第3話 拓実の転職
今日からSWEETS株式会社へ出社する為、今までより三十分早く起き家を出た。最寄駅も今迄と反対方向へ五駅程行ったところにある主要駅だ。そこからは歩いて七分程だ。まず人事課へ行き必要書類を提出し、案内役を待っていた。そしてしばらくすると案内役で社長秘書の野村さんという方が来られ、これから勤務する部屋へ連れて行ってくれた。そこで長山さんと言う秘書の方を紹介された。彼は僕の秘書になるようだ。そしてその秘書から本日の予定を聞かされた。
今日は会長や社長、専務に挨拶後に社内の各部へ案内された後お昼を挟み、オリエンテーションで会社の概要や製造している商品についての知識を詰め込まれるらしい。そして僕の役職だが、情報システム部の部長らしい。まぁ、こちらもそれぐらいの役職ついていた方がやりやすいが、さっさと片付けたいなぁとは思っている。
「それでは参りましょう。東浦部長。」
そして僕は会長室に案内された。この部屋はやけに豪勢な作りだな。この人らしいけど、威圧感半端ないしはっきり言って無駄金だなとも思った。そして顔が勢揃いしていた。まずは会長の植野咲一とその秘書の野口さん。この秘書は僕に接触してきた人物なので、会うのは三度目になる。それと社長の植野左京とその秘書で先程案内してくれた野村さん、専務の植野実誠とその秘書で僕の友人でもある永島。そして何故僕がこの会社に入ることになったのか、それは僕と実誠は双子だからだ。僕らは一卵性なので、瓜二つと言うくらいに似ている。僕は会長の意向でこの会社に入ったが、犬になるのかそれとも蛇となるか、それはこれから次第だ。そしてこの会社の争闘の幕が開いたと言っていいだろう。
顔合わせも終わり、社内を長山さんに一通り案内された。社内にいる社員達は不思議な顔をしていた。専務と似ているので当然だが、秘書も違うから何故だと思っているのだろう。各部で挨拶をした時には名前が違うので驚かれたが、双子だけど両親離婚してるのでと言うと納得された。これから彼らは付いている秘書がどちらかなのかと、胸に付いているIDで判断することになるだろう。
自分の部屋に戻るとオリエンテーションが始まった。まずDVDを何枚か見た後、就業規則についての説明等があり、気付くと昼になっていた。こちらの会社も食堂はあるらしいが、営業職の方や役職者はあまり使わないとのことで、外出することになった。今日は長山さんのチョイスで少しオシャレなカフェに行くことになった。ここはあまり職場の方がこないので安心らしい。そしてその時に実誠からの調査依頼について話をされた。そして今後連絡係になると言うことも。ただ彼らに全て話すと言うことではありません。あくまで私は東浦部長の秘書ですから、指示に従いますとのことだった。まぁ従順な秘書を付けてくれたのは有り難いが、巻き込むのも申し訳ないなぁとも思っていた。
昼からは会社の製造している商品の説明がされた。定番商品、季節商品、限定商品、今開発中の商品等、これ全て覚えるのかと頭が痛くなってきた。すると長山さんが大丈夫ですよフォローしますから、慣れですよと言ってくれたので苦笑いしながら一通り確認をした。それと、毎日試食していきましょう、その方がわかりますからと柔かに言われたので、僕にとっては苦痛の日々が始まるのかと頭を抱えた。
取り敢えず今日は無事に入社初日を終えることができた。帰りも長山さんに販売している商品の試食品を渡された。お疲れでしょうから、甘い物食べてください。これも商品覚える為ですよと、どれだけ食べさせられるんだよ。これだけ食べることは今までになかったので、少し困惑してしまう。それからいきなり調査か、まぁしくじるわけにはいかないので、準備を進めていかないといけないな。
家に帰ってからも、甘いもの食べていたので、晩御飯は逆に塩っぱい感じのものが欲しくなった。冷蔵庫には梅干しと大葉に胡麻にと、これご飯に混ぜてあと胡麻油入れてと、これで一品完成だな。あとわかめと胡瓜で酢の物して、あとキャベツと卵にウィンナー入れてスープかな。口の中が甘すぎだなぁ。そんな風に思いながら晩御飯を作っていると、永島から電話がきた。今日はどうだったかとかそんな話だ。それで入社時にこんなに試食品食べたのか友人に聞くと、いやそんなにと言うことなので、何でこんなに違うのか聞くと、長山のやり方だからなぁとあっさり言われた。これいつまで続くのか聞くと、全種類終わるまでだろうなぁとのこと。全種類食べるまであと何日かかるのか、僕は頭をかかえた。あと調査の件了解と伝えておいた。
翌日会社に行くと、また試食品が用意されていたが、やるべきことがあるからこればかりしていられないだろうと伝えて、社内の情報システムについてまず見て行くことにした。あの木下さんが携わっていたシステムのようで、今の時代に合わせたシステムに更新した方が良さそうだった。それで長山さんに、システムの更新をする為の稟議をあげること、それぞれの部署の不便な点を聞いてみたいということを聞くと、稟議書は総務部長、専務、社長、会長の決裁が必要とのことで、書類を作成し提出してもらった。それから商品開発してるところに案内をしてもらい、稟議書が通り新しいシステムに移行する前までに、現在のセキュリティ等を確認し、少し細工しておいた。表向きは今まで通り使えるが、社長が見た時だけデータ反転と毎回数値がランダム化になるようにし、それらしくなるようにしておいた。社長は幸い従業員がいる時に来たことはないらしいので、これだけで対応できるだろうとは思う。あと念の為、データ保存する際にロックがかかる場所に保存するよう担当者に伝えておいた。まだ担当者には話していないが、セキュリティ対策の為なので協力してもらうようお願いをして、その場を後にした。部屋に戻ってシステムのことを色々考えていると時間が経つもので、その日の仕事を終えた。
今日会社に行くと、僕は会長室に呼びだされた。稟議書の件だろうとは思うが、まぁ秘書と一緒に会長の部屋に行くと、社長もそこにいた。ただ専務はいなかったので何だろうとは思ったが、やはりシステムのことらしい。どうやら社長が反対をしているのだとか。理由は社内が混乱してしまうということ、導入コストが今の状況ではかかり過ぎてしまうからという最もらしいことを言っていたが、要するに社長が機械音痴でやっと覚えた今のシステムを変えられるのは困るってことだろう。だから言ってやった。社内の連携ができていない現状で、各科バラバラで進捗が見えないということ。社員がいちばん今のシステムに不満を感じていること、コストはシステム自体外部に頼むわけではないので、導入コストを抑えられるということ。その他にも専門的なことを色々言ったが、今より簡単になること等を言うと、社長はそれでも反論しようとした。けれどその時会長が今より簡単になるのであれば、いいんじゃないかと言ったので、社長は何も言えなくなっていた。それで皆の目の前で会長が稟議書に印鑑をついたので、稟議が無事通った。
会長室から戻り、システム変更をする予定で各部の意見を聞く機会を設ける為に、まず各部門へ意見の取りまとめをお願いした。もちろん専務であるあいつの意見も聞かなければならないので秘書を通して連絡をいれた。
専務が言うには今までもシステムのことに不便を感じていたらしいが、専務が営業にいた時に、システムをいくら変更しようとしても部署も違っていたので具体的に進めれるわけはなく、また余計なことをいうなとばかりに意見を言っても流されてきたようだ。今回は僕が情報システム部に配属されたこと、また僕の前職の経験により専門的な立場から意見が言えたことにより、ゴーサインがでたのだろう。専務からもシステム変更について、各部責任者へメールで連絡をしてくれるようだ。まぁ少しはやり易くなるだろう。それから長山さんの例の試食のことだが、合間に出される飲み物と一緒に出されるようになった。彼も僕へ試食させるのを諦めていないようで、昨日あれから考えてきたのだろう、そのような対応を見せてきた。試食品を出される度に説明をされるが今回は大人しく聞いておいた。彼も仕事をしているのだから、文句ばかり言っても仕方ない。ただ、飲み終わると次を持ってこようとするので、それはやめてもらった。
仕事が終わり家に戻ると、永島にメールを送った。開発室のパソコンに細工をしたことを伝える為だ。細工をしたことにより、社長が動き出した時に僕に連絡が入るようになっているし、新しいシステムが導入されるまでの間に動き出すことは予想された。恐らく実誠達もそれは理解していることだろう。それまでの間にあいつも色々準備する時間も取らなければならないので、言っておいて正解だろうと思う。
メールを送った後は、シャワーを浴びいつも通り食事を作り、アレクサでリラックスできる音楽を聴きながらゆっくりと過ごした。翌日は休みなので、明日はのんびり買い物でも出かけるかと考えながら、ベッドに入った。
次の日は十時くらいに起きた。朝身支度をしてからコーヒーを飲み、遅めの朝食をとった。そして洗濯や掃除をした後、十二時過ぎに家を出た。
主要駅近くのモール内をうろついていると、知らない人から実誠くんと声を掛けられた。えっとと戸惑っていると、実誠くんもお買い物にきたの?とその五十代くらいの女性に言われたので、僕は実誠じゃないですと言うと、その方は驚いていた。実誠のお知り合いですかと尋ねると、実誠の伯母ですと言われたので、社長夫人の咲さんだと知った。それで、僕は実誠の双子の…と続けると、もしかして拓実くん?と言われたので、そうですと答えた。やっぱり双子だからそっくりねって笑って言われたので、そうですね会社でも皆さん戸惑われていますよと伝えた。それで立ち話も何だからと、近くのカフェに入ってお茶をすることになった。
カフェに入り互いにコーヒーを注文をした。そして伯母さんから畳み掛けるように話しだした。
「拓実くん大きくなったわねぇ。小さい頃に会って依頼だから覚えてないと思うけどね。実誠くんも拓実くんも本当に可愛いかったのよ。また会えるなんて思わなかったわ。今はどうしてるの?」
あれっ、この人は話を聞いてないのかな。今実誠と同じ会社にいるんだけどなぁ。それで僕は実誠と一緒に働き出したことを伝えると、驚いた顔をしていた。祖父の意向であることも伝えると、少し怒った感じの顔になった。まぁ実誠を小さい頃から可愛いがっていたから、僕が実誠を邪魔するんじゃないかと思ったのかもしれない。だから伯母さんには実誠とは連絡取り合ってるので大丈夫ですよと伝え、あと大学時代も一緒に過ごしてたこと伝えると今度は驚いた顔をしていた。まぁ、一緒の大学であることは父以外知らないことなので、驚くのも無理はない。
「お父様は、実誠くんの時もそうだけど、自分の思い通りにしないと力で持ってねじ伏せてしまう人だから、拓実くんもそうだったんじゃないかと思って腹立たしくて、実誠くんと連絡取り合ってるなら安心だけど、あと同じ大学だったのね、知らなかったわ。あの子何にも教えてくれなかったなんて、伯母さん寂しいわ。」彼なりに僕を巻き込まないようにしてくれていたと伯母には伝えた。それから今は祖父や社長の目があるので、大っぴらに仲良くはできないけれど、お互い意識し合ってますよとも話した。その後は伯母のことや社長のことを聞かされたりした。それからしばらくして、お互いに買い物途中であったこともあり別れた。
僕はモール内の店舗で服を買った後、今日は惣菜を買って帰り自宅でシャワーを浴びたあと食事をした。それと友人の永島に社長の奥さんに会ったことを伝えておいた。
週明け会社に行きメールを確認すると、各部署からまとめられた内容が添付されていた。やはり思ってた通りだ。連携取れてない、各部でバラバラだな。中には愚痴も含まれている。早急にシステムの構築が必要だな、そういえば僕の部署の人たちは、何をしているのか疑問があった。それで長山さんに聞いてみると、年配の方三名程がいるらしいが、不具合修正ばかり行っていて各部に呼ばれて行っている為、席に座ることは殆どないとのこと。これは早急にシステムを組む必要があるな、明日8時からミーティング可能かと、ただそのかわり一時間早く帰社できるようにするからということを長山さんから三名に伝えてもらった。すると構わないとのことだったので、それまでに、システムの構築の大枠についてまとめることにした。
翌日はいつもより一時間半早く家を出た。ミーティングする為に、少し準備をしたかったのもあるし、他のメンバーのこと、実はあまりわかってない。そう言うことも含めてこれまでやってきてくれたことについて、長山さんに前日にまとめておいてもらったものに目を通す時間が欲しかったのだ。
七時半も過ぎると、皆さん出勤してきた。それでミーティングルームに移動した。そこでまずこれまでのことを労った。そして皆さんの実力も聞いておりますと。そして新しいシステムを導入する為に概要を説明し、それについてご協力を頂きたい旨をお伝えした。するとそのうちの一人の高山さんが、実は僕なりにこういうのはどうかと思っているのですがと説明してくれたが、少しそれではリンクしないところがでてくるので、細かい部分はその案は素晴らしいと思いますね。他に何か考えられてることはありますかと尋ねると、ネット環境も非常に悪いですので、見直さなければいけないかとと、佐々木さんが意見を出してくれた。他にはありますかと言うと、僕もこう言うの作ってみてるんですがと島田さんが見せてくれた。それでこれも素晴らしいですね。そうしたら大枠は僕が作ることにして、それとリンクできる形でこれらを入れてみましょうかと伝えると、驚いた顔をされた。それでどうかしましたかと尋ねると、僕らの意見を取り入れてもらえるんですかと言われたので、当然いいものはどんどん取り入れますよと答えると、謝られてしまった。僕皆さんに謝られるようなことされてないですがと伝えると、専門的にされてきた方だし、我々は年もとってるので、意見なんて聞いてもらえないだろうと思っていました。それと偉そうにされるんだろうなとも思ってましたと。それで誤解があるので僕からはこう伝えた。僕より皆さんはずっとこの会社で長年勤めておられますよね、それだからこそ見える部分があると思ってます。その意見を聞かないのは、はっきり申し上げていいものが作れないです。これからも常に伝えてほしいです。それと今不具合はどのようなものが出て、どのように直されてますか。すると答えがかえってきたので、次に不具合がでた時にこの不具合についてはこのようにして見てもらえますかと言うと、なるほどと納得された。それで今日は一時間早く出てきて頂いたので、こちらから総務には伝えておきますので一時間早く帰ってくださいねと言い、ミーティングは終了した。
それから僕は三名程人事移動をしてこちらに回してほしいけどどうしたらいいかと長山さんに伝えると、専務に相談してみますとのこと。希望は営業部のいつも叩かれてる木宮さんと、経理部の八反さん、それに工場の箕島さんかなと伝えると、長山さんが不思議そうに箕島さんですかと言うので、僕の高校時代の友人が彼と親しくて、システム構築のこと話したことがあったんだ。まさか同じ会社にいるとは思わなかったけど、彼戦力になるよと伝えると、それを含めて人事を行って頂くようお願いしておきますと言うので、それは長山さんに頼んでおいて、あと僕が忘れないうちに総務へ連絡後、僕は僕がやるべきところを進めていった。
三日程して人事から内線があり、経理の八反さんですが代わりになる人が見当たらず断念してもらえませんかと言われたので、総務部に経験者がいるのではと言うと、総務部の人員がと言うので受付に四人もいらないのではと伝えると考えますと言い電話が切れた。本当にこの会社は適材適所ができていないなぁとつくづく思っている。まぁ僕はあまり口出さないようにしなければならないが、今回は絶対に欲しい人材なので引けなかった。
それからまた二日後には人事異動の許可がされたので、社内掲示板に貼り出されることになった。
年齢順でいくと、八反さん、箕島さん、木宮さんかな。八反さんは僕より年齢は上だけど、腰は低い印象がある。箕島さんと木宮さんは異動して、顔が生き生きしているように見えた。それで改めてミーティングを行うことにした。それで今行っていることを説明して、彼らに意見を求めたところ、それぞれに考えてきてくれたことがあるようで、プランを聞くことになった。するとどれも素晴らしく、全て取り入れることになった。それでサーバーについても八反さんが宛があるようで、連絡をとってもらい、話を進めてもらうことになった。こう言う時経理にいた人は予算組についても理解をしているので、非常に助かる。それからは各々が進めることをして、あとシステムを繋ぐ作業も佐々木さんは得意としているので、それまでの間は、少なくなってきているが現状の不具合について対応してもらうようにお願いをした。
大掛かりなシステム変更となる為、時間を要した。進捗については、月に一度ある部長会議にて伝えてはいるが、三月の年度末までは現状のもので行い、四月一日から新しいシステムに移行するよう進めている。今いる情報システムにいるメンバーはそれを可能にするくらいの能力がある。そして、それを維持していく能力も。だから僕が居なくなっても安心なメンバーなのだ。ただそれはまだ先になると思うが、それも含めて異動させたのだから、僕は社長の動向も探りやすくなった。すると、部長会議の三日後、早速動きがあった。商品開発内のパソコンを操作する社長があった。まだ製法について確立はされていないようにパソコンには写し出されているが、実はもう完成をしている。専務へは話が通っているが、そこでわざととめている状態にしている。社長がパソコンからデータを抜き出すタイミングを確認しなければならないので、ただ今回社長はアクセスしたが、まだ抜き出してはいないようなので、取り敢えずまだ様子見となる。
永島へアクセスがあったことを伝える為、秘書にメモを渡した。B 09 17 そのメモを見ると誰宛なのか理解したようで、かしこまりましたと言って部屋を出て行った。社長 開発室 アクセス と記したメモは友人に渡されたようだ。そしてあちらからは、開発室のデータを完成させたようにみせるように指示があった。その後再度商品開発の部屋に行き、開発室の責任者と相談しながら、偽情報を社長がアクセスしたときに表示されるようにした。開発室の責任者も社長の件を聞いた時は憤りを感じていたようで、協力を惜しまずに対応してくれた。そして、僕は対策を施した後自室に戻りシステム作りをしていた。
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