第16話✤ダンジョンは続くよどこまでも
9階層に降りれば前の階と大差ないマップだった。
基本草原フィールドで岩場や小さな森がちらほらと。
途中、飲料にも適した滝と湖があり、動物系のモンスターが姿を見せている。
主なモンスターは緑色の毛を持ったブラックフェイス種の羊、グリューンシャーフ。
岩場には中型の蛇やトカゲ系、森にはコカトリスやクックルー(コカトリスより小さな飛ばない鳩みたいなの)等など。
動物天国的な場所だった。
「母―!たおしたー!」
そんな中、動物触れ合い殴り合いな戦闘をこなしたメルトがにこやかに手を振っている。
ああ、うちの子可愛いなぁ。
「母!今日は焼き鳥!焼き鳥!塩で!」
「俺はザンギ系がいいなー!あとチキン南蛮タルタルソース付きで!」
想いの他、羊に飽きていたようで、二人で森に行っては根こそぎ鳥系モンスターを駆逐していた。
羊、さっぱりしてておいしいのに……。
「わかったよ、リクエスト全部作ろうね。メルト、焼き鳥は丼にもできるよ。あと皮から油も取って、鶏ハムと鳥スープもつくろうか」
「たべたい!」
「軟骨入りのつくねもお願いします!」
「はいはい」
いえーい!とハイタッチする二人を見ながら、子供二人だったっけ?と首を傾げる。
まぁいいか。
8階層の時みたいに変な融合体がいることもなく、そのまま階段で10階へ。
10階には階層のボスモンスターがいるので、ここでの疲労度によっては手前のセーフティエリアで一晩休むことになる。
「10階層もあまり変わらない……かな?」
「ボス部屋がある分、ちょっと強くなった程度のモンスターがメインだな。種類的には蛇系に上位種がいるくらいだってさ」
「蛇系は岩場に行かなければ遭遇はしないとして、ほぼ一直線にボス部屋攻略でいいのかな?」
「メルト全然平気!」
「そっかそっか。ならこのままボス部屋目指してみるか」
「途中、何があるかわからないから気を付けるんだよ」
「はーい!」
聖が貰ったダンジョンマップを見ながら説明してくれた。
階層ごとに出るモンスターの情報が掲載されているのでありがたい。
「お、早速おでましか?」
と、聖が見る方向に目を向ければ、何やら殺意高い羊共が数十匹ほど、こちらをじっと見ていた。
「アクティブになってない?」
「この階層の羊はアクティブかつリンクしてくるから、気を付けろよ、メルト」
「やられる前にやる。これ鉄則」
ぐ、とメルトは握り拳を見せた。
魔法職なんだけどなぁ。
「よし、メルト。行ってこい」
「はーい。メルト、いっきまーす!」
メルトはとん、と軽やかに駆け出すと、走りながらも並列思考で数種類の攻撃魔法を展開しつつ、自身には物理シールドを張って突っ込んでいった。
……だから、あなた魔法職では?
「まぁほら、今時の魔法職なら自身の守りは出来ないとだし、近接戦闘の一つや二つ出来ないとだし……」
「……」
聖が色んな戦い方をメルトに教え込んでいるのは知っている。
それにメルトだって魔法職がメインではないことも。
魔力がバカ高いから魔法職についているだけで、剣も拳もいける万能型魔力特化なユニットなのだ。
これ、盾を持たせて防御系のスキルを上げていけば、魔法タイプのタンカーになれるんじゃないかな。
「どんな戦い方をするのかはメルトに選ばせた方がいいよ」
「……そうだね」
そうなんですけれどね。
明らかに詰め込み過ぎているとおもうんだよねぇ。
もうちょっとのんびりでもいいと思うんですよ。
料理や裁縫も教えたいしさ。
「父ーおわったー!ドロップ品も回収したよ!」
「おーう、お疲れさん。どうだった?」
「流石にあの数はつかれたかも。でも少し休めば同じ数いけるよ」
「そうかそうか。すごいなメルトは。でもボス部屋まで行くから周りを注意な」
「はーい!」
途中途中で索敵に引っかかって襲ってくるモンスターを倒しつつ、一度セーフティエリアで休憩をすることにした。
うちの欠食児童の腹が鳴ったので。
「チキン南蛮」
「焼き鳥しお!」
「わかったよ。テーブルの用意してて」
「「はーい」」
二人にテーブルなどの準備をお願いしてから、オーブン付きの3口魔導コンロをとりだした。
ダンジョンモンスターの特徴として、可食部分のドロップがあるのだが、実は部位ごとに分かれてのドロップとなる。
なので、鳥系であれば、腿、胸、手羽、皮+ガラなど。
そのまま落ちても問題がないように、大きな殺菌効果もある葉っぱで包まれている上に、血抜きもされているのでありがたい。
なので、先ずは皮とガラのを3匹分、取り出す。
大きな寸胴鍋に水と酒、根菜、大蒜、生姜と、こういう時の為にとっておいた野菜の皮やクズをガラと一緒に煮込んでいく。
皮は適度な大きさに切ってからフライパンへ。
暫く炒め続けていくと、皮から油が出て揚げ焼きの様になる。
そこに葱の青い所を入れ、皮がカリカリになったら一旦あげて塩を振ってよけておく。これは僕と聖の晩酌のおつまみになる。
残った油は漉してから冷まして瓶へ。鶏油の出来上がり。
チャーハンやスープ、ちょっとした鶏肉の炒め物、中華系の料理に使うので、今回は少し多めに作っておいた。
鶏ガラが煮立ったらアクをとりつつ、そのまま煮込み続ける。
他の料理を作っている間煮込んでいれば、スープとして出せるだろう。
ちょっと大きめの寸胴で煮込んでいるのは、作るなら大量に、そして後に使いまわすためだ。
「さて、次は……」
鶏腿肉と胸肉、手羽なんかを出して鉄製の串にさして聖を呼んで焼いてもらうことにした。
「聖―、これお願い」
「まかせとけー」
聖は串焼きの火加減が上手い。
魔法で火力調整をしつつ、遠赤外線も操作して外側はパチっと、中はジューシーな仕上がりにしてくれるのだ。
なんでも、この世界のご飯で一番まともだったのが串焼きで、ならばと極めるために日々あれこれ魔法を捏ね繰り回した結果だという。
うん、日本人、食に対しては厳しいし突き詰めるところあるからね……。
「あとはチャーハンとチキン南蛮か」
中華鍋に鶏油を少々いれ野菜を細かめに切ったものを炒め、先ほどのカリカリになった鳥皮も少しいれてから溶き卵でふんわり半熟になるようにさっと火を通して一旦よけておく。
ご飯も鶏油で炒めて塩コショウ、先ほどの半熟卵を混ぜたらチャーハンの完成。
チキン南蛮用の鶏腿肉は、あらかじめ塩砂糖水で作ったブライン液につけておいた。
バッター液にくぐらせてから小麦粉をまぶしてカラリと揚げていく。
大体10枚揚げれば少しあまるし、その分は明日に回せるだろう。
タルタルソースは僕のお手製マヨネーズに、香味野菜をいれた薫り高いものを作って切ったチキン南蛮にかけておく。
鶏ガラも煮込まれてきたし、一旦火からおろしてスープ分を小鍋にわける。
刻んだ葱と溶き卵、仕上げに鶏油で鳥スープの出来上がり。
簡単に千切った野菜のサラダもだして、あとは食べてる間に鶏ハムと鶏チャーシューも仕込んでおけばいい。
「できたよー」
「「はーい!」」
待ちきれなかったメルトがりょりが出来た傍からテーブルまで持って行ったので、あとはスープを小鍋ごと持っていけばいいだけだった。
「こっちも出来たぞ」
と、聖が差し出したのは大きな木の器に盛られた、串焼き各種。
うん、鶏尽くし。
みんなで頂きます、をしてからご飯を食べることに集中した。
チャーハンがあるけれど、足りないだろうから土鍋ご飯もだしてある。
あとはチキン南蛮を挟む用のパンも。
出した料理はほぼ満足してもらったようだ。
「メルト、どうする?ボス部屋いってみる?」
「うん。ご飯食べたらやる気がでてきた!」
食後のお茶を飲みながらメルトに聞けば、そう返ってきた。
「じゃぁお茶を飲み終わったらいこうか。ボスを倒したら、11階層のセーフティエリアで一泊でいいかな」
「うん!」
「11~13階層は昆虫系だそうだ。14,15がアンデット系」
それを聞いて、メルトは嫌がるそぶりを見せずにニヤリと笑った。
その笑い方、聖に似てるからやめなさいね……。
「ヘラクレスオオカブトいるかな?アクティオンゾウカブトとかコーカサスオオカブトとかマンディブラリスミツノサイカブトとかギガスサイカブト!」
メルトさん、なんでそんなにカブトムシに詳しいのかな?
カブトムシだけじゃなくてクワガタ系もいますよ?パラワンオオヒラタクワガタとかアンタエウスオオクワガタとかさ。
「昆虫ってテイム不可能なんだよなぁ。巨大昆虫バトルとかムネアツなんだけどなぁ」
やはり君が原因か、聖……。
「いってみないとわからないからね」
「うん!」
メルトはそういいながらも、まだ見ぬ巨大な昆虫に思いをはせていた。
……メルト、僕はメルトが楽しそうにしてくれるだけでいいからね……。
10階層のボスはやはりというかちょっと大きな羊さんだった。
大きさは8階層にいた融合種より一回り小さく、あれとの闘いを経たメルトには役者不足だったようだ。
防御シールドと身体強化、演算能力加速、並列思考などのバフスキルを盛り盛りしたメルトに敵ではない。
あっという間に断末魔が聞こえ、虹色に輝く銀色の毛皮を持ってやってきた。
「これ母にあげるー!」
「ありがとうメルト。鑑定したら超稀少な極レアものでびっくりしたけれど、いいの?」
「ふかふかしてるから、これ敷いて父と一緒に寝て!」
「ぶふぉっ!」
「おお、メルト。気遣いができるようになって父は嬉しいぞ!」
「メルト、えらい?」
「えらい、えらい!」
いやいやいやいや、何を言ってるんですかメルトさん?
8歳が気遣う内容じゃないんですけれど?
だってねぇ、じゃないんですよ。
え?最近回数が少ないのでは?なんの回数かな???
ふかふかだから腰に負担がかからない?
いやいや、腰に来るのはお爺ちゃんだからですよ??
ちょっとメルトさん、生暖かい目で見るのはやめなさい?
聖もにやにやしてない!
もう!!!!!知りません!!!!
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