作戦会議
「お、お疲れ様です楓さん……」
「うぅ……はっずかしいぃ……」
「よくやった方じゃねぇのか。いい挨拶だったと思うけど?」
「お世辞はいらないのー!!」
入学式終了後、俺と静香さんと楓は自教室に来ていた。
ちなみに、あの後真さんは大慌てで体育館から姿を消し、楓は顔を真っ赤にさせながら席に戻った。
その後、在校生代表の挨拶と教頭先生による閉会の言葉で入学式は終了。
そのままの流れで各クラスに分かれてホームルームが始まったわけだ。
そして、今に至る。
「まぁ、公開処刑も同然だったからなぁ……心中お察しするぜ」
「本当に……何考えてるんだろパパ……」
「あはは……でも、いいお父さんですね」
「……どこがですか」
楓はため息をつきながらそう言った。……うん、その気持ちはよくわかる。
いきなりあんな登場の仕方されたらそりゃ困るわな。
「でも、やっぱりすごい人だよ。真さんは」
「そうだな……ちょっと変だけど、ちゃんと生徒のことを考えているのは間違いないと思う」
「まぁ、そうかもしれないけど……」
楓は頬杖を突きながら窓の外を見る。
その瞳には複雑な感情が入り混じっているように見えた。
「でも、私としてはあんまり会いたくないかな……恥ずかしいし」
「あぁ、それは同感だ」
「ふふっ、二人とも素直じゃないなぁ」
苦笑いを浮かべる静香さん。
別に俺は真さんを嫌ってはいないのだが……まぁ、あんな登場はしてほしくないな。
「さて、そんじゃあそろそろ帰ろうぜ」
「ん? もう帰るの?」
「おう。どうせまた明日会えるし、今日は帰ってゆっくり休んだ方がいいだろう」
「それもそうね。それじゃあ帰りましょう。……少し話したいこともあるし」
「……了解。んじゃ、先に帰るわ静香さん」
「あ、うん。バイバイ」
楓の言葉に、俺は小さく返事をする。
俺たちは荷物を持って立ち上がると、そのまま帰路についた。
「……んで、話したいことってなんだ楓?」
「…………」
帰り道の途中にある公園。
俺と楓はベンチに座っていた。
俺はそこらの自動販売機から買ってきた清涼飲料水を飲みながら、楓に問いかける。
しかし、楓は周りをキョロキョロと見回し、何かを警戒している様子であった。
「……誰もいない。よし」
「何を警戒しているんだよお前は……」
「だって、パパが近くにいるかもしれないじゃん!」
「真さんならさっき帰ってたぞ?」
「えっ!? ……あっ、ホントだ。それじゃあ安心ね。って違うわよ!」
楓は頭を振って叫ぶ。
相変わらずノリツッコミは上手いなこいつ。
「……で、本題は?」
「……わかっているでしょう?」
「…………」
楓の真剣な表情に、俺は黙り込む。
俺の考えていることはただ一つ。
「……今朝のニュースだろ」
「正解」
「やっぱりか……」
今朝、俺が登校中に見たあの事件現場。
複数人が原因不明で殺されていた場所。
その光景を思い出しながら、楓に話しかける。
「……あれは一体どういうことだ?」
「……憶測だけの話になるけどいい?」
「構わない」
俺がそういうと、楓は軽く深呼吸してから話し出す。
その顔は、いつもより真面目なものになっていた。
いや、多分これは……緊張している時のものだな。
そして、楓はゆっくりと口を開く。
「知っているならわかっているんだろうけど、あの事件現場、魔力の残痕が残っていたわ」
「あぁ、俺も気づいていた」
「やっぱり。でも、この町に『異能犯罪者』が侵入した形跡は確認されてないの。だから、おそらくだけど……」
「……別の誰かの仕業……考えるなら『怪異』が起こしたってのがあり得そうだな……」
俺の答えを聞いた楓は静かにうなずく。
正直言って、あり得てほしくないけど、あり得てしまいそうなのが今の世界の状態なんだけどなぁ……。
――『
俺たちがいる世界とはまた別の世界――『異界』に生息する悪性生命体のことを指す。
彼らは人間を襲い、喰らい、己の力とする。
その性質上、非常に危険であり、一般人では太刀打ちできない。
そのため、政府は彼らを討伐する組織を作りあげた。
――それが、俺達『異能力者』と呼ばれる存在だ。
まぁ、簡単に言うと怪物退治の専門家みたいな感じで、昔の時代から陰ながら活躍していて、中には歴史に残っている人物もいる。
分かりやすい例で言えば、「安倍晴明」って感じだ。
まぁ、そんなわけで今現在、この世界に存在している人間の内、特定の人物は少なからずそういった力を持っているのだ。
そして、その力は様々な形となって発現される。
炎を出したり、雷を落としたりと様々だ。
もちろん個人差はあるし、同じ力を持っていても使い方によって強さは変わる。
それらを駆使して怪異と戦うのだ。
まぁ、それは今は置いておこう。
さて、話を戻そう。
今回現れたのは人食いの怪異である可能性が高いということだ。
理由は簡単で、今までの事件の被害者たちの共通点に焼かれ食われているというところがあったからだ。
つまりはそういうことである。
「それで、どうするつもりなんだ?」
「……私は行くつもりよ。異能力者として放っておけないもの」
「……そうか」
楓は俺の目を見て答える。その瞳には、決意のようなものが宿っていた。
こういう時の楓は何を言っても聞かないということを俺はよく理解していたので、溜息を吐きながら口を開いた。
「わぁったよ。俺も協力する。どうせ上から指令も出されるだろうし」
「……ありがとね、優慈」
「気にすんなって」
俺はベンチから立ち上がり、楓に手を差し伸べる。
楓はその手を握り立ち上がると、そのまま手を握ったまま歩き出した。
「今日はもう帰るか。こっちは、光に謝んないといけないんでね」
「……フフッ、また寝坊したの? 相変わらずだらしないわねぇ」
「うるせっ!」
俺は少しだけ握る手に力を込める。
それに気づいたのか、楓も同じように強く握り返してきた。
そして、俺たちはそのまま帰路につく。
ふと横を見ると、そこには綺麗な夕日が輝いていた。
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