第33話✤原因への対策と解決策、その後……
ずごん!と
それはそうだろう。
なにせゴミのように投げ込まれたソレはこの
ザワザワとする中、レグラスさんと風花さんの姿を見つけ、表情を和らげた。
「レ、レグラス様……これは一体……」
「ウカムか……それが……」
人垣の奥から年老いた
どうやらレグラスさん達とは近しい
「ともかく、皆様は天幕までお越しくださいませ。おい!イェロ様を回復師の所へ!治るまで外出禁止とする!」
お、この人は話が解りそうだな?
こちらを見て、ぺこりと頭を下げた。
「さて、よく起こし頂きました。私はこの村の相談役を務めさせて頂いております、ウカムと申します」
「ウカムは先代の長……父の幼なじみでな、私たち兄弟に取っては叔父上のようなもので、お恥ずかしいが今でも頼りにしているから頭が上がらないのだ」
「何をおっしゃるか。レグラス様はお父上に似て皆の言葉をよく聞き届けてくださります。それだけで私らは有難いのです」
……つまり、あの兄にもうみんな愛想尽かしてるってことなのか……?
僕達はウカムさんの案内で、村の奥にある一際大きなゲルのような天幕へと案内された。
近隣の村とたまに物々交換する時に、振る舞っているようだ。
「初めまして、僕は枢と申します。子のパーティのサポーターです。こちらがリーダーの聖。この子は娘のメルトです」
「ご丁寧にありがとうございます。さ、お寒かったでしょう?暖かなバター茶をどうぞ。寒冷地に強い種の山羊……アイスゴートのものです」
そう言って出されたバター茶は濃厚で、塩気があってとても美味しかった。
「ありがとうございます。アイスゴートの乳や加工品は初めてですが、とても濃厚で美味しいですね」
「ほんとだ。前に飲んだものとは全然違う」
「メルトこれ好きー!」
「お口に合ったようで何よりです。アイスゴートは寒九なるほど、濃厚なミルクを出してくれます」
「そうなんですね。このミルク、宜しければ少し販売して欲しいです」
「ははは、よろしければぜひに」
さて、交渉はともかく、この様な騒ぎにしてしまった事への説明と謝罪をすれば、ウカムさんは頭を抱えてしまった。
「まさかそこまでしていたとは……」
「済まない、ウカム。私がもっと兄者を諌め、お前に相談していれば……」
「いえ、イェロ様が長に収まった時に側近として残れなかったのは私への信頼が無かったからです。レグラス様には申し訳なく……」
……。
自分を制する者が鬱陶しいから、遠ざけて勝手気ままに振舞ってた、と。
あのクソザコナメクジめ。
目が覚めたらまた殴るか。
と、僕が決意を固めて握り拳を作っていると、パタパタと足音が聞こえた。
「あのっ!風花は……!」
「姉上!」
天幕の前幕を開けて入ってきたのは、風花さんによく似た女の人だった。
これが風花さんのお姉さんの霙さんだろう。
「レグラス様、この度は風花の為にありがとうございました!」
「こちらこそ風花を守れず、申し訳なく思う。だが、私の風花への愛は無くならない。風花が私を嫌わない限りな」
「レグラス様……。ありがとうございます」
「ありがとうございます。ところでウカム様、あのクソザコナメk……いえ、イェロ様は……?」
「ええと……」
うん。このお姉さんとはいい合体攻撃が出来そうだ。
説明後、バター茶を飲んで落ち着いた霙さんは、改めて僕達に礼を言った。
「あの方の対応には私達も困っておりましたので、
嫁に来てるのに戻ろうとするほど、腹に据えかねていたんだな。
というか、お綺麗な人じゃない?霙さん。
なんであのクソ……いや、イェロは風花さんを……。
と、チラリとレグラスさんに寄り添って幸せそうにしている風花をみて納得してしまった。
これ、弟への嫉妬と自分に逆らえなくなるようにしてたな?と。
子は霙さんに産ませ、風花三を手元に置くことで、弟を意のままにしようとしてたのか。
有無、やはりもう2、3回死の淵を彷徨って貰おうかな!
「とりあえず、僕らはこの大寒波の原因を調査して、原因を取り除く事を依頼されているんですよ」
と、ここに来た理由を言えば、レグラスさんとウカムさんは頷いた。
「原因はその……アレでして……」
「アレ……ですよね」
「……兄者が申し訳なく……」
うーん。
アレを更生させれば何とかなるのかな?
どうしたものかと考えていたら、外が騒がしくなった。
なんだろうか、嫌な予感しかない。
「ここにおるのが謀叛の首謀者共だ!!首を討ちt……」
と、台詞の途中だけれどご退場願った。
勿論、霙さんとのダブルパンチでね。
「あらいやだ、私ったら賊かと思ってびっくりしちゃったわ」
「ですよね!僕は聖とメルトを守る役目もあるので!」
うふふふ……と笑い合い、くたばっているザコをまた、回復師の所へ持ってったら、回復師さんは泣きながらもう嫌です!と拒否してきた。
散々暴れ回ったらしい。
どうするかなー。
とりあえず、暴れるのは良くないから手足は縛っておいて、うるさくされると迷惑なので猿轡を、そして見られたくもないから余っている麻袋に押し込んで、邪魔にならないようにと端の方へ置いといた。
霙さんも手伝ってくれたので、一瞬で終わったよ!
「出来れば穏便に、さりげなく、速やかにアタマを取り替えたいね」
「で、でも。そうすると姉上のお立場はどうなるのでしょうか……」
僕の言いたいことを察した風花さんは、霙さんを心配していた。
霙さんは
「風花、問題はありません。私はこのままイェロ様の元におります。ただ、イェロ様はまだ躾……いえ、調k……ではなく、ご自身の立場が理解出来ていないご様子。私の趣味で宜しければ支えたく思います」
「姉上……」
うん、風花さん。
なんか感動しているけれど、君の姉上、クセ者だからね?
さりげなく調教して自分好みに躾するって言ったからね?!
「霙様……一族の恥ではありますが、よろしくお願いいたします」
ウカムさんも乗っかったー!!
ほんと、それほどまでにあの
身から出た錆とはいえ……。
「亡くなった先代も浮かばれますね」
「えっ?」
「えっ?」
「父上は……存命です……」
「えっ?!」
話の流れでてっきり!!
聞けば若い者に任せて自分は違う地域の麓の村で余生を過ごすことにしたらしい。
ただ、ここの掟として1度村から出たら何があろうと関わりを持たない不文律があるという。
それに、本当はレグラスさんに跡を継がせたかったんだけど、レグラスさんは輿入れに着いてきた風花さんとお互い一目見て恋に落ち、霙さんも許したこともあり、兄弟仲良く相談してこの村を治めるように、と言い残して山を降りた。
が、結果はこれだ。
お父さん、歯がゆかっただろうなぁ。
「さて、イェロ様?お話は聞いておりましたよね。大人しくなさらないと、この大自然と精霊に愛された黒髪ハイエルフ様の逆鱗に触れますわよ?」
「そ、そんな……。なんでそんな存在がここにいるんだよ……」
と、霙さんがイェロから麻袋と猿轡を取ってからそう告げた。
イェロ、泣き顔である。
いやー、そんなこと言われるの久しぶりだから照れちゃうなー、
少しばかり自然……世界に語りかけてお願いしたり、精霊から無条件で好かれたりなにか貰ったりしてるだけだし。
流石のイェロも黙って従うしかないようだ。
「枢様。イェロ様にどうかご指示を」
「とりあえず、イェロは麓村の氷室用の貯水池の担当ね。毎年高純度の氷を納品する事。そしてこの場にいるレグラスさん、霙さん、風花さん、ウカムさんにごめんなさいしようか」
「はいっ!レグラス、霙、風花、ウカム……本当に申し訳無かった!心を入れ替え、立派な貯水池番になると誓う!」
「イェロ様、私はイェロ様を支える事を誓いますわ。立派な貯水池番になるべく御指導いたします」
「おお、霙!本当に感謝する!」
あら、いい感じに収まっちゃった。
「兄者。貴方が立派な貯水池番になれば山を降りた父上も喜ばれよう。私も兄者の向上力を見習い、ウカムと風花と共にこの村を守り発展させると誓うぞ!」
「レグラス、お前なら出来る。私は貯水池で、お前は村でこの山で生きよう……!」
うんうん。
なんかちょっと違和感はあるけれど、上手いこと収まったのかな。
まぁあとは村のこのだし、任せるか。
「うう、良かったなあ、レグラスさん達……」
「父、メルトは兄弟愛を知ったよ……」
……。
なんでアレで感動出来たのか謎ですが、まぁ置いとこう。
さて、その後。
ウカムさんからアイスゴートの乳を貰い、岩塩を加えてバターにしたものも購入した。
この山、夏場に岩肌が見えるとこでは岩塩が取れるようだ。
舐めさせて貰ったけど、ほんのりピンクでとても美味しかったので、これも購入した。
これであの濃厚バター茶が飲めるね。
王宮の離れに戻ったら、じいじにも淹れて上げようかな。
◆◇◆
「と、言うわけで戻って参りました」
「で、これがお土産か。うん、美味しいね。イロ付けるから僕にも売って欲しいな」
「そう言うと思って、じいじの分もあります。もちろん、王家の方々へも献上します。こっちは
「まぁ!では早速お父様とお母様へ持っていきますわ!」
アイスゴートの乳で作ったミルククッキーを食べていたミルッヒちゃんは、クレイさんが受け取った箱をみてそう言った。
そう言えば僕ら、ここの王様に挨拶してないな?と告げたら、ミルッヒちゃんは首を振った。
「クレイ様の護衛で大叔父様のお弟子さん、という言わばギリギリ外様の立場を逆手に取りましょう。枢さん達も面倒事はお嫌でしょう?」
「何しろ8年前の英雄ですから。知られたらやれ歓迎パーティだの貴族とのお茶会だのと、五大王国王族権限で無理を言いそうですからね。黙っておくのが1番です。ね、クレイ様」
「そうだな。俺はただ腕の立つ冒険者親子に依頼を出しただけだからな。冒険者の過去や出自を詮索し、他に告げるのはマナー違反だ」
うう、3人とも有難い。
うん、王族関連の面倒事は嫌です。
何が重要なことがあれば師匠から言われるから、それまでのんびりしたいです。
「ところで、君ら冬の間はどうするんだい?」
「うーん、この国で過ごしてもいいかなって。俺の故郷が東北地方ってとこで極寒地だったんだよね。なんか懐かしくなちゃって……。天幕生活で問題ないからどこかいい所知らない?」
「僕は聖とメルトが住みたいところでいよ」
「メルト、この国の寒さすき。暖かいご飯が美味しくなる!」
という師匠の問に答えたら、ミルッヒちゃんがポン、と手を打った。
「で、あれば我が王家の別荘地をお使いになりませんか?本来なら夏場にしか行かない湖水地方なのですが、冬の間には湖に厚い氷が張りますので、穴を開けて釣りをしたり、スケートやソリも楽しめましてよ!」
「いいですね。あそこは小さな街から少し離れてますが、街道沿いなので物流は止まる事はありません。今回の以来の報酬として僕らが父上と交渉します」
そんな有難い申し出に感謝してお任せした。
その後、その別荘にはクレイさん達3人と師匠が一緒に行くことになった。
王様曰く、クレイさんの護衛なんだからクレイさんが国に帰るまで一緒にいるように、とのこと。
そいや護衛でした。
「今年の冬は楽しくなりそうだな、枢」
「母!シチューとポトフとおでん多めで!」
「お、枢のご飯は久しぶりだな。任せたよ。僕はお米食べたい。」
「まぁなんだ。護衛たのんだぞ。あ、俺は鶏系のトマトカレーってやつ?あれがいいな」
「まぁ!枢様の手作りご飯を頂けますの?!大叔父様から散々自慢されてましたのよ!私、麺類が好きですの!」
「僕はお料理習いたいです!クレイ様に美味しいものを作ってあげたいので。枢様、よろしくお願いします!」
「は、はい……」
なにせよ、賑やかな冬が決定致しました。
うん、楽しみだ。
腕がなりますよ!
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