第14話✤ダンジョン内で人助け・終盤

 今までにこの世界に召喚された勇者は全部で7人。

 当然、聖は7番目だ。

 それぞれが神龍の一部から作られた神器を手に、この世界へと降臨している。

 が、始まりの勇者と言われている初代勇者は神器らしい神器は持っていなかったと伝えられている。

 それは間違った言い伝えで、一応はもっていたのだ。

 ただ、目には見えなかっただけ。




 初代勇者の武器は知恵と知識。

 神器の効果で元いた世界の理やシステム、物の仕組みや作り方なんかを全て理解していた。

 なので、まずこの世界に召喚された目的である世界規模の魔物の氾濫や大侵寇の被害なんかをその知識による戦略を駆使し、新たな武器を作り上げ、政策を施行し、安定と安寧へと導いた。

 異世界の物でこちらの世界でも使えそうな物ならどんどん提案した。

 そのおかげでインフラ整備も進み、人々の暮らしも改善された。

 農作物とかも種類が増えたし、塩や香辛料の生産も向上したしね。

 あとこの世界に米味噌醤油があるのは初代勇者様のお陰である。

 有難いね。

 まぁ、そんな初代勇者様は呆気なく死んだ。

 召喚した国の王子が、自身の地位を脅かされる被害妄想に陥り、勇者の提案した新しい法のお陰で割食った貴族と結託して刺殺されたのだ。

 身代わりの護符を持っていても、何度も何度も刺されれば生きているはずはない。

 最後は首を落とされておしまい。

 損な王子がいた国はもうこの世には存在しない。

 勇者殺害に憤怒した各国が一斉に挙兵し、わずか1週間で王都は陥落。

 首謀者の王子一派は末端貴族や子飼い、愛人、通っていた商館や怪しいと見なされた娼婦・男娼、あらゆるものが死刑に処され、王都は更地になった。

 もちろん、関係ない人は新しく作られた王都にそのまま移住。

 三年間くらいは衣食住の支援を各国が行っていた。

 新しく王になったのは初代勇者と理想を語り合った前国王の落胤である1人の学者だった。

 王位に興味はないが、得られる支援があればその身分を利用できる強かな面を持っており、初代勇者から説明された事を全て書き残して本にしてあった。

 それらのことから、他に適任が来るか自分が死ぬまでなら、と王の役割を承った。

 以降、国は2年で安定し、5年で各生産量が増え、10年で人口が5倍、領土が2倍になったと言う。

 そして、勇者召喚の権利は国が持ち回りで厳重に管理することなった。

 異世界からたった1人で見知らぬ世界に飛ばされた、帰ることなど出来ない哀れな子供を増やさぬように、と。




 そんな事を思い出しながら目が覚めた。

 時計をみたらまだ7時手前だった。

 うーん。勇者関係の話になるとナーバスになるんだなぁ。

 お爺ちゃん、もう少し図太いと思ってたのに。


「母、おはよー」

「おはよう、メルト。早いね」

「父まだねてるー?」

「寝てるねぇ。起こさないでご飯の支度しようか」

「うん!」


 昨日はなんだか精神的に疲れていたのか、聖とメルトを誘って一緒に寝たんだっけ。

 最近では1人で寝ることが多くなったからか、メルトは喜んで布団の中に潜り込んでいた。

 聖にはちょっとさわさわちゅっちゅされたけど、無視して寝た。

 娘の前でやめなさいよ。

 メルトは少し先に起きていて、暖かいミルクティーを入れて飲んでいた。


「朝ごはん、お外でいい?あの3人が心配なんだ」

「メルトも心配。先にお外で準備してくる」

「ありがとうメルト。よろしくね」

「はーい」


 天幕から出ていったメルトを見送り、僕はメルトの淹れた紅茶の残りを飲んで息を吐いた。


「はー。もう過ぎたことだしね。気にしないで頑張ろう、うん!」


 勇者という肩書きは重くて後々まで足枷になって、どうしようもなくままならないものだけれど、隠していられるのなら隠し通して行けばいい。


「大丈夫。聖やメルトに比べたら、僕なんてのほほん人生なんだから」


 うん、と一つ頷いて紅茶をあおった。




「メルト、大丈夫?」

「大丈夫。メルト1人で準備できたよ!」

「偉い偉い!メルト、ありがとう」

「えへへー」


 昨日と同じように敷布を何枚か重ねて敷いた上に、足の低いテーブルがL字型に置かれている。

 その横には魔道コンロの二口タイプが2台置かれていて、一つはお湯を沸かしていた。


「母、今日の朝ごはんはー?」

「そうだね、カリカリベーコンとチーズ入りスクランブルエッグ、焼いたソーセージ、カボチャサラダにミネストローネ、蒸し野菜なんかどうかな?パンとご飯も出そうか。サヘルには五分粥も用意しておこうか」

「うん!準備できたらよんできていい?」

「いいよ。その頃には聖も起きてくると思う」

「はーい」


 ここがダンジョン内のセーフティエリアであることを忘れてしまうようなのどかな朝の風景だった。




「あの!助けて頂いてありがとうございました!」


 朝食に姿を表したのは昨日の杏とレネ、そしてサヘルだった。

 メルトが呼びに行ったら3人ともやってきて、開口一番、サヘルはそう言って深々と頭を下げた。


「気にしないで、こちらとしても人命優先なんだから。それよりも起きてて大丈夫?貧血みたいな症状があるなら今日は寝てなね?」

「はい、少しまだふらつきますが概ね大丈夫です。戦闘はまだ無理そうなので、2人に頼んで午前中は寝かせて貰うことにしました」

「そう、でも無理はしない。ギルドのヒーラーさんに必ず診てもらうこと、いいね?」

「わかりました。お約束します」


 パーティの中で1番年下だと聞いていたが、なかなかちゃんとした少年さんだった。

 きっと、自分が死ぬかもしれないと解ってても、群れを自分に寄せて距離を取ったのだろう。

 なかなかできる事じゃないけど、お爺ちゃんとしては曾孫みたいな年齢の子には無茶して欲しくないのだ。


「あれから少ししたらサヘルがちゃんと目を覚まして、頂いたスープとパンを食べたんですよ。すごく美味しかったです!」

「トウモロコシのスープ、甘くて美味しかったです」


 杏とレネがそれぞれ感想を言ってくれる。

 渡した鍋を回収していたら、聖がのっそりと起き出してきた。


「おはよーさん。おお、君がサヘルかな?体は大丈夫か?あ、俺は聖。よろしくな!」

「はい!聖さん、よろしくお願いします」

「おう!杏から聞いたんだけど同い年らしいから敬語はいらんぞ」

「え!そうなんだ?じゃあ聖、よろしく。そして、ありがとう!」

「ん!」


 少年2人ががっちりと手を組んだ。いいことです。


「聖、サヘル、席について。そろそろご飯にするよ」

「おーう」

「はい!」


 敷物を敷いていても下は地面にで、クッションを置いた場所二座ってもらった。

 テーブルの上には山盛りの朝ごはん。

 食べ盛り5人出足りなければ追加でだしますとも。


「サヘルには五分粥もあるけど、どうする?」

「頂きます。昨日のも美味しくてびっくりしました」


 木の深皿にお粥をよそい、その上に塩を少々。

 おかず出食べて、と言って出した。


「昨日もでしたけど、ダンジョン内ってことを忘れる光景ですね」

「魔法鞄、あると便利だときいてましたけど·····便利どころじゃないですね·····」

「おいしい、お粥おいしい」


 三者三葉に口にして、おなかいっぱい食べさせた。

 食後、サヘルには薬草茶を飲ませ、天幕へと戻ってもらった。

 さっきこっそり解析したけど、これならあと一眠りして置けば帰る為に階段まで行く事は可能だろう。

 因みに、何故かダンジョンには1階層毎にお金を払えば地上に出られる魔法陣が設置されている。

 5階層単位では無料なのにね。

 セーフティエリアなんかの維持費かな?


 急ぐ旅ではないけれど、このまま3人に付き合うのも違う気もする。

 でもせっかく助けた命なんだから、帰るまで見届けたいと思う自分もいる。

 そんな僕の考えがわかっていたのか、聖は2人に提案した。


「なぁ、君たち3人に提案があるんだが」

「何でしょう?」

「メルトは今レベリング中なんだけどな、俺たちは手を出さないでいるから、ほぼソロ出戦っているんだ。だから、連携やパーティでやる戦闘経験は皆無だから、3人にがそれをメルトにそれを見せてやって欲しい。報酬は次の階層への階段付近にある地上への転送陣の使用料と、これでどうかな?」


 と、聖が取り出したのはカルネブエ上位種の肉だった。

 あ、さっきふらっと居なくなったとおもったら!


「え?これって·····」

「でも、これだと私たちだけ得してしまいます!」


 聖の提案した報酬は確かに過ぎたものだろう、でも·····。


「メルトの家庭教師代だと思ってほしいな。それに、サヘルのこともあるから、階段の所まで一緒に行きたい気持ちもあるんだよ」

「·····わかりました。メルトちゃん、見て習うしかないけれど、いい?」

「うん!メルト、ちゃんと見てる!」

「よろしくね、メルトちゃん」


 話もまとまったところで、片付けしたり一休みしたりしますかね。


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