事件の調査
翌日、華山市の某所にて。
「んじゃ、調査開始だな」
「えぇ」
俺は今、楓と共に事件現場へと向かっていた。
事件現場はいまだに警察の人たちが調査をしているが……遠目からわかる限りでは、その進行度合いは遅いようだ。
やはり、この事件が普通の事件ではないということがよくわかる。
「んで、事件現場を見下ろせるような高い建物の上に隠れてこそこそやってる、傍目から見りゃ完全に犯人側の俺らだが……」
「仕方ないでしょ。私たちは一般人に力を知られてはいけない存在。こんなところで目立つわけにもいかないんだから」
俺の問いかけに楓は肩をすくめて呆れたように言う。
全く持ってその通りだ。
しかし、俺たちがこうしてコソ泥みたいにしているのも理由がある。
そもそも俺たちの使う特殊な力――『異能』。
これは特殊な家系や才能などの前提的な素質がなければ使えない……というわけでもなく、一般人でもとある手術を受ければよほどのことがない限り、異能の力に目覚められるのだ。
それでも、異能界隈では名をはせた名家に生まれた神稚児――それこそ楓みたいな奴らの方が簡単に凡人の限界を軽々と飛び越せるのだ。
まぁ、その辺の話は今関係ないので置いておくとして……。
今回の事件がもしも怪異によるものだとしたら、下手に一般人を巻き込んでしまう可能性がある。
そうならないためにも、なるべく俺たちだけで事件を解決しなければならないのだ。
そんなこんなで、俺らはこういう感じに高いビルの屋上から事件現場を見下ろして、双眼鏡片手に調査しているのである。
「それで、どんな感じになってるんだ?」
「……炎の魔力がある。……けど、なんていうか燃え尽きた灰、もしくは炭みたいな生気のない感じ……。街中でこんな殺伐とした魔力が流れるほど、この町は荒れてたっけ?」
「さすがにそれはないだろ。『自然との調和』を掲げた華山市だぜ?」
「それもそうね……」
双眼鏡から目を離し、少し考えこむ俺達。
楓が言うには、警察が調査したように焼死の原因と思われる炎の魔力はあった……のだが、それは超常現象というカテゴリーの呼称である怪異の中でも『
しかし、楓の言ったとおりこの町が荒んでいるかと言われればそうでもない。
治安も悪くないし、むしろいい方だ。
だからこそ、その炎の魔力が余計に不気味に思えた。
そして、それは楓だけじゃなく、俺自身も感じていた。
「そもそもあれだよな? 怪異って、都市とかみたいなところには早々来れないよな?」
「! 最近はあっちの調査続きだったけど、ちゃんと覚えてたみたいね」
「そりゃ、命にかかわるような情報だからな。覚えてなかったですまないようなところに身を置いてんだ。覚えもするだろ」
「ふぅん……」
一瞬きょとんとしたが、その後の俺の言葉に納得した楓は再度双眼鏡をのぞき込んだ。
――『怪異は都市に早々来れない』。
これを話すとなると俺にはよくわからねぇからざっくりと行こう。
そもそも怪異とは、この世界とは別の世界――『異界』に生息しているほぼすべての生命体や、俺たちの世界――『基本世界』に生息している神や霊などの特殊な生命体の総称であるらしい。
まぁ、これはあくまで大雑把な分類であり、細かいことは俺にはわからない。
とにかく、異界の生命体は基本的に俺たちの世界に来ることができない。
それはなぜか? 理由は簡単だ。
異界と俺たちの基本世界を隔てる境界が曖昧になっているからなのだ。
俺たちの世界にある巨大な『
昔はこの二つがつながっていて、世界各地に存在する神話のような事象が起こっていたらしい。
神秘を扱う魔法使いもいれば、魔物も存在し、果てには『神』も実際にいたらしい。
俺は「神様なんて存在するわけがない!」っていうような人間ではなかったため割とあっさり信じれたが、熱心な一神教信者なんかは信じられないような話だろう。
まぁ、今はその話は置いておいて……。
つまりはそういうことだ。
俺たちの世界である基本世界には存在しない怪異たちは、俺らが住むこの世界のどこかに存在している『異界』から来るしかない。
もしくは、この世界で怨念などの一種の信仰を得た『怨霊』、もしくは『荒御霊』じゃない限り、『人間の領域』である大規模な都市には存在できない。
仮にそんな奴らが存在していたら、この事件は数人が焼き殺される程度の規模ではなく、周囲の建物までもが大炎上していただろう。
そこから導き出されるに……。
「人為的なものか……」
「それでほぼ間違いなさそうね」
俺が結論を出したと同時に、楓が双眼鏡から目を離し、置いていたバッグから数枚のお札を取り出した。
「見つけられたか?」
「事件を起こした怪異の足跡はね。事件の犯人自体はまだだけど……」
「ま、とりあえずは、この町に出現した怪異を潰そうぜ」
「分かったわ」
その言葉を合図に、俺たちはその場から姿を消した。
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