイルスについて僕にも見せてもらえませんかと言ってきた。自宅でウイルスについて色々調べてきたらしい。それで、あまり見せたくはなかったが見てもらうと、簡単にウイルスが消滅してしまった。僕が箕島さんを見ると、箕島さん自身も驚いたのか消えましたねと言っていた。そして一度独立回線のインターネットに繋ぎ、問題がないか検証したが問題が起こらなかったので、社長が戻り次第社長室に戻すことにした。
今日朝早くから伯母と一緒に家を出て、本当に伯母を病院に送り届けてから役所に行き住民票を伯母の家に移し、戸籍抄本を新たにとった。役所で順番を待っていると、伯母から連絡があり終わったらしいので、伯母を拾ってから弁護士の八反さんに連絡し、今から銀行へ向かうと伝えると、銀行前で直接待ち合わせることになった。
車を銀行近くのパーキングに入れて、歩いて銀行前までくると、弁護士の八反さんに、伯母様は終わるまでお待ち頂きたいと言われた。伯母は残念がったが、僕にお任せくださいと言われ仕方なく、近くの喫茶店に入って待つわと銀行前で別れた。
銀行に入ると事前にアポイントを取っていたので、奥の部屋に通された。そして後は八反さんが全て対応してくれて、証拠をおさえることができた。後僕の住所変更も行って貰った。もう一つの口座については、今度入出勤があった際に、八反さんに連絡がいくようにして貰った。
銀行を出て伯母に連絡を入れると、喫茶店から出てきたので、八反さんとは銀行前で別れ、僕は伯母を自宅まで送った後、会社に今から出社する連絡を入れた。
会社に到着して情報システム部にノートパソコンをとりに行くと、デスクトップ型が元に戻ったので、社長室に戻すと言われた。パスワードもノート同様に設定してあるということだったので了承し、一緒に社長室に行き設置をしてもらった。そしてデスクトップには敢えて不正のデータも残しているらしいが、僕が普段使う方ではないらしいので、切り忘れないようにだけ言われた。その後専務に連絡を入れ、午前中の報告を受けた。
実誠の銀行の件も対応が済んだようなので、仕事帰りに弁護士の八反さんにアポイントを入れた、二人だけで話がしたいと言って。すると、今日家に来てもらっても大丈夫と言われたので、会社の最寄り駅からタクシーに乗り、お宅に伺った。
「今日はどうされました?」そう聞かれたので、実は…。と言って昨日会長から話されたことを伝えた。そして会長がお願いしている弁護士の方の名刺を差し出した。
「内容はわかりました。ただ会長はこのことはご存じですか?」
「内容は伝えていませんが、弁護士が入っていることは伝えています。連携をとってもらうように僕に指示されました。」
「わかりました。植野さんはこの件は伝えてないですね。」
「はい。伝えていません。」
「わかりました。そのように対応致しましょう。後、僕のところにくる前にお願いする予定だった弁護士の方には連絡しましたか?」
「いえまだです。」
「そうしましたら、週末に集まった後に返事をしてください。」
「わかりました。」そして、一人気になる方がいるのですがこの方ご存じですかと、一枚の写真を出してきた。そして知ってますと言うと、この方が最初に始めたことのように見受けられますと言われたので、やはりかと僕はその写真をじっと見つめた。詳しくはまた週末にしましょうと言われたので僕は返事をしお宅を後にした。
家まではタクシーで帰った。連日出歩いているので少し疲れていて、今日は風呂を溜めてはいることにした。お湯を溜めている時に、永島からメールが来ていたので見ると、あれから弁護士には連絡したのかとあったので、忙しくてまだしてないが、週明けには連絡できるだろうと返信しておいた。そして、実誠に電話して、永島からのメールの内容と返信内容を伝えておいた。そうしている間に風呂の湯も溜まったので、ゆっくり湯に浸かった。
週末になり、今日は八反さんのお宅に伺う日だ。実誠のことが心配だったので、事前に伯母に電話を入れ僕も泊まって行っていいか聞くと、いいわよと言ってくれたので、週末お世話になることにした。駅のロッカーに荷物を預けて僕は出社した。この荷物を持って出社は流石に目立つからだ。車できてもいいのかも知れないが、いつもと違う行動は、こう言う時はしないのが賢明だ。といっても荷物を預けている時点でいつもと違っているのだが、それ以外は通常と何ら変わらないので大丈夫だろう。
会社では週末ミーティングの時間を十六時からにし、それまではいつもと変わらない行動をとった。ウイルスの件も落ち着き、箕島さんが社長のパソコンのウイルスに対応したことを社内のシステムにも反映してくれているので、それからは問題が起こっていない。そして佐々木さんと八反さんと時間が来たのでミーティングを行った。すると佐々木さんが、最近社長の周りが騒がしくないですかと言ってきた。それはどうしてかと尋ねると、ウイルスの件もそうなんですが、秘書の方がやたらめったら僕に社長のパソコンのことで聞いてくると、そして他のメンバーにも言っているが、社長の件は何を聞かれてもわからないで通して下さいと。それを聞いて、騒がしいのは社長秘書に原因があるので、今のままの対応を続けてもらうようにお願いした。
ミーティングも終わり部屋に戻ると、長山さんから声をかけられたのでどうしたのか聞くと、永島から連絡がきたとのことだった。弁護士のこと何か聞いているかとのことだったので、何も聞いてないと答えただけとは言っていた。それで弁護士の方とはと聞いてきたので、それは週明けくらいになるから心配しなくていいよと伝えておいた。長山さんには本当のことを伝えるのは辞めておいた方がいいだろう。彼の場合抱え込む癖があるので、負担になることはこちらも言うべきではないと思っているからだ。すると、協力できることがあれば言ってくださいと言って部屋を出て行った。そう言えば興信所に彼のことを頼んだままだったことを思い出した。それで電話を入れると、あれから探っても毎日自宅に直帰してるだけと言われたので、調査は打ち切ってもらった。代金については後日振り込むことになった。
仕事が終わり駅に預けた荷物をとってから、伯母の家に向かった。伯母の家に到着してしばらくすると、実誠も帰ってきたので、今日は先に食事をしてから行こうと言った。伯母に頼んですぐに用意してもらい、僕らはダイニングの椅子に腰掛けた。そしてカレーとサラダが出されると三人で食事をとった。その後伯母が洗い物をしている間に、僕はタクシーを呼び普段着に着替えてから、八反さんのお宅に向かった。
八反さんのお宅に到着すると、中に案内され調査の結果が机に並べられた。不正の証拠である通帳を作った者とその通帳の履歴、不正処理の対応をした者の防犯カメラの映像、そして会社のパソコン内の内容と防犯カメラの映像、全ての資料が揃っていた。実誠はその事実を知った時、ショックを受けていたが、僕にお前は知っていたのかと言われたので、確証はなかったがなと伝えた。そしてこれからどうするかについて、話をしなければならなかったので、実誠を一旦落ち着かせた。後、追加で実誠の通話履歴も必要になると言われたので、再度取り寄せてから彼らを呼び出す必要があるとのことだったので、関係者全てを集めてそこで証拠を突きつけようという話になった。週明けの月曜日に電話の履歴を社内分も含めて取り寄せと言うことなので、社内分は専務の手をかり、総務部長を通すことにした。そしてお願いしている弁護士には、断りをいれる連絡を火曜日にしてくださいと言われたので、それは僕から連絡を入れることにすると伝えた。実誠はまだ信じられないといった表情をし、そして頭を抱えていた。横にいる伯母も驚きを隠せないでいた。
八反さんとの話が終わり伯母の家に帰る時にタクシーを呼んだのだが、三人とも無言だった。伯母の家に到着し、取り敢えずダイニングに腰をかけた時に、伯母が言葉を発した。
「こうなることを拓実くんはわかっていたのね。」と言われたので、うんと答えた。その後しばらくは何と言っていいかわからなかった。どれくらい経っただろう。伯母さんがお茶入れるわねと席を経ったので、実誠に声をかけた。
「実誠、こんなことになって申し訳ない。」
「いつ気づいたんだ?」
「前の弁護士事務所に行った帰りにきた、あいつからの電話だよ。実誠に聞いたら連絡きてない感じだっただろ。覚えてるか?」
「うん、連絡ないからな。」
「でもお前に聞いたように装ったんだよ。」
「えっ、それだけでか?」
「そうだ。」そう言うとガックリと肩を落としていた。そのタイミングで伯母さんが温かいお茶を出してくれた。
「実誠くん、拓実くんが同じ会社にいてくれてよかったわね。」
「そうだね。拓実がいてくれて本当によかったよ。」
「うん、まさかこうなるとは僕も思ってなかったけど。」
「会長様様だなぁ。」
「ああ、そうだな。」そう言って僕はお茶を口にした。
「実誠、しばらくあいつからの電話どうする?」
「そうだな…。どうするかな。」
「来週いっぱいだけでも、着信拒否したらどうだ。お前のところに連絡つかなかったら、こっちにかかってくるだろうし。」
「そうだな…。でも、今日一日考えさせてくれ。一応会社の代表だし。」そう言ってお茶をした後、シャワーを浴びて先に休んでいた。僕は伯母さんとまだしばらく話をしていた。実誠の様子が気になるが、少し祖父の話になったので、話をすると黙って聞いてくれていた。
その後僕もさっとシャワーを浴び、伯母が風呂から上がるのをまって、居間にひいてくれた布団に入って眠りについた。
翌日は早くに実誠が起きてきた。そして、僕も布団からでることにした。
「実誠、眠れなかったのか?」
「ああ。あのさぁ、会長にはどうするんだ?この話。」
「話しに行くか?」
「そうだな。」
「わかった。付き合うよ。」そしてまだ早いのでもう少し時間をおいてから、会長に連絡することにした。
それまでは二人で朝ごはんを作ることにした。こうやって一緒にキッチンに立つことは初めてだが、取り敢えず何かしていないと落ち着かなかったのでそうすることにした。出来上がったくらいの時間に、伯母が起きてきて驚いていた。そしてポロッとカレーあったのにと言われた時には、僕らは顔を見合わせて伯母に謝った。すると、まぁ今日の晩にまたカレー食べればいいわ。冷蔵庫に入れてたしと言って許してくれた。
ダイニングテーブルに朝ごはんを並べると、伯母さんも美味しそうねと言って席についてくれた。そして食事のあとで祖父にこのことを話にいこうと思うと伝えた。
すると伯母さんもついて行くわと言ったので、僕らは会長に連絡を入れ、三人で向かうことにした。途中、手土産を伯母が買って行くと言ったので、老舗の和菓子屋に立ち寄った。
会長の邸宅に到着すると、会長がいる部屋に通された。
「お義父様、ご無沙汰しております。こちらお義父様の好きな和菓子屋さんのお饅頭です。」
「おお、咲さんもきたのか。ありがとう、後で頂くよ。」そして僕らは会長の前のソファに腰を降ろした。
「咲さん、最近はどうだ?」
「まぁなんとか暮らしております。今は実誠くんも一緒にいるんですよ。拓実くんもたまに来てくれます。」
「そうか。ところで今日は何の話だ?」そう言われたので、昨日弁護士との話し合いの内容を伝えた。そして実誠が一旦社長を退きたいと言い出した。僕はその発言には驚いたし、そうせざるを得ない実誠の気持ちを考えると胸が痛かった。すると会長が、ある提案をしていた。実誠はそれには戸惑っていたが、専務も了承していることを伝えられると、少し時間が欲しいと言っていた。実誠は少し席を外しますと言って何処かに行ってしまった。その間に人事について、僕に意見を求めてきた。それで僕は自分の意見として応えた。
「そうですね、話をしてみたり部長会議の内容を見ていると、総務部長か経理部長あたりかと。」と話すと、専務も同じことを言っていたらしく、やはりお前は人をよくみているなと言われた。そうしたらその二人をあげるかと言っていた。しばらく話をしていても、実誠は戻ってこないので、実誠を探してきますと言うと恐らくあそこだろうと言っていたので、伯母さんに教えてもらってその場所に行くと、その場所で実誠はじっと座り外を眺めていた。僕が声をかけると振り向いて、この場所について話をしてくれた。
「この部屋は両親の離婚後すぐに使っていた部屋なんだ。それでこの窓から仕事に行った母の帰りを待っていて、丁度あの角を曲がったあたりからよく手を振ってくれた。」
「そうか。」そう言うと僕はしばらくその場で一緒にいることにした。そして実誠が未だに母を求めていて、母からの連絡を求めているんじゃないかと思ったので、母親であるあの人にメールをすることにした。
『実誠 HELP』
するとすぐに返事が返ってきた。
『今、もう近くにいる。』すると、実誠が「あっ。」と言葉を発したので窓の外を見ると、遠くの方から手を振る母の姿だった。そして僕らは急いで玄関に回った。
「実誠、拓実、来たわよ。」
「母さん、何で。」
「父さんが行ってやったらだって。」
「えっ、父さんは向こうなの?」
「いいえ、一緒にきてるわ。先に荷物をホテルに預けに行ってるのよ。実誠、また半べそかいてるの?拓実がいてくれてるでしょ。拓実、ご苦労。」
「えっ、僕にはそれだけ?」
「何も言うことはない。ところで父は中にいる?」
「うん。伯母さんもね。」
そう言うと、母は僕らを引き連れて中に入っていった。そして伯母さんに頭を下げて、お礼を言っていた。その後、みんなでお茶をしている時に、今の現状を話すことになった。それと実誠がどうしたいのかも。すると、僕に話を振った。
「拓実、実誠が会社に戻るまで一年間元の会社に戻るの待ってやりなさい。実誠、販路拡大名目で長山くんと私達のところにきなさい。拓実は実誠が帰るまで伯母さんのところに住まわせてもらいなさい。」
「えっ、今の家どうするんだよ。」
「お前は何でも勝手に決めるな。」
そう言って祖父が話を止めていた。そう言えば預けたあいつはどうしてるのか聞いたら、一緒に戻ってきてると言われたので、向こうでの様子を聞くと。
「それなりに教えたけど、あれじゃ上に立ったとしてもすぐにダメになるだろうね。本人はできてるつもりだけど、全くダメだった。それに彼何か親のこと勘違いしてる風だったね。」
「そうか、その勘違いがこういうことか。」
そう言っていたので、何も知らされてなかった僕らも彼の親のことについて聞くことになった。話を聞いていると、彼から聞いていた話と全く違っていた。そして実誠が計画していたことは、あいつが上に立ち、実誠は外に出ると言うことだったが、はっきり言ってそんなことをすれば、従業員を路頭に迷わすことになってしまうだろうと思ったし、実誠もその現実を思い知らされたようだ。しかもその願いは叶わなくなる。あいつには母が既に興信所に依頼して日本での動向を探っているらしい。長山さんの話にもその後すると、彼も親戚付き合いしてくれるといいねと母が言い出して、祖父も驚いていたけれど、会って話してみたいと言うのは祖父も思っていたようだ。
そしてもう一度母が実誠にどうするのか聞くと、母がさっき言った通りにすると言うので、実誠については話がついた。あとは僕のことだが、伯母さんが今まで通り、たまに顔を見せてくれればいいわと言ってくれたので、僕が引っ越すという母の話は却下された。
「ところでさぁ、あいつ日本にいるっていうことはあの家に戻ってるんじゃないの?」
「そうだね。連絡きたら、しばらく伯母の家にいることになったからと言っときなさい。片付いたらその家引き払えばいいし。」
「わかった。」母はさすがだなぁと思わせてくれる。あれだけ実誠が悩んでいたのに、あっという間に解決に導いてくれる。そして僕らはついでに両親のことについても聞いてみることにした。
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