第8話 Sという人

 今日は新入社員の研修最終日だ。午前中はまた野村さんのパソコンを確認していたが、やはりおかしい内容は見当たらない。っとなると、やはり見合い相手の会社か。まぁ実誠からの連絡を待つしかないかと思いながら、午後の研修について佐々木課長と打ち合わせをした。今日の指導は佐々木課長が中心になる。僕はサポートするだけだ。僕が指導すると部長とわかっているので、彼らの緊張が増すだろうと考えたからだ。そして教えることで、作成していた時に見えなかったことに気づく場合があるので、このシステムに直接携わった彼らが教える方がいいと僕は思っている。


 昼休憩を挟んで、僕は佐々木課長と研修室へ向かった。今日は各部からのメールについてだ。どのメールが読んでいいものなのかと、メールで指示がきた時に大事な内容は添付されずに共有のところで確認なのでその見方、メールに送る時の文面等ほぼ基礎的な事だ。なので指導時間は二時間程になるので、その後は総務に引き継ぎ、配属先の辞令書が渡される。

 佐々木課長は慣れたもので、今日はここからやるからと言ってメールを開けさせた。事前に練習用にメールが送られているので、それを見ながら指導をしていった。僕も机を周り、理解していない人に横からこれだよと指導した。そして一通り指導が終わった時に、質問があるか聞くと、申し訳ありませんが、この部分をもう一度知りたいですと言う人がいたので、佐々木課長が説明をしながら、僕はその人のパソコンを一緒にみてこれのことだよと伝えると、その横のものと勘違いしていましたといっていた。そうかこれ分かりにくいかなぁ。みんなどうだと尋ねると、もう少し大袈裟なくらいにアイコンを分かりやすくしていただいた方が、目が疲れてくると間違える可能性があると思いますと意見を出してくれたので、そうかだったら調整しないといけないなぁ、そう言って自信のパソコンで調整した。すると、これならわかりやすいですと言っていたので、他のアイコンの調整も持ち帰って行う事にした。そうしてるうちに時間がきたので、研修を終了し僕は総務に連絡を入れた。その後は総務担当者と入れ替えに部屋を出て、一旦情報システム部の部屋に戻り、荷物を置いてから再度僕だけ研修室の前に待機した。他の部門の部長も続々と集まってきたが、人事部に関しては課長が来ていた。あのことがあってから、今は自宅待機になっているようだ。

そして、中から入るように言われ、すでに専務より辞令書が渡されていたので、部屋に入った順に新入社員の名前を呼び事例書を確認した上で、それぞれの部署へ連れ帰った。僕も加納さんを呼び、辞令書を確認した後、行きましょうと研修室を後にした。


 情報システム部の扉を開けると、拍手で新入社員を迎え入れてくれた。そして加納くんが挨拶をしたあと、僕らもそれぞれ自己紹介をしていった。そして最後に僕が挨拶をした。

「この情報システム部の部長の東浦です。加納くんの指導係は高山さんが行いますので、机は高山さんの横を使ってください。それから次出勤が月曜日なので、直接こちらに来てください。掃除については各自帰る時に自分の周りをして帰ります。こちらの部屋へは掃除の方は入れないようになっているので、必ずして帰って下さい。埃は大敵だからね。」と言って今日は全員で掃除をし、終わると帰る準備をし、それぞれ帰っていった。

僕も仕事が終わり会社を出たところで伯母さんから電話があり、家に寄ってと言われたので、帰りに寄ることにした。


 伯母の家に到着すると、実誠くんが話があるらしいわよと、中で待つように言われた。しばらくすると実誠が到着したので、ダイニングで話を聞くことになった。

「言ってた会社を調べてみたよ。この会社、女性経営者で水本と言うんだけど、野村さんの従兄妹らしいんだ。その人の娘との見合いだったらしい。それでこの会社なんだけど表向きはよく見せてるけど、内情は火の車らしい。それで、どちらかを抱き込んで、会長に金を出させることを目的に動いたんじゃないかと思うんだ。」

「けど、そんなの調べれば会長もわかるんじゃないのか?」

「細工がされてたんだ。だからそれに気づかなければそのまま推してくるだろう。ただ、二人共に断ってるから会長も諦めたんだと思う。規模もそれ程大きくないし。」

「そうなのか。そうしたら気をつけろと言う内容は片付いたのか。」

「嫌、まだ一つ調べてることがある。それはまだはっきりしないんだよ。わかり次第また連絡をするよ。」

「わかった。」そしてまた伯母さんの手料理を食べてから家路についた。


 週末の休みは、少し車で出かけることにした。海辺に向かって車を走らせると、まだ肌寒い風が吹いていた。

近くのカフェで車を止めて、そこでモーニングセットを注文した。最近は立て続けに仕事が詰まっていたので、こんなにゆっくりした時間を過ごせる週末は久々だ。

海を見ながらコーヒーとパンを頂き、セットのサラダも口にした。それから今度は山の方に車を走らせ、近くの温泉に入ってから、ちょっとした土産を買って伯母のところに持って行った。伯母さんは急な訪問に驚いていたが中に入れてくれて、一緒にお土産を堪能した。いつもご馳走様になってるので、少しだけどお礼も兼ねていた。伯母さんは喜んでくれたけど、何か浮かない顔をしていた。それでどうしたのか聞いてみた。

「昨日ね、調子悪くて病院に行ってきたんだけどね、検査したらね胃が荒れてたのよ。体重も増えててね。食べすぎだって言われたの。体重減らさないといけないんだけど、どうしたらいいのかわからなくてね。」

「ごめんね、伯母さん。僕たちが色々心配かけてるし、ご馳走様する為に色々作ってくれてるでしょだからだね。伯母さん、ウォーキングはダメなの?」すると、歩くときにどんな服装すればいいのと言われたので、伯母さんを連れて、ジャージの上下を買いに出かけた。そして伯母にあうジャージをプレゼントし、家まで送り届けた。それで実誠に伯母さんの話をすると笑いながら、多分ウォーキング用の靴ないと思うから、明日靴買いに連れて行くわと行っていた。


 日曜日は家にいた。あともう少しで本を読み終わるので、アレクサで音楽を聴きながら、本を開いていた。すると、携帯のメールの着信音がなったので見ると、また変なメールがきていた。

『長山に注意しろ 君たちの敵だ S』今度はSか、誰なんだろう。そしてまた僕はネットでこのアドレスを検索した後、この人物にメールを返信した。

『どちら様でしょうか、どちらの長山さんのことですか?』するとまた返事がきて、僕の秘書のことらしい。この間からNという人物とSという人物から注意喚起の内容が届くが、全く名乗らないので何故こんなことを送るのかがわからない。それでまた実誠にこのようなメールがきたことを伝えると、長山のことは今調査中だからいいんじゃないか他にも怪しいと思ってる人間がいるってことだろうと言われたので、まぁこれはこれでいいのかと思うようにした。そしてまた、中断した読書を始めることにした。


 翌日から加納くんの指導が始まった。基礎的な部分も話をしていってるようで、高山さんが不足な部分を補うような指導をしていた。その他に研修の時に言われたアイコンについて、島田さんに調整をお願いした。

 僕は自室のパソコンで、自分の業務を行いながら、久々に長山さんのパソコンを覗き、動向を確認した。すると、パソコン内にある情報を見つけたので、すぐにそれを印刷し、八反部長代理を部屋に呼んだ。そしてそれを確認すると、八反さんが経理部長に依頼し、内々で結果を伝えてくれるようにお願いをしてくれた。そのあと僕は、興信所に現状どうなのかを聞きたいと伝えて、今日の帰りに事務所に寄る事にした。


 仕事を終えて興信所の事務所に到着すると、現状の誰と会って繋がっているのかを確認することができた。そしてまた、引き続き調査を続行してもらうことにした。


 自宅へ帰ると、海外のあの人に電話を入れた。今起こっていることを説明し、僕がどう動くのがベストなのかを相談した。すると、実誠に責任が行くように仕向けられるから逆手をとれと言われたので、そのように進める事にした。これで敵が誰なのか誰と戦わなければいけないのか、少し見えてきたようだ。


 四月末になると、新入社員も動けるようになってきたので、簡単なものから任せることになった。高山さんが横についていて、毎回確認してもらっているので安心だ。新規システムも今のところ順調だ。ただこれからゴールデンウィークの長期休みになるので、休み期間が明けてから、パソコンシステムが再度上手く稼働するか、確認作業が必要になってくる。それで事前に佐々木課長と箕島さんと木宮さんに、システムを確認してもらうことにした。ゴールデンウィークは会社がずっと休みになるので、どの部署もそれに併せて出荷する数の増減の調整があるので忙しくしている。ゴールデンウィークまではあと二日程なので、僕も休み前にやっておくべきことを確認し、部下に仕事を割り振った。


 それらが終わり次の出勤までは皆んなそれぞれ旅行に行ったり里帰りをしているようだ。僕は一人で出かけることが割と好きなので、こういった長期の休みには一人旅に出かけるのだが、今回は伯母さんを旅行に誘ってみた。すると三人で行きたいとのことだったので、実誠も誘って行くことになった。


 今回は信州に車で出かけることにしていた。事前に宿泊施設をネット予約していたので、チェックインの時間までは自由に近くを散策できる。事前に伯母から聞いた行きたい場所に立ち寄ってから、宿泊するホテルに向かった。高原ホテルを予約して、とても景色がいい場所にあると評判がよかった。そしてホテルに到着し部屋に案内されると、評判通り窓から美しい景色が広がっていた。荷物を置いて周辺を散策した後、ホテル内の温泉施設に行った。その後部屋に戻ると、美味しそうな料理が並んでいた。三人でその料理を食べながら、昔話を伯母さんに聞かせてもらい、何故僕らが離れ離れになったのかを詳しく教えてくれた。食事が終わってからも、明日どこに行くとかを話していて、寝る前にもう一度温泉に入ろうかと言われたので、僕らはまた温泉施設に向かった。温泉から戻ると布団が三つ並んで敷かれていたので、伯母を真ん中にして寝る事にした。

 翌日も牧場に行って乗馬をしたり、観光地を歩いて食べ歩きをしたりして、夕方にホテルに戻り、初日同様温泉に入って身体を癒し、遅めの夕食をとり、次の日は早いので早めに布団に入った。翌日は朝早くにチェックアウトをして、道すがらのカフェでモーニングを食べたあと、道の駅等に立ち寄りながら伯母を自宅に送り届けると、実誠は伯母のところにもう一泊するらしいので、二人を降ろして僕は自宅に戻ってきた。そして会社出勤の日までは、家でゆっくり過ごすことにした。


 ゴールデンウィークが開け会社に出勤すると、人事部長の退職が貼り出されていた。やはり息子さんの件がきっかけになったんだなぁと思いながら、情報システム部の扉を開けた。既に何人かは出勤していて、システムが稼働するか確認をとってくれているところだった。

 僕は自室のパソコンを立ち上げ、動作確認を行っていると、長山さんが来て、スケジュールを伝えてくれた。

休みはどうだったのか聞くと、母と日帰り旅行に行ったぐらいですと言っていた。

 そして今日のやるべきことを進めていると、八反さんが今日食事に行きませんかと言ってきたので、八反さんがおすすめの店にまた行くことになった。それで今日は久々の仕事なので、片付けなければいけないことも多く、帰るギリギリまで、自室に籠っていた。


 八反さんとは店の前で待ち合わせをした。そして店に入ると、経理部の部長も待っていた。八反さんの顔を見ると頷いたので、調査が終わったと言うことがわかった。

「お疲れ様です。依頼された件ですが、予想していた通りありました。ただこちらにはデータは持ちだすことはできませんが、社内で八反を通してお渡しします。」と言って頂き、おおまかではあるが内容を説明してくれた。そしてそれにより、何をしようとしているのが見えた。そして銀行の口座の情報を取り寄せる必要があるが、勝手にはできないのでどうしようかと話をしていた。それでこれはもう本人に協力させる他ないということで、本人に事情を話すことになるのだが、僕からではなく経理部長から直接言ってもらうことになった。あと、弁護士の方にお願いした方がいい気がするので、それも含めて誰に頼むのがいいか。それで、僕から実誠にO G 04 12 1(経理部長 実誠 部長室 緊急 会う)と暗号でメールしておいた。そして明日経理部長のところに行くよう伝えましたのでと言うと、いつの間にと驚いていた。


 店を一足先に出て家に戻る頃に、実誠から返事がきた。そして伯母に連絡して、仕事のことで話があるので実誠明日呼んでほしいと伝えておいた。


 僕は昨日拓実から緊急で経理部長に会えとのことだったので何事だろうと考えていた。何か不正経理でも見つかったのだろうか、それで朝一で経理部の部長の部屋を訪ねた。

「おはようございます。」

「あっ、社長おはようございます。」

「あの…。」

「社長、こちらへどうぞ。」そう言って部長のパソコンの指差したところをみると、思わず声が出た。  

「新しいシステムで、スムーズになりました。」と言いながら自身の携帯の入力画面を次は見るように指差し、『銀行に口座の履歴を調べてもらってください。あと弁護士にも相談をしてください。このデータは東浦部長に渡します。』それを僕が読み終わったのを確認すると、奥さんも喜んでいるでしょと言いながら今の文面を削除していた。

「そうですね、これだけスムーズになるんですね。ありがとうございます。」経理部長に向き直りそう伝えた。


 経理部長のところを後にして、昨日伯母のところにこいと言ったのはこの件か、面倒なことになったなぁ。伯母も心配するだろうなぁ。永島が戻ってくるまで持ち堪えないといけないんだけど、弁護士かぁ。誰に頼むかなぁ。そんなことを考えながら、社長室に戻ると、野村さんが僕のパソコンを触っていた。

「何をしてる。」

「あっ、すみません。社長がいらっしゃらないので、先にパソコンを立ち上げておいただけですよ。」

「そうか、でもこれからは許可なく触ることのないように。」

「はい。失礼しました。」そう言って野村さんは部屋から出ていった。ただパソコンを立ち上げただけと言うのは嘘だろう。パソコンを触ると温かかったので、しばらく触っていたんだろう。それで拓実にメールをして遠隔で僕のパソコンを調べてもらうことにした。そして数時間経ったとき不正見つかったと連絡がきた。


 実誠から自身のパソコンを調べてくれと連絡があったので、遠隔で見てみると、頻繁にアクセスされている履歴がある。一旦それを印刷し、あと隅々まで見てみると不正なデータが続々と出てきた。そのデータも印刷しアクセス時間を書き加えた。そして実誠には不正が見つかったと連絡しておいた。その後僕は席を外しますと言って警備室に向かった。警備室の画面には役員室は表示されないようになってるが、データは保存されているので、不正が開始した時から現在までの社長室と専務時代の部屋のデータとその時の社長の居場所を僕のパソコンに保存した。警備の方には少し不具合確認しますと伝えていたので、怪しまれずに済んだ。


 情報システム部に戻ると、長山さんが入ってきて、スケジュールの確認をお願いしますと言われたので、話をした。

「何か困っていることはないか?」

「……はい。」そう言ったが暗い顔になった。

「何か困った時は相談のるので言ってくださいね。」

そう言うと、弱々しくはいと返事をしていた。

その後スケジュールが伝えられた。

 長山さんが部屋を出てから、僕は必要なデータをパソコンで確認し、そしてそれを一部印刷をした。


 昼休憩が終わり、自室で通常の業務を行っていた時、八反さんが部屋に入ってきた。

「部長、少し加納くんの状況を見て頂けますか。」そう言われたのでたちあがって扉に進むと、僕のジャケットのポケットのところに埃がついてますので失礼しますと言って、僕のポケットに何かを入れた。そして僕の目を見て合図した。

「ありがとうございます。」そう言って情報システム室の方に行くと、加納くんの現状を見ることになつた。

「加納さんもうひと月経つけどどうかな。だいぶ慣れてきたかな。」

「はい。自分で勉強していたときよりも知識も得られてます。」

「高山さん指導していてどうですか?」

「そうですね、素直ですし積極性もあります。次の段階に進んでも良さそうです。」

「わかりました。そうしたら工場のシステムをもう少し変更したいところを考えてもらいましょうか。木宮さん、高山さんの指導の仕方見てたと思うので彼を指導してみてください。高山さんは指導する木宮さんのサポートお願いします。」

「わかりました。」情報システム部も少しずつではあるが、彼らに任せることにしている。


 仕事が終わり今日はそのまま伯母のところに向かった。伯母のところで、今日確認したことを話さなければならない。そして八反さんから渡されたデータの確認作業も。

 伯母の家に着き、パソコンを借りデータを確認した。それを印刷し、それから実誠のパソコンに入っていた不正のデータ、その時間に実誠がどこにいたのかと、またその時間に誰か実誠のパソコンでアクセスしたのかを確認していた。しばらくすると実誠が到着したので、取り敢えずデータを消される前に取り出したこと伝えると少しホッとしたようだ。ただ銀行は弁護士と一緒に行か無ければ、データや映像の確認ができにくい気がするので、どの弁護士に頼むのがいいのかを相談していると、

伯母が弁護士さんを探すなら弁護士に聞いて見るといいんじゃないかと言ってくれたので、伯母さんが離婚する時にお世話になった弁護士さんに電話してくれた。すると、それなら日方法律事務所がいいのではないかと言っていた。すると、実誠があっ、と言って一枚の名刺を出してきた。日方法律事務所 藤田寛之 と書かれていた。これ伯母さんの件で一度永島から連絡している人なんだけどと言っていた。それで実誠が電話をしてアポイントを取ると、明日なら時間が取れるとのことだったので、仕事が終わってから、伯母に印刷した一部のデータを弁護士事務所に持ってきてもらうことにし、明日実誠は車で僕は電車で直接向かうことになった。データ原本は僕が預かることになった。


 翌日仕事に行くと、長山さんがお話しがありますと言ってきたので、何だと聞くと退職願を出してきた。僕は驚いて昼に取り敢えず話を聞くから、思い詰めるなと伝えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る