第15話✤冒険者たちに花束を

 昼頃、一眠りしたサヘルが起き出して装備を整えている間、杏とレネは天幕等を魔法鞄にしまい込んでいる。

 軽く昼食をとったあと、僕らも片付けて出発となった。


「ゆっくりでいいからな。危なくなったら手を出すから」

「はい!よろしくお願いします」

「メルトちゃん、よろしくね」

「頑張ります!」


 杏を先頭に続いてレネ、まだ本調子でないサヘルは最後という順番で階段までの道を行く。

 メルトは少し間をあけて、後をついて行く。途中、何度かモンスターに出くわしたけれど、杏もレネもサヘルが無理をしないように気を使いながらも器用に戦っていた。

 この3人はずっと一緒にいる為、バランスの良い攻防をする。

 ここに盾役と回復がいたら、高ランクのパーティになるだろう。

 魔法鞄を管理できる従属者(ポーター)もいたら長いことダンジョンに潜ってられるんだろうなぁ。

 あ、僕はポーターでなく、サポーターです。

 どう違うのかと言うと厳密には差異はないから心持ちと、言ったもん勝ちである。

 僕の残りの人生は聖とメルトに使うことを決めているから、サポーターと言っている。

 2人がやりたいことを優先的に出来るようにしたいからね。


「父、母。パーティで戦うのって、凄いね」


 3人の連携や同時攻撃、時間差などの戦いっぷりを見て、メルトは大興奮していた。

 あんまり近くでほかの冒険者の戦い方を見たことがないし、機会もなかったせいか、色味の違う瞳をキラキラとさせていた。


「結構やるな。でも手数が少ないから倍以上の敵に囲まれると厄介なんだな」

「だからサヘルがエンプティ状態になってまで2人を守ろうとしたんだねぇ」


 いい男だな、サヘル。


「あ、階段が見えてきました!」


 杏がこちらを振り向きながら言う。

 警戒を怠らない、と言おうとしたが、レネもサヘルも杏をカバーするように動いたので、一安心かな。

 多分、これが日常なのだろう。


「でもあれって、なんですかね?」


 と、サヘルが指さした先には巨大な羊がズドンと階段前に居た。


「あー。アヴァランチ・シャーフだな」

「アヴァランチ・シャーフ?」


 聖の言葉に、サヘルは首をかしげた。


「うーん。特殊な条件でしか出現しない変異種、かなぁ。あんまりにも階層中のモンスターが増えると、たまに融合する事があるんだよ。で、あれがソレ」


 人の3倍くらい大きな羊さんは、階段前をウロウロしている。


「アレ、倒していいかね?」

「·····お願いします·····」


 聖があれは仕方がない、とばかりに討伐を申し出ると、ほっとした表情の3人は頭を下げた。


「父、メルトは?」

「んー。俺がヘイト稼いだら行けなくはないけれど、杏達に被害が行くのもなぁ」

「であれば僕が守りに入るけど、メルトにもやらせてみたら?」


 僕の提案に、聖はそれなら·····と頷いた。


「メルトは枢の前で遠距離攻撃メインで。羊が向かってきたら枢の結界内に入ること、いいね?」

「はーい」


 よし、方向性はきまった。


「聖があれをどうにかするから、少し待っててね」

「は、はい」

「さすがにあれは·····」

「すみません、よろしくお願いします」


 僕と3人は巨大羊さんの索敵範囲外の、木の後ろに移動した。

 そして、一振の細くて短い杖を取り出した。

 生命の杖。

 普段は40cm位の細い指揮棒のような形状のワンドだが、魔力を注ぎ込んだだけ大きく成長する。

 十分に魔力を充電させると、長さ200cm位の立派なスタッフになるのだ。

 なんか蔦とか花とか実とか生えまくるけど。

 貰いもんだけど、使い勝手がいいんだよねぇ。


「防御結界·····、認識阻害、気配遮断·····マーカー表示·····」


 結界を張ると同時に、聖とメルトをサポートするべく2人の体力と魔力を簡易表示した。

 この距離なら支援魔法も届くし、いざとなればマップと連動したパーティメンバーマーカーをタップしてスライドさせれば緊急回避が可能だ。


「聖、メルト。フルコントロール可能だよ。支援魔法掛けるね」

「おう、よろしく」

「わかったー」


 身体強化系を一度に数種類掛けることが出来る複合魔法を6人全員に。

 聖とメルトには更に攻撃を一定ダメージまで無効化する防御膜と、魔法ダメージ軽減も掛けた。


「枢さん、すごい·····ただのサポーターじゃない·····」

「この結界だけで·····私の魔力のほとんど使い切りそう·····」

「うう、近くで見たいけれど·····ここから出たくない·····」


 3人は後ろから2人の戦いを見ようと必死だ。


「はい、視覚強化。あまり注視してると酔うから程々にね」

「「「ありがとうございます!」」」


 まぁ僕も視覚強化の上に演算能力加速、並列思考強化までしてるけどね。

 でないと聖が早すぎて目で捉えられないのだ。

 なにせ、神速神槍紫電一閃な子だからね。


「さてと、メルトー。俺が二合打ち合った後なー?」

「はーい」

「んじゃ行きますかね」


 聖は腰にぶら下げている細身の剣を引き抜いた。


「よっと·····」


 とん、と軽くステップしてから大きく駆け出し、アヴァランチ・シャーフが気づく瞬間、その頭上に舞い上がった。


「先ずは一合」


 と、体を回転させた遠心力をうわのせした斬撃をアヴァランチに振り下ろす·····が。


「は?なんだコイツ。念属性か?!」

「え?」


 アヴァランチ・シャーフは地上で出てきた場合、地属性/動物のカテゴリーになるが、ダンジョン産だと念属性になるのだろうか?

 とりあえず、メモしておこう。

 念属性の嫌なところは、魔法攻撃はともかく、物理攻撃半減という特性がついている。

 なので強化したとはいえあの数打ちの剣では大したダメージを与えられていなかった。


「属性付与いるー?」

「いや、このままの方がヘイト稼げそう。タゲ外れる暇もないくらい連撃するわ。おーい、メルトー。魔法撃ってもいいぞー」

「はーい!」


 メルトがロッドを手に取り、簡易詠唱を唱え始める。


「貫け、黑影の槍!シュヴァルツランツェ!」


 数十本の黒い槍がそれぞれランダムな軌道を描いて四方からアヴァランチに突き刺さっていく。

 流石魔法に弱いだけあって、効果は高かった。

 簡易詠唱とは言うが、魔力が高ければ誰でも行けるやり方だ。

 要するに、即興で魔力を練るか、事象効果自体をマクロ登録してプリセットしておけば、技名だけで発動するお手軽魔法だ。

 魔力がバカみたいに高かった勇者の1人が編み出して後世に伝えた手法なんだけど、悲しいかな、異世界人にしか理解できない構築理論だった。

 僕は異世界転生、聖は異世界召喚者なのでそれを理解し、メルトに教えることが出来た。

 あと、発動する際の技名はなんでもいいらしい。

 メルトには好きにやりなさい、て某幻想世界の名付け辞典を渡した。


「え?詠唱が短くてあの威力?」

「すごい、聖さん、あの降り注ぐ黒い槍の中を、羊の攻撃も躱しながら切り込んで行ってる」

「俺の何倍·····早いんだ?」


 まぁ、聖にはあの程度の本数は見えているし、演算能力加速で全部の軌道を計算して回避しているんだけど、説明したところで感覚に近い行動だから、理解は難しいだろう。

 メルトは黑影の槍の第二射を放つと、続いて氷の薄い円盤を数個ほど放った。

 うん、見た目はほぼ八つ裂き光臨なんだよね、あれ。

 切り刻んだ場所から表面が凍っていき、それが全体を包み込んで巨大な結晶を作り上げ、音を立てて割れていった。


「聖、メルト!もう一押しだよ!」

「りょーかい!」

「はい、母!」


 鑑定スキルでのこりのHPを共有した。

 ちなみにこの対象物の残りのHPやSP表示、異世界関係者固有のユニークスキルらしくて、純粋なこの世界の住人の場合、鑑定スキルがないとわからないらしい。

 なので、メルトはそのスキルがないからパーティ共有で表示を見せている。


「とどめー!」

「任せたメルト!」

黒影の雷槌シュヴァルツ・ブリッツ


 聖がバックステップで距離を取った瞬間、アヴァランチ・シャーフの頭上から無数の黒い雷槌が降り注いだ。

 アヴァランチ・シャーフは断末魔の叫びを残して、粒子となって消えていった。


「聖、ヘイト管理お疲れ様。メルトも魔法発動までのタイムラグが早くなったね、偉い偉い」

「へへっ」

「えへへー。がんばった!」


 防御結界を解除し、二人と合流する。

 ドロップ品はアヴァランチの毛糸が30個、肉1キロの塊が50個、羊毛付き毛皮3枚、角2本、雪崩の短剣が1本だった。


【雪崩の短剣】

 氷属性の短剣 ATK+300 DEF+50 ASPD+20

 スキル:氷の虚像

 自身の幻影を作り出し、一度だけ攻撃を逸らす効果

 クールタイム10分


 ほほう。なにやら良い物が?

 とはいっても、短剣使わないんだよね、このパーティメンツだと。


「なぁ、メルト」

「父、同じこと考えた」

「?」


 合流してきたサヘルに、聖はその短剣を差し出した。


「え?」

「サヘル用にちょうどいいだろ?」

「は?」


 ああ。そういう事か。

 この先、同じように魔物やモンスターに囲まれたとき、サヘルなら同じ行動をするだろう。

 その時に、この短剣のスキルが役に立つだろうし、単純に戦力強化にもなる。

 暫くは他のメンバーを入れなくても問題はないくらいに。


「なぁ、これであの二人を守れるだろ?」

「それは……そうですけど……」


 こそこそと同い年二人が話し合っているのを横目で見ながら、僕は後のドロップ品を少しばかり杏に渡した。


「お肉12個、毛糸10個で申し訳ないんだけれど」

「いえいえいえいえいえいえ!私たちなにも!してません!!」

「ですですですです!貰う資格なんかないんですよ!?」

「メルト、連携のすばらしさに感動した。これは正当な報酬」

「と、依頼主が言っておりますので」


 どうぞお納めください、と杏の持っている魔法鞄にぐいぐい押し込んだ。


「うう。このご恩は一生忘れません」

「はぁぁぁ。ありがとうございます……」

「あとこれ、僕が調合したお肉料理なら何でも合う万能スパイス、これで羊肉焼いてサヘルに食べさせて養生させてね」

「はい、それと……あの、枢さん」

「ん?」


 杏が神妙な顔で僕の腕を取り、二人とは少し距離を置いた。


「あの、聖さんて……まさか……8年前の……」

「……」


 ああ、まぁ勇者の関係者だった人が先祖にいるなら、今代の勇者の情報も気になって調べるだろう。

 絵姿は幼い頃の者しか出回ってないけれど、名前に関してはフルネームでなくても知られている可能性もある。


「今はお役目から解放されてるから、内密にね」

「……! はい!」


 うん、いいへんじ。

 向こうでは話し合いが終わった聖とサヘルが戻って来た。

 サヘルが何かぐったりしているけれど、どうしたのか。


「待たせたな。じゃぁ杏たちは転送陣な」

「はい。今までありがとうございます」

「ご恩は忘れません」

「聖……俺、頑張るから!」

「おう、みんな頑張れよ」

「またどこかで会えたらいいね」

「みんなありがとう。メルトみんなの事大好き」


 階段の横に設置された有料の転送陣は一人銀貨5枚で、合計金貨1枚と銀貨5枚。

 命には代えられないからって強気な金額だ。

 ちなみにこの転送代、階層が深くなるにつれ、金額が跳ね上がっていくシステムだ。

 今回の依頼が銀貨8枚と言っていたが、自腹だった場合、素材を売ってもプラマイゼロだろう。


「あ、あとこれをギルマスのレッドに渡してくれ」

「?わかりました」


 先ほどから高速筆記で書いていた一枚の書状を杏に渡して、三人は転送陣の中から光をまとい、消えていった


「聖、なんの書状?」

「今回の騒動の流れと、アヴァランチの鑑定結果とドロップ品の詳細。それと、うちの子が三人に世話になったってことを少々?」

「ああ……」


 であれば、素材の買取に少しはイロを付けてもらえるか。

 今回の事は三人にはいい勉強になっただろうし、メルトも大満足だし、よかったよかった。


「父ー、母ー。階段!」

「おう、今行く」

「先にいったらだめだよ、メルト」

「はーい」


 僕らは次なる階層への階段を下って行った。

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