第46話✤辛いんだよね。
結局、氷板1つと氷の心臓3つを手に入れるために、アイスゴーレムの群れを5つ程マルさんに潰させた。
マルさん、レベルもあがって動きもよくなってきたし、もうアイスゴーレムの群れくらいなら1人で潰せそうなんだよね。
冒険者ギルドで冒険者カードの討伐記録を見せたら、すぐAランクに行けるんじゃない?
「あれ?枢様。見たことがないのがドロップしたんですけど、なんですかこれ?」
別群れのアイスゴーレムをお願いしてたら、マルさんがなんか持ってきた。
一見して氷柱の様な何かを。
「あ!これレアドロップだよマルさん!これアイスゴーレムの氷柱って言って、滅多に落ちないし滅多に溶けないの!しかもただの冷蔵庫が冷凍庫になるくらい冷えるやつ!」
「え?ほんとですか?!」
「暑い国の王様とかがお金に糸目を付けずに買い求めるやつだよー」
売れば白金貨100枚は下らないレアドロップの氷柱。
暑い国の王様はこれを持ち運び、部屋を涼しくして過ごしている。
滅多に解けないけれど、氷柱の溶け水でお酒を割るとものすごくおいしいらしい。
ちょっとした伝手で僕も聖も持っているけれど、出番がないまま肥やしになっている事は言わないでおこう。
「そうなんですね……」
マルさんはこれをどう使うのかな。
冷凍庫2台目にするのかな。
どうするのかなと見守っていたら、ミルッヒちゃんやラクト君の所へ持って行ってしまった。
「ミルッヒ様、ラクト様。こちらをお納めください」
おおう。真っ先に2人に献上したか。
「ええ?これはマルシルが戦って得たものですわよね?!」
「マルシル?いくら何でもこれは貰えないよ?」
これが何のアイテムなのか解らなかった2人に、聖がこそりと説明したら、あわてて首を降った。
まぁそうだよねぇ。
「それに、冷凍庫2台目として増設すれば宜しいのに」
「僕もそう思いますよ、マルシル」
2人の言葉に、マルシルさんも首をふる。
「クレイ殿下へ嫁がれるおふた方への嫁入り道具として、収めて頂きたく思います。ラドのおまけとして私を雇って頂きました御恩、返したく思っておりました」
そんな事をいわれ、双子はあっけに取られている。
でも……。
「ラドのおまけとして雇ったつもりはありませんのよ?ラドの実力を存分に発揮するには何が必要ですの?と聞いたら、マルシル以外は不要です、と言われましたのよ?」
「え?」
「マルシルがいれば自分に必要なものは用意してくれるから、と言ってましたよ?」
ラドさん、マルシルさんをすっごく信頼してるなぁ。
「自分だけでは表現出来ない味の幅も、マルシルの持ってくる食材で簡単に越えられる、だなんて愛の告白じゃなくて?」
「そうですよねぇ。尊敬に値する思います」
「……」
「ですから、マルシル。あなたは自信を持って、ラドの隣にうず高く食材タワーを築いていいのですよ?」
「マルシルはラドのおまけじゃなくて、相棒として雇ったんですからね」
「……はいっ!」
結局、氷柱は2人の嫁入り道具として収めることになった。
その代わり、あと氷板1枚と氷の心臓1個たして、業務用のあのでっかくて横幅ある冷凍庫と野菜用保管室を作ることになった。
その辺はモノ作り大好きな聖が設計図を書くところから引き受けていた。
ただ、本人以外なんて書いてあるのか解らない設計図だけど……。
ここ、バーンとやる。これをアレする。とかしか書いてないから……。
読解力スキルを持っている僕でもむりだったから!
「さて、あっという間に3階層に着いてしまったのですが」
「3階層までは同じ内容何でしたっけ」
「そうだな、このアイスダンジョンの攻略本にも書いてある」
ダンジョン攻略本はわりとポピュラーなものた。
年単位で更新され、実際に潜った人の新鮮な情報が書き込まれたものは高額で買取され、次の攻略本に反映されたりする。
そして数年間変わらなければデフォルトとして認定され、攻略本の信頼度も上がっていくのだ。
今回買った攻略本も、15階層まで信用があるとして販売されている。
が。うちには邪龍ちゃんが居るんだよねぇ。
先日の肉ダンジョンみたいな事が無いと良いなぁ。
と、チラリとメルトを見れば、邪龍ちゃんの欠片すら見られなかった。
どうやらアイスダンジョンはどうでもいいみたい。
「メルト、寒くない?お腹は大丈夫?」
「寒くないけど、お腹減ったかも」
「そっか。じゃあもう少ししたらセーフティエリアに着くから、そこでご飯にしようか。ミルッヒちゃんとラクト君もそれでいいかな?」
「ですわね。お腹ぺこぺこですわ」
「2階層で休憩してから、もう4時間は経って居たんですね……」
今回は高ランクダンジョンということもあり、みんな集中して狩っているせいか時間が経つのは早いね。
「この先にあるはず……。と、先客が居るねぇ」
「珍しいですわね。この時期に」
「そうだね」
3階層のセーフティエリアには4人パーティがちょうどご飯の支度をしていた。
僕らは聖を先頭に、クレイ殿下、ミルッヒちゃんとラクト君、メルト、マルさん、僕の順でセーフティエリアに入った。
「こんにちわー。こっちの端っこ使うなー!」
「おーう!好きに使えー」
聖が声をかけると、気さくそうな声が帰ってきた。
パッと見ではあるが、剣士系、盾、斥候(弓)、回復……かな?
全員20代の男のパーティだった。
「とりあえず天幕張るねー」
「お、俺も手伝うぜー」
「僕も手伝います!」
「僕もです!」
「ありがとうございます。クレイさん、ラクト君、マルさん」
パックパックから天出す振りをして、空間収納から天幕を2つ出した。
これは通販で新しく買った、4人用の最新式ドーム型キャビンテントだ。
色はチャコールグレーと濃緑。
それを聖が空間魔法で内部を倍程の広さに拡張してバストイレ付きに魔改造。
僕が防風防寒断熱防塵防刃等などのバフを施した物なので、ぶっちゃけほぼ外部からの攻撃は無効化される。
王族3人もいるからね!こんなこともあろうかと、ってやつ。
そのテントを2つ並べた前にタープを張り、固定。
厚手の防水レジャーシートを敷き、その上からメルトが毛足の長い絨毯を被せていく。
4人用のローテブルと人数分のクッションをだし、お皿も準備して食卓を整えていく。
今回は出来合いを出すだけなので、お茶とスープ用の卓上コンロを出すだけに留めた。
聖は何をしているのかと言うと、パン盛り合わせを持ってお隣にご挨拶&情報収集に行って貰っている。
何かあれば教えてくれるだろうしね。
「パン各種、ミネストローネ、生ハムサラダ、チキンソテー、ローストビーフ、ソーセージ盛り合わせ、お茶はミルクティーと果実水。こんなものかなぁ」
「ダンジョン内の食事じゃないな……」
「そうですね……。干し肉と固いパンに水少々、という王道携帯食を懐かしむ時が来るなんて……」
「クレイさんはともかく、ミルッヒちゃんとラクト君に変なもの食べさせられないでしょ?」
「本当なら体験させないと行けないんだろうけどな……」
と、クレイさんは自前の携帯食を2人の前に出した。
カッチカチの固くて黒いパンに干し肉という、顎強化コンビ。
ミルッヒちゃんが果敢にも削ってもらった干し肉を口に含んだ。
途端、顔を顰めた。
……だろうねぇ。
「……随分と塩っ辛いのですね……?」
「保存食だからなぁ。冒険者ギルドで売ってるのは最大1ヶ月は持つ様になってるから、水分なんてほぼないな!」
「このパン、かじったらありえない音がして歯型しかつかないんですけど?!」
「ラクト様、これは水に浸して柔らかくしてから食べるのです」
「この干し肉、削って乾燥野菜と一緒に水で煮れば簡易スープになるんだよ。大体それにパンを浸して食べるの」
「まぁ、乾燥野菜と水を持ち込めればだな。魔法鞄か水魔石付きの水袋があれば食事事情は多少改善されるな。俺のパーティは容量が少ないから、浅い階層に行く時以外は悲惨なものだった」
「僕は魔法鞄があったのでその辺は楽でしたね。狩った食材を使って食べてましたし」
携帯食の食べ方を説明すると、ミルッヒちゃんは興味津々に聞いていた。
「あの枢さん……」
「作ろうか?簡単スープ」
「ぜひ!」
と、言うわけで。
こないだ押し付けられた携帯食セットから干し肉を数枚と、乾燥野菜を出した。
小鍋に水をいれ、ナイフで削った干し肉と乾燥野菜を入れただけの、簡単スープ。
ダンジョン内や旅の途中、これがあればホッと出来るってやつだね。
「あれ?なんか珍しい物作ってるな?」
「おかえりー」
出来上がるあたりで聖が帰ってきた。
干し肉と乾燥野菜の簡単スープをみて、首を傾げる。
「ミルッヒちゃんが食べて見たいってさ」
「そうなんだ。懐かしいから俺にも少し欲しいな」
「紙コップなら1人1杯だせるよ」
と、一般的な7オンスサイズの紙コップを出した。
紙コップや紙皿は後でまとめて燃やせるので、重宝してるんだよね。
「簡単スープが出来たから、ご飯にしようか」
「「「はーい!」」」
ダンジョン内とはいえ、みんなで食べるご飯は美味しいよね。
食べてる途中、先にいたパーティが来てパンのお礼をしてくれた。
そして、氷の林檎を3つくれた。
レアドロップでは無いけれど、アイスゴーレム五体で1つくらいの確率のやつで、氷のと付いているけど蜜がたっぷりの甘い林檎だ。
これも暑いでは高級食品になるんだよね。いいのかな。
「あんなに美味しいパンは初めてだったから」
と言ってセーフティエリアを後にした。
聖が聞いた話ではパーティはそのまま下層を目指すそうで、とある貴族から氷柱と毛皮を依頼されたんだってさ。
林檎は対象外だったらしい。
依頼内容は余程秘匿義務がない限り、依頼主さえ言わなければ多少の内容は話しても大丈夫。
よくある話だしね。
こちらは子供たちのレベル上げの引率、て話したらびっくりしてたってさ。
さて、ご飯に集中しますかね。
簡単スープのお味はいかがかな?
「……からい……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます