第32話✤こう、ずごごごご、とね
「わーい!すっごい楽ちんー!」
僕は手を突き出してずんずん雪の中を進んで行った。
後ろに続くメルトと聖も、楽々歩行が出来ているようで何より。
昨日、スコップ雪かき術でどうにか最大効率をあげるかと寝しなに色々考えてたんだけど、突然天啓を受けた。
雪自体をどこかへ移動させればいいのでは?と。
なので翌朝、聖に例の死体入れ専用巾着を借り、その口を開いて前に突き出した。
すると、その巾着の中に雪が!自動的に!吸い込まれて行くではないですか!
「枢すごいな!確かに容量無制限だからいくらでも消せるわ!」
「母すごーい!歩きやすいよ!」
「ここまで上手くいくとは思わなかったなぁ」
ずごごごご!と雪をバキュームして行く死体入れ専用巾着さんは、この度雪吸い係としての使命も帯びたのだった。
「そろそろ五合目位かなぁ?」
「そうかも。周りの景色も変わってきてるから、遭遇戦に備えて周りへの警戒レベルを上げとくか」
「お願いね、いざとなったらここら一帯を凍らせて足場にして」
「了解。その場合、メルトはとりあえず枢の傍で待機な」
「わかったー!」
さて、ずんごずんごと雪を飲み込ませながら進んでいたら、聖から近くに複数体の反応がある、と告られ、巾着を閉じる。
そして
見れば
どれどれ……。
僕は風魔法を使い、彼らが話している内容にこっそりと聞き耳を立てた。
「兄者!その
「何を言っている!これは俺の女だ!」
「その
「何を言っている!その父も居なくなって今は俺が長だ!ならこの
「イェロ様!風花は弟君レグラス様のものです!このような無体はおやめ下さい!」
「うるさいぞ風花!お前は俺の物だ!長である俺に従っえばよいのだ!」
あれー?
「なぁ、枢……これって……」
「まぁ、
「だなぁ……」
どうしたものかなー。
「これ以上我らが争えばその余波で麓や近隣の生き物の命が脅かされる。それは望むところではない!兄者、私は風花さえ居ればこの山を出ていく……、だから……だから風花だけは……!」
「黙れ愚弟!いつもいつもお前ばかり父上から良いものを貰いおって!」
「そんな事実はない!それに、兄者には霙様がおろうに!」
「はっ!あんな年増要らぬわ!正妻として格が釣り合うから迎えただけよ!抱く気にもならん!」
「そんな……!霙姉上は我ら姉弟の中で1番の
ははーん。
このお兄さん、弟の方が出来が良すぎて嫉妬してたのか。
多分、お父さん的にはお兄さんにも良い物を渡していたんだろうけど、弟の方が可愛がられてたから自分より良い物を貰ってると思い込んだんだなー。
「ところでさ、枢」
「うん、僕も思った」
「「
そう、
多分姉の霙さんが輿入れする時に共としてやってきたんだろうな。
そこでレグラスさんと出会って恋仲となり、弟が幸せになるのが許せない兄は風花さんを手に入れようと……。
あ、ムカついてきたな?
「黙れ風花!昨晩俺の腕の中で善がり狂っていたのを忘れたか!」
「兄者!?貴方はなんということを!」
「呪具で私の意識を混濁させていたくせによくもそのような!」
あー、はいはい。
了解了解。
「枢、いっきまーす」
「は?枢?マジ?!」
「母?顔が怖いよ?!」
なんとでも言いなさい。
僕は今、あのイェロとかいうアホに怒り心頭なのです。
リュックに差していた生命の杖を取り出して、殴打するのにちょうどいい長さに魔力を込める。
そして、自動回復を相手にかける回復特化モードに切り替えた。
これで、相手を癒しつつ殴打出来るってもんです。
「そこまでだ悪党イェロ!精霊間とはいえ人権侵害である!神妙にお縄につけ!」
僕が飛び出したのと同時に、聖は足場代わりに一帯を氷の世界に変えてくれた。
ありがとう、聖。
「だ!誰だ貴様!!」
「悪党二名乗る名など無い!」
「「ええええ?!」」
突然出てきた黒髪ハイエルフの僕に、3人は驚いた。
その隙を狙い、問答無用でイェロを殴り飛ばす。
「ゲブラァッ!!」
「あ、兄者?!」
「ひいっ!」
懇親の力でフルスイングしたね。
そう、元日ハムのOさんのように!
イェロは簡単に吹っ飛び、背後にある樹氷を何本もなぎ倒していった。
「な!無礼であろう!何者だ、貴様は!」
「だ・か・ら!名乗る名など無いと!言った!!」
「ウブブブブ!!!」
起き上がりつつそう叫んだイェロに瞬時に肉薄し、生命の杖でラッシュを叩き込む。
これは鈍器スキルで3秒間でスキルレベルとDEXにより殴打数が変わる。
そして僕はレベルカンストハイエルフ。
DEXも高ければスキルレベルも頭打ちしてるし、鈍器マスタリーやステータス補助アイテムももりもり盛ってる。
そして生命の杖は形状変化する性質から杖・棒・鈍器の複合扱いの武器である。
回復効果もあるから、心置き無く後腐れなく殴れるってもんですよ。
「精霊とはいえ!人の!尊厳をなんだと思ってるんだ下衆野郎!全世界に詫びろ!産まれてきてごめんなさいって精霊界と両親に謝罪しろ!」
「ギャァァァァッ!!!」
と、人が愚物を殴打パーリーしている中、聖とメルトは残された2人に近ずいていた。
「どうも。麓の村を擁する国からの依頼で、この山の異変を調査しにきたものでっす!」
「こんにちわー!」
「あっ、はい……。こんにちわ」
「こんにちわ……」
「これか?この自制きかないパーツが悪いと?イライラすると?なら要りませんよねぇ??」
「ヒグゥッ!!!」
ぐしゃり、と股間の一部分を鉄板入り+スパイクつきの靴で踏み抜くと、イェロは汚い声を上げて気を失った。
あ、ちゃんと生命の杖の効果で即回復してるからね。 痛みは感じたけどね!
「あ、あの……兄者は……」
「うーん。大自然のお仕置を受けたと思ってください。あいつ、ハイエルフなんで」
「ああ、ハイエルフだったんですか……にしても……黒髪……。えっ?黒髪?!」
オロオロしているレグラスさんの横で、風花さんは驚いていた。
「黒髪のハイエルフって、どれだけ大自然と精霊界に愛されてるんですか?!」
「俺でもその辺の底はわからないんだよねー。とにかく、枢が望めば下位精霊は消し飛ぶって言ってたけど、枢はそんな事しないよ?」
「大丈夫。母は道理に反してなければ際限なく優しいハイエルフ」
2人とも擁護ありがとう。
僕はイェロの頭を掴んで、その場に引きずって戻った。
「黒髪でハイエルフ……。あっ!連合軍の!」
と、風花さんはポンと手を打った。
「多分それです」
「であれば、こちらの方は今代勇者様の聖様……」
「そ。で、こっちが俺たちの娘のメルト」
「メルトです!」
「改めまして、枢です」
「レグラスと申します。
「風花です。
気絶したイェロを片手で掴んだままの挨拶はちょっとシュールな絵面だね。
とりあえず、我が村へと誘ってくれたので、僕らはそこにお邪魔することにした。
道中の雪の状況を尋ねられたので凄かったと答えたら、レグラスさんは落ち込んた表情を見せた。
「兄者が私や風花を脅すために猛吹雪を起こしていたんです……。私達精霊と人間は住み分けしてましたが、多少は共存関係でもあったので……」
「ギルティ!」
「枢に同じく」
「母に同じ」
こいつ、そんなコスい手まで使ってたのか。
このまま僕個人が持っている権限をフル活用すれば
そうして僕らは、この山の7合目付近にある
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます