第6話 システムの更新
週明けの社長と専務の就任式には、社員ほぼ全てが出席することになった。そして就任式の後、情報システム部より新規システムの開始日、詳細な説明等は、各部日程を決め情報システム部担当者が伺うこと、また開始日から一週間はフロア毎に二人ずつ常駐させて頂くことを伝えた。また困り事があった場合はその者が対応することも。但し、業務外の仕事、例えば暇だったらこれ入力してと言うような仕事を押し付けるようなことは対応できないこと、もしそういうことがあった場合、こちらから各部上司より注意が行き評価に関わることになることを厳しく伝えておいた。何故こんなに厳しいことを言うのかだが、以前のシステムの時に不具合修正に行くと、小間使いのように扱っていたことを目撃し、相手先部長に申し入れたことがあったのだ。少しくらいと言ってきたが、ではこちらにも人員回して頂きましょうか入力業務はこちらの部署の倍以上ございますが、こちらにそれを求めるならしていただきます。では部長こちらへお越しください。そう言って情報システム部に連れて行き、その日入力予定の束を机にドンと置いてやると、暗号のような情報入力なのでわからないのだろう。見るなり申し訳ないと言ってきたことがあった。システムはこれからまた新しいものに次々に更新しなければならないし、新しいシステムが機能しているかも毎日のように確認しなければならない。その為に他の部署には構っていられないのだ。
僕からの説明のあと、専務からも各部部長へ評価に入れるように伝えていますので、情報システム部の方々に必要以上の負担をおわせないようにお願いしますと付け加えて頂き、就任式は終了した。
情報システム部に戻ると、皆さんに就任式で僕が言ったことを歓迎してくれた。それから僕は言葉を発した。「皆さん、辞令の通り八反さんと佐々木さんには役職に着いて頂きました。僕が席を外す時はこの二人の指示に従ってください。二人とは前もって週ごとのすり合わせを行いますので、毎週金曜日に翌週の予定を決めて行きましょう。あと水曜日は全体ミーティングを行って行きましょう。」そう伝えると皆さんわかりましたと言ってくれた。
今月も終わりの日、翌日の四月一日から新しいシステムがスタートする。その為今日は各部部長は最終確認の為に残ってもらうが、その他の人達は勤務を五時に終えることになっている。取引先へも連絡は済んでいるようだが、こういう時に忘れて電話がかかってくるので、留守電の切替を忘れないようにお願いした。パソコンはつけたままで帰るようお願いしているが、誤って電源を落としていたり、有給でやすんでいる場合もあるので、まずそれを一台ずつ見て回った。そして確認がとれた上で、新しいシステムへの切り替え作業を一斉に行った。切り替わるまで役三時間はかかる。一旦パソコンの電源が勝手に切れるので、各部部長に自身のパソコンの電源を入れてもらい、初めの設定を行ってもらった後、データ移行ができているかの確認を行ってもらった。それでできているようだったので導入は完了した。明日は朝は各部部長始め、情報システム全員30分早く出勤になるので、全ての電源を確認した後、解散となった。
自宅に戻ってからはいつも通りのルーティンだが、今日は音楽も聞かずに布団に入った。疲れていたのか布団に入るとものの数秒で眠りについた。
翌日の目覚めはよかったが、今日は三十分早い為準備を急いだ。目覚ましをかけ忘れていたので、目覚めたのは奇跡だった。そしてコーヒーとパンを少しつまんだ。家を出ると駅までは走った。電車に乗り込むとよかった間に合ったとホッとして呼吸を整えた。そしていつものように車窓を見ながら、今日するべきことを考えていた。
会社へ着くと、皆さん出勤してきたので、各階毎に二人ずつ配置についてもらった。僕は開発部と各階のフォローに回ることになっていたので、まず開発部からフォローに回っていた。開発部の人達は僕が行くと既に出勤していて、丁度パソコンを立ち上げたところだったので、一緒に初めの設定をしてから、動作確認をしてもらい問題がなさそうなので開発部を出た。その後は人の少ない部署から確認して回っていると、社長と専務も各部署に様子を見て回っていたようで、それぞれに色んなところで出くわした。
朝から色んなところを動き回っているが、そう言えば長山さんの姿が見えない。どこに行ったんだと思っていると、会長室から出てくる姿が見えた。何故だかわからないが、その姿に違和感を覚えた。それで後で聞いてみることにした。
工場へ向かうと、今度は何か揉めている声が聞こえてきた。何だろうと様子を伺っていたのだが、あまりのひどさに出て行くことにした。
「何であんたが俺ら差し置いていきなり課長なわけ。」
「パソコンもできないのに、何でなんだよ。」
「君たち何をしているんだ。もう既に就業時間始まっていますよ。」
「…」
「早く持ち場に戻ってください。山野課長パソコンが上手く軌道されてるか確認しますので、まぁ山野課長なら心配ないんですが一応ね。では行きましょう。」
「はい、教えて頂いた通りには立ち上げましたが、少し気になるところがありまして。」
「では確認します。」そして僕は製造部の事務所に入って行った。パソコンを確認すると、すぐに修正できるものだったので、それは完了したのだが、山野課長に先程の件は浜辺部長はご存知ですかと尋ねると、その都度注意はしてくれてますが、何ともあの態度でということなので、僕が浜辺部長にある提案をした。浜辺部長には、幸田専務に僕がこう言う提案をしていて、研修という形で昼から出しても構わないか相談をしてもらうと、幸田専務笑っていましたが、許可がでた。それでは、十五時に山野課長お迎えお願いしますねと言うと、わかりましたと言っていた。そして、僕は午前中に他のところのフォローも回り、八反さんと佐々木さんに事情を話すと、現場はこの二人が順にフォローに入ってもらう形になったので、情報システム室で二人を迎え入れる準備をした。
昼休憩が終わると、問題の二人の主任が情報システム室に現れた。
「よく来てくれましたね、お二人がパソコンが得意とお聞きしたので、少しお手伝い頂きましょう。」そして二人を向かい合わせの席に案内して座らせた。そしてこれを入力してくださいと、システムの暗号が印刷された用紙の束をそれぞれの机に置いた。彼らは入力くらいと思っているようだが、これは複雑でパソコンになれた人でもかなりの時間を要する。彼らは複雑な顔をしていたが、入力を始めた時に一言付け加えた。
「それ一文字でも違えばエラーでるので、間違いがないように入力してくださいね。僕もこちらで入力しますので。」すると彼らは顔をひきつらせながら入力を始めた。一時間程入力したところで確認すると、まだ一枚目の半分くらいだったので、缶コーヒーを渡してやった。
「君たちペース遅いよ。この前山野課長にお手伝い頂いた時は既に五枚はいってたよ。そんなんで得意って言ってたの。困るな、戦力になると思ったのに。取り敢えずやれるとこまでやってよ。枚数減らすから。」そして、束になったものからニ枚をそれぞれ残し、僕の方へ重ねた。そして更に一時間経った時に、山野課長とそこで会ったという幸田専務がシステム室に入ってきた。
「どうですか?」
「全く役に立ちませんよ。パソコン得意と聞いていましたが二時間で1枚と少しですよ。」
「山野くん、君の部下仕事残してるね。残り入力してあげたら。」
「わかりました。」そして彼らの残りを山野課長が入力しだすと、彼らはそのスピードに驚いていた。
「さすが山野課長ですね。」
「そうだね、僕が製造部にいた時も、彼にメンテナンスをお願いしてましたからね。全体的に仕事も把握してくれて助かってましたよ。今回課長という正当な評価ができてよかったです。」
「この二人は口だけみたいですよ。もっとできるかと思いましたが、残念です。」
「そうだね。部長からも仕事しないと相談されてたので、これからひと月様子を見て、ダメだったら降格かな。」すると、二人は真っ青な顔をしていた。そして山野課長が二人に、僕の実力はおわかり頂いたようなので、製造部に一緒に戻りましょうかとちくりと嫌味を言って二人を連れ帰ってくれた。
幸田専務からもお礼を言われた。そして笑いながら
「これであの二人も大人しくなればいいですがね。退職した木下さん、東浦さんもご存知ですよね彼、腰巾着のようにくっつき回ってたんですよ。システム部に木下さんが移動になっても仲よかったみたいでね、それで主任になったんですけどね、何せ仕事が出来なくてね。灸を据えることができてよかったです。それでは僕はこれで失礼しますね。」そう言って部屋を出ていかれた。その後、あと片づけをしていると、秘書の長山さんが来たので、気になってたことを聞いた。
「会長から何か言付けあるか?」すると長山さんは、驚いた顔をして何もございませんと答えた。
「会長室に何の用事だ?」そう言うと、あせった様子で部長の郵便物に会長宛のものが混じってましたのでお届けしましたと答えた。
「間違った郵便物は、総務に戻す決まりだろ。違うか。」そう言うと申し訳ありません、今度から気をつけますと言っていたのでそれ以上突っ込んで聞くのは辞めておいた。あまりやり過ぎるとパワハラになってしまうので、取り敢えずおさえた。ただ何か隠していることはわかったので、調べる必要があるのではないかと考えていたが、しばらく様子を見ることにした。
時間もあとあと三十分程で業務終了になるので、一旦うちのメンバーをシステム室に戻した。そして、不具合などの報告をしてもらったが、営業部で初めの設定をし忘れた方がいて、やり直しがあったことと、工場での調整くらいであとは順調に動いていた。そして今日の報告書を作成して提出してもらった。電源を落とすのは今まで通りなので、明日からは通常通りの勤務時間からでいいだろうと判断しそれを伝えた。また使っていて調整が必要になるかもしれないので、来週いっぱいくらいまではサポートに入るが、その後は通常業務に移りましょうと話をして、今日の業務は終了した。それと、ここ最近彼らの残業については、総務に伝えてあり支給対象になるので、それも忘れずに伝えておいた。
僕も仕事が終わり、久々に自宅で自炊をした。ここ最近は帰るのも遅く、会社で食事をとっていたので、今日は色々作りたくて仕事帰りにスーパーに寄り、色んな食材を買って帰っていた。まずシャワーを浴びる前に、下ごしらえが必要なものだけ準備しておいた。
シャワーを浴びて、下ごしらえした食材を調理して行った。鶏肉と野菜で南蛮酢和えにしたり、枝豆を春巻きの皮で包んで揚げたものだったり、あとは豆腐とワカメの味噌汁を作って、他にも明日食べるものの下ごしらえをしたりした。食事が終わり、後片付けの後はアレクサで音楽を聴きながら、長らく手をつけてなかった本を手にした。『最期のとき』買ってたけど読む暇がなかったのだ。それをやっと開き、読み始めることにした。そしてその日は時間を忘れて読んでいたので、気づいた時には寝る時間になっていた。
翌日は通常通りの時間に出勤をした。システムも上手く稼働しているし、各部の人達も少しずつ新しいシステムに慣れてきていたようなので、仕事もスムーズに運んでいるようだった。何人かの部長に使い勝手を聞いてみたが、以前のシステムより使い易いと好評だった。そして僕は導入開始からのレポートを書いて行くことにした。これは社長や専務が見る報告書を書くために必要になってくるので、パソコン内に入力していった。そう言えば、また長山さんが見当たらない。秘書が持っている携帯は、社内の居場所をパソコンで確認できるようになっているのでそれを確認すると、会長室から出るところのようだった。何をしているんだろうと思っていると、システム室に向かってきていたので、長山さんのことを調べないといけないかと思っていた。
そして、秘書が使ってるパソコンを自身のパソコンから遠隔操作で確認してみることにした。ただ調べても何もないようなので、興信所へ調査依頼すべきかもと感じていた。それで、家に帰ってから永島に連絡を入れた。永島は今ビザの申請をしていて、海外へ行くまでに引き継ぎや自身の海外での滞在先の準備などで忙しくしていた。そして長山さんの調査をしたいので、興信所紹介してくれというと、メールで長山さんと昔とったと思われる写真と興信所の方の名刺を送ってくれた。そして早速電話でアポイントをとり、明日の仕事終わりに事務所に伺うことにした。
翌日は朝から彼の動きをパソコンで調査していた。殆ど会長室か、会長秘書の野口と接触しているようだった。会社のパソコン内は見られると分かっているからか、そちらに入力はしていないようだった。ただ僕が今いるところの部屋を出たところに控えているようだったので、行ってみることにした。
扉を開けると、会社で提供したパソコン以外のパソコンがあって、それを触っていた。
「そのパソコンは自身のか?」
「あっ、すみません。」
「持ち込みは禁止されているはずだが、どういうことだ。」
「すみません。」僕は拉致があかないので、パソコンを見ることにした。
「見せてもらうよ。」
「いや、これは。」
「見せないのであれば、会社の規定違反で通告するがいいか。」
「いや、あの。勘弁してもらえませんか。」
「できない。ではいいね。通告して。」
「申し訳ありません。」そう言うと、パソコンを見せてきた。入力画面は慌てて削除したようだったので、復元作業を行うと、社内横領のデータだった。取り敢えず個人のパソコンなので、僕個人の新しいUSBに保存をした。そして、このパソコンはしまうよう言い、もう持ってこないようにと注意した。甘いかもしれないが、どこからこのデータを手に入れ、彼は何をしようとしていたのか調べる必要があった。だからそのまま触れずに泳がせた方がいいかも知れないと考えていた。それと、会社帰りにアポイントをとった興信所へ向かい、写真を渡し名前を伝えた。明日から取り敢えずひと月の間調査を依頼をした。
興信所を出たところで、伯母さんに連絡を入れた。それは伯母の家にあるパソコンを借りる為だ。伯母の家には最近買ったパソコン以外に、古いパソコンがある。それを少し借りる為だ。ついでに晩御飯食べて行きなさいと言ってもらったので、伯母の手料理をご馳走になった。
「拓実くん、何かあったの?」
「うん、伯母さんだから話すけど、僕の秘書がこのデータ持っていたんだ。」
「これって、でもおかしいわねこれ。」
「えっ、どこ?」
「ここよ、この日付よ。覚えてない?」
「あっ、そう言うことか。伯母さんありがとう。助かったよ。」それを見てホッとした。ただ彼は何をしようとしてるんだ。何の為に。そう言った疑問が出てきた。
「ねぇ、あなたの秘書は何て名前なの。実誠くんに気をつけるように言わないといけないでしょ。」
「長山さんだよ。」そう言うと、えっと言って驚いた顔をした。伯母さんの知ってる人なのか聞いたが、いや、まだ下手にいいかげんなことは言えないから、また今度話すわと言われたので、こちらも興信所に依頼をしてるので、その話はそのまま聞かずにおいた。
仕事も週末になり、今日で新規システムの現場サポートは終了する。そして今度は、週明けに今年度の入社式が行われるので、その準備に取り掛かることにした。今年は例年より入社式が遅く設定された。それはパソコンの新しいシステムへの切り替えがあったからだ。そして今回入社する社員にも、ある程度使用方法を教えなければならないので、その教材が必要になる。といっても新規システムを導入する際に作っているので、それを新入社員向けに少し作り替える必要があるので、僕が作り変えていた。そして八反さんと佐々木さんと来週のすり合わせをする際に、入社式後の研修の際に誰が指導を行うかを相談した。そして、初日は佐々木課長と箕島さん、二日目は八反部長代理と高山さん、島田さん、三日目は佐々木さん木宮さん、四日目は佐々木さんと島田さんと僕、五日目は八反部長代理と、僕。そして、説明は役職者ではない人に任せて僕たちはフォローに回ることを決めておいた。そして皆さんが仕事が終わる前にスケジュールを渡した。パソコンの研修は午後からの時間に行われるので、そこで彼らの吸収率を見極める為、少し理解度テストも作ることにした。それは八反部長代理と僕が手分けして作り、その日のうちに振り返る意味でもいいだろうということで、五日分作ることになった。
僕たちがシステム室で話をしている時に、長山さんはまたどこかに行っていた。今日は忙しく動向を探る時間がなかったし、こちらも注意をしなかったので、自由に動けたようだ。そして、今日は殆ど顔を合わせることなく、業務を終了した。
帰り際八反さんに、少しご相談があるのですがと伝えると、じゃあ食事をしながらどうですかと言われたので、八反さんのお勧めの店に行くことにした。
「八反さん、急にすみません。奥様は大丈夫でしたか?」
「大丈夫です。僕が昇進してから機嫌がいいんですよ、しかも部長と行くと話してますから、是非行ってきてと言われました。」
「そうですか。ありがとうございます。」
「それで相談とは。」そう言われたので、長山の行動についてと、隠し持っていたデータについて話をした。すると、もしかしたら、実際に不正があるかもしれないですね、それのカモフラージュではないでしょうかと言われた。その不正をどう調べればいいか悩んでいると伝えると、僕は経理にいましたから、データさえあれば不正は見ることできますね。アクセスか…。そう言ってある提案をしてくれた。それは今決算が終わったところで、経理部は人手がいる状態なんですよ。そう言えばわかりますかと笑顔で言われたので、ではお願いできますかと言う話になった。ただ向こうから依頼がこないといけないので、経理部の部長に電話してもらい、僕のことは伏せてきてもらうことになった。
「お疲れ様です。」
「ああ、東浦部長もご一緒でしたか。」
「はい。」
「新規システムで大分仕事捗っていますよ。」
「ありがとうございます。あの部長、ご相談が。」そう言って事情を話すと、八反さんが行くまでもなく、経理部長が自分の権限で調査して、それを東浦部長に伝える方がいいでしょうと言って頂いたので、その通りにして頂くことにした。あと、もしかしたら、会社のトップも関係してるかもしれないと言うと、驚きながらもわかりましたその辺気をつけながら調査しましょうと言ってくれていた。連絡は八反さんを通して頂けるようなので、僕はお二人に巻き込んで申し訳ないとお詫びした。
それからは僕は先に帰らせてもらい、週末なので飲みたいんだろう、お二人でまだ飲んで行くと言うことなので、ここまでの分の会計を僕が済ませて帰った。
明日は休みなので、帰りにスーパーに立ち寄り、おつまみとジュースなどを買って帰った。
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