第31話✤こおりのせかい
とりあえずかき氷は置いておこう、諦めはしないけれど。
朝ご飯前のお茶をいただきにリビングまで来ると、そこに面した庭が少し騒がしかった。
見れば僕以外の全員が庭にいるようだ。
僕もリビングから庭に出るはきだし窓を開けて外に出た。
冬前なのと朝方だからか少し肌寒い。
でも心地よい陽の光が庭に注がれていて、見た目よりも暖かかった。
「おはようございます。なにしてんの?」
近くにいた双子のメイドさんに聞くと、少し前から2人はこの家のお坊ちゃんずと朝稽古をしていたという。
「旦那様が少しでいいので、坊ちゃん達を見て欲しいと」
「ここは冒険者様方があまり来ないのですが、戦えるようになるのは安心出来ますから」
そうだね。
極寒の辺境村とはいえ、周りには多少の魔物や獣がいる。
狩りをするにしても村長の息子達としては、その術を学ばなければならないのだろう。
だからあんなにやる気に満ちた顔をしているのか。
「えい!」
「や〜!」
「え、えっと……」
アインルーフさん、ツヴァイクさんはそこそこの構えで聖に挑んでいるんだけど、まだ幼いヨナ君は木剣をもっただけでよろよろしている。
アインルーフさんは17歳との事で、狩りもそれなりに参加しているからか、わりと実践向きだった。
ツヴァイクさんは14歳で、どちらかと言うと文官向きらしいが、それでもちゃんと木剣を扱えている。
ヨナ君は10歳で、なかなか訓練に参加出来なかったからか、振り回されている感じかな。
「お、枢起きたか?」
「うん。おはよう」
聖が僕に気づいたので、朝練は終了となった。
「それでは行ってらっしゃいませ。いつお戻りでも構いませんので」
村長さんは朝の訓練にひとしきり感謝を述べたあと、2食分のお弁当を持たせてくれた。
中身は黒パンと燻製肉とアプリルとドライフルーツだった。
それを大きめのバスケットに3つ分。
冬支度前の備蓄だろうに、ありがたい。
「では行ってまいります」
「行ってくるなー」
「行ってきまーす!」
そうして僕らは、村から徒歩3時間の雪山に向かうのだった。
◆◇◆
いや、なんというか……。
雪国だとは聞いてましたけどね?
山に入ってから一合目に届くまもなく大吹雪なんですけども??
一合目でビバークするとは思わなかったよ!
「天幕の中に入れば快適なんだけどなぁ。この中から出たくない……」
「身体強化や防寒暴風なんかの無効化魔法はあるけれど、雪がね……」
「メルトそろそろ雪に埋もれそう……」
「だなぁ」
そう、まだ一合目だというのに積雪どっかん1m超えである。
なにこれ?
雪に足取られるしメルトは埋もれるし、聖に至っては寒いとこ育ちのはずなのに辟易している。
「僕が前に出て除雪しながら行こうか。聖には周りの気配を注意して貰って、メルトは僕らの真ん中で一応防御フィールド張ってて。雪崩が来ても固まってそれぞれが防御フィールド張ればなんとでもなるから」
「うん。枢にお願いするよ」
「母、メルト頑張るね!」
意を決して、密集形態で天幕から出る。
うん、雪すっごいな?
さて、魔法鞄から取り出しましたるは雪かきスコップの幅広タイプ。
それを聖が強化加工して火属性魔石を取り付け、魔力を通しやすくしてくれた。
これで魔力を込めればスコップ部分がヒートアップして雪をかきやすくしてくれる。
まぁそのかいた後が瞬時に凍るんだけど、滑り止め加工してる靴にスパイク履いてるから真上から踏み固めればなんとでもなる。
「枢、いっきまーす!」
おりゃぁ!!!と掬っては投げ掬っては投げを繰り返した。
途中、2本ほど疲労回復薬をのみつつ、3時間ほど続けたらやっと三合目の入口付近にたどり着いた。
一旦天幕を張ってご飯にする。
「お疲れ様、枢。ご飯出したぞー」
「母!お疲れ様。暖かいお茶どうぞ」
天幕の中で疲れを癒すためにお風呂に
ゆっくりと浸かった。
はー、気持ちいい。
もうマッサージチェア買っちゃおうかな?電気はなんとでもなるし……。
「ありがとう、2人とも」
お風呂から出てきたらご飯の準備が整ってた。
もらった黒パンは5ミリ角に切ってクルトンにしてから、コーンスープに使われていた。
元々水分少なめの硬いパンなので、クルトンにちょうどいいのだ。
「生き返るー」
「さっき、雪の精霊に聞いたんだけどさ、この三合目からは午後過ぎると直ぐ暗くなって危ないから滅多に人は踏み入れないんだと。今日はこのまま休んで、明るくなったら出発するか」
「そうなんだ。雪の精霊さんに
「聞いた聞いた。だいたい五合目から七合目当たりを徘徊してるって。で、人間の氷室用のため池は一合目のすぐそばだったってさ」
「ありゃ、見過ごしちゃってたか」
「まぁ、帰りに案内してくれるみたいだから、まずは
「そうだね」
今日はここまでか。
身体強化や疲労回復薬のおかげでほぼ疲れ知らずとはいえ、腕はだるいから助かった。
明日は腕に重点的に強化魔法かけるかな……。
「メルトは防御フィールド貼り続けててどう?つかれた?」
「あのくらいなら大丈夫。防風も同時に出来るよ」
「ふむ、んじゃ明日はメルトにその2つをお願いしようかな。俺はその他の索敵や精霊に話を聞いたりするよ」
「僕は雪かきに専念するね。コツを掴んだから明日は五合目まで一気に行けそう!」
なにせ南国育ちなもので、雪振ることも稀だし積もりもしないからね。
この世界で初めて積雪体験した時は、はしゃぎすぎて風邪ひいて神官さん達に怒られたもんですよ。
「俺の実家の方、酷い時はこれ以上積もるからなぁ。なんか懐かしいや」
え?
「父、そうなの?」
「なにせ家屋の2階に積雪時用の出入口が必須な地方だからな。たまにその出入口も埋まる」
え?
「すごいね?」
「窓開けたら天然の冷蔵庫だったから、家の一室に蓄えていた飲み物とかを適当に窓から掘った穴に入れてたぞ」
それ本当に日本ですか?
あ、日本でしたか。
だから、南国育ちには信じられないんですよ、この光景も……。
「親父がやってたように、そのうちここに酒入れて楽しむんだろうなって思ってたよ」
「聖……」
そんな有り得るだろう未来を、この五大王国が奪ってしまったんだなぁ。
と、しんみりしてたら……。
「だから、俺がもっと大人になったらやろうかと思ってる。確か神皇国のもっと北東の方が俺の住んでたとこと似たような場所らしいぞ」
「は?」
「楽しそう!」
「神皇国の教皇じっちゃんが、あの辺手付かずだし、森含めて開拓してくれるなら土地くれるって言ってた!」
「え?」
「メルトも手伝う!」
「頼むぞメルト!」
「うん!」
……。うん、僕のしんみり返して。
神皇国の教皇ってそう言えば師匠の……。
なんか納得した。
勇者として自身を律し、神の意思に反し道理を外れなければ勇者は好きにしていいって、聖が僕とメルトを連れて諸国旅をする際に協力してくれたから。
「じゃあ今日はこのまま休もうか。少し早めに寝る以外は好きにしてていいってことで」
「おう!俺はなんか対雪あたりでなんか考えるわ」
「メルトは本読んでる」
「僕は細かい家事しようかな」
明日は早ければ
雪かき頑張ろう!
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