第12話✤途中階層にて、人助け。
6、7階層はアンデットの回想だった。
気分は死霊のレッツパーリィなんだけど、流石に死体ばかりでは気が滅入るので、足早に通り過ぎることにした。
聖の神器の真なる力を解放すれば、このダンジョンのアンデット系は一瞬で一掃できるけど、メルトに頑張って貰わないとね。
実は魔族は聖属性との相性が悪い。その分、闇属性とはベストマッチなんだけどね。
この辺は生まれ持った種族値属性とかが関わっているので、仕方がない所はある。
なので、魔族が使う回復魔法は水属性か闇属性の循環魔術と再生魔術のみになる。
聖属性のヒールが一度にいくつ回復するか、というのに対し、この2属性は1~5秒事に少量回復で、魔力やスキルレベルで回復量が変わる。
そんな感じなので逆にアンデットに使うとめんどくさい。
なので·····。
「メルト、生命の杖貸そうか?」
「ううん、大丈夫。殴るから」
僕がたまーにトレッキングポール代わりに使っているこの杖、生命の杖と言って誰でも大回復のヒールLv10を使えるようになるSSRクラスのアイテムだ。
昔、神殿に行儀見習いに行ってた頃、教皇様から貰ったものだったりする。
そんな良い物を歩行補助の杖代わりに·····?とか思うだろうが、教皇様も同じ使い方をしていたので無問題だと思う。
しかも、これよりいい杖作ったからこっちあげる、て感じの譲渡だったしね。
使い込まれてボロボロだったものをエルダートレントとアークドリアードの素材を使い、高ランク聖属性魔石でバージョンアップさせたので、魔族のメルトでもヒールLv10は使えるというスグレモノになっている。
「そう?殴るの疲れたら言うんだよ?8階層まで行ったら休憩しようね」
「うん!はちみつミルクティーとマドレーヌがいい!」
「お、いいな。俺はたまごサンドも食べたいなー」
メルトに便乗した聖がのんびりと言う。
作ってますとも。
メルト用の普通のやつと、聖と僕用にはキュウリが入ったマスタードマヨネーズが塗ってあるやつの2種類。
それと、ハムチーズとポテサラ、ミックスベリージャムも作ってある。
「じゃぁもう少しだけ頑張ろうか、メルト」
「がんばれよー!」
「うん!」
好き嫌いなく(?)モンスターを倒していくメルトは偉いと思います。
親バカと言い長ければ言うがいいのです。ええ。
8、9階層は動物系で群れの中には必ず上位種が混ざっていた。
パーティなら連携と盾役さえしっかりといれば苦労はないだろうが、三人程度だと少し手こずる位か。
「父ー、アレ美味しい?」
「おー。グリューンシャーフのカルネブエのダンジョン種だな。体が大きいからラムチョップやラムシチュー向きだ。あそこの子供のやつは柔らかいから焼肉だな。あと甘辛く煮込んで米に掛けると美味い」
「メルト行きます!」
「首落とせばいいからな!毛皮はそのまま敷物になるぞ!」
「わかったー!」
と、振り向きもせずに返事をしてからメルトはカルネブエの群れのど真ん中に突っ込んで行った。
魔術師タイプのはずなんだけどなぁ。
メルトはモンスターに対して直角の位置に回り込むと、風属性魔法でスパスパと首を落としていく。
ドロップした肉や毛皮、羊毛なども同時回収している。
この辺の器用さは聖譲りだろうなぁ。
物心ついた頃から聖の戦い方を間近出見続けているからね。
あ、魔物とモンスターの違いは魔物は地上の種、モンスターはダンジョン産の亜種をさす。
ダンジョン産の魔物は一回り大きかったり強さが地上のよりも2割くらい高いから、別物としてカウントしている為だ。
なので冒険者ギルドに行くと2種類の図鑑がある。
どちらに行くかで見る図鑑が違う。
メルトにはどちらも渡して勉強させてるから、ダンジョンの中層までなら頭に入っている。
「母ー!今日は焼肉がいいー!」
ドロップを両手に持って駆け寄ってくるメルトが可愛いので、バトルスタイルはもう気にしないことにした。
焼肉?串焼き?煮込み料理?
なんでも作りますとも!
9階層への階段まで半分の場所にはセーフティエリアがあり、そこには既に1パーティ4人組が天幕を張り、野営準備をしていた。
セーフティエリアの場所はまちまちだけど、大体中間地点と階段手前に作られている。
「こんにちわ。お隣、失礼致します。パーティ名『プレイヤード』のサポーター。
天幕を張る前に先に来ているパーティに挨拶をするのが礼儀だ。
その時に場所が狭ければ少しずれてもらう等の融通をしてもらうようお願いするし、こちらに怪我人が居れば協力を申し出ることも出来る。
なので挨拶は重要なのです。
「あ、はい。こんにちは。本日はよろしくお願いしますね!パーティ名『ティアラ』のパーティリーダーの
「ご丁寧にありがとうございます。本日は何かお手伝い出来れば幸いです」
「サポーター·····。あ、あの·····不躾ですが、低級でいいので回復ポーションがあれば少し買わせえ貰いたいのですが·····」
初対面なのに助けを求められるのはよくある事だ。
ただ、その状況にもよって協力度合いも違ってくるのだ。
「余裕はありますよ。どうしましたか?」
「この層のグリューンシャーフの大きな群れに当たってしまい、何とか倒せたのですが回復アイテムが底をついてしまって·····。パーティの1人がまだエンプティ状態から回復し切れてないんです。なのでここで2日位待機してから、地上に戻ろうかと」
エンプティ状態。
いわるゆ気絶~ちょっと手前の、要するに安静していなければならない状態だ。
そのまま安静にしていて、目覚めてからちゃんと栄養を取れば直ぐに回復するが、ここダンジョンだと少し難しい。
人命に関わることだ。
「それは大変だ。少し他の2人と相談してみます」
「出来ればでいいので!お願いします!」
深々と頭を下げられてしまったら嫌とは言えないんだけどね。
「·····ていう状態みたいなんだけど」
聖とメルトが組んでくれた天幕に入り今の話を伝えると、2人は直ぐにこう言ってくれた。
「母、たすけてあげて」
「人命かかってるんじゃ全面協力しかないだろ、それは·····」
「わかった、行ってくるね」
「落ち着いたら食事に誘ってくれ。メルトもいい?」
「うん、さっきの毛皮渡していい?暖かいの」
「メルトが倒したものだから、メルトの好きにしていいよ。じゃあ行ってくる」
「枢」
「なあに、聖」
「医療解析以外スキルは使わない方法で、出来るか?」
「問題ないよ。外部による手はいくらでもあるから」
聖との会話の後、天幕から出て杏さん達の天幕の側まで行ってから、声を掛ける。
「杏さん、枢です」
「はい!」
すると直ぐに杏さんが飛び出てきた。
「あの、低級1本でもいいのです!」
「その事ですが、全面協力致します」
「·····え?」
「幸い、ここまでにポーション類は使ってませんし、うちには優秀な回復も出来る魔術師がいますので」
「ほんとですか?!」
とりあえず、件の要看護者の状態を見せてもらうことにした。
僕、男ですがいいんですか?と聞けば、対象者は男なので問題ないとの事。
「失礼しますね」
天幕の中は空間魔法がかかって居るものだった。
外見は1人用の三角錐型のワンポールテントだけど、中は6畳くらいの広さがある。
そこにドロップ品であろうグリューンシャーフの毛皮を敷物にして、あどけなさの残る少年が横たわっていた。
「うちのシーフのサヘルです。1人だけ囲まれてしまって·····」
「は、初めまして、サヘルの姉で魔術師のレーネストです。この度はありがとうございます」
「枢といいます。よろしくお願いします」
「多少は医療知識はありますので、診察させて頂きますね」
「!よろしくお願いします!」
生命の杖を使えば体力は回復するし、魔力譲渡スキルを使えばあっという間に終わるんだけど、聖からスキル使用禁止を言われている。
ちょっと使うスキルが特殊なので、突っ込まれると誤魔化すのが面倒なんだよね。
なので·····。
「まずは
要はLvと使い所と合わせ技なのだ。
サヘルはやはり、外傷による体力の低下と、スキル多用による魔力枯渇の影響でエンプティ状態になっていた。
それ以外は骨折もなく、内蔵への損傷もない。
「骨折や内蔵への影響はないです。体力と魔力さえ回復すれば、大丈夫ですよ」
「ほんとですか?!」
「すごい、解析スキルでそこまでわかるんですか?!」
「·····Lv10になるのと、医療知識や回復スキルがあればまぁなんとか」
嘘は言ってない。
回復させるにも医療知識は必要だし、肉体の部位や名称が解ればその分ブーストできたりするからね。
頑張って医療関係の本を通販スキルで買って読んだしね。
「では、こちら、低級ポーション10本、中級2本。後、こちらの解毒ポーションなのですが、副次的な効果として、少量の魔力回復効果があるものです。よろしければどうぞ」
「そんな!そこまでして頂くなんて!」
「人命がかかってますから」
「あ、ありがとうございます!ありがとうございます!」
2人は何度も頭を下げてお礼を言ってくれた。
「まずは低級と解毒ポーションを1本ずつ飲ませ、意識が回復したら消化が良くて栄養のあるものを食べさせ、一眠りさせてからまた低級ポーションを飲ませてください。その後の回復度合いで中級を飲ませてくださいね。体力勝負になりますから気を抜かないで下さい」
とりあえず、今夜の食事はこちらが用意すると伝えた。
ダンジョンでは消化のいい栄養の高いものとか、準備出来ないからね。
「本当にありがとうございます」
まずはサヘルにポーションを与え、また
すると体力は5分ほど、魔力も0から8くらいには回復した。
「う、うあ·····」
「サヘル?!」
「サヘル、わかる、杏だよ!レネもいるよ!」
サヘル君が身動ぎして、少しだけ目を開けた。
「あん·····れね·····」
「良かった!本当に良かった!」
「サヘル、よかった·····」
泣き崩れる2人をみて、サヘルはキョトンとしてからこう告げた。
「ねぇちゃん、はらへった·····」
これには2人も大笑いした。
あのまま悪化すれば死んでいたかもしれないのに。
「休眠状態から急に目覚めたからね。体が栄養を求めているんだねぇ。待ってて、いまご飯作って持ってくるよ」
「枢さん、ありがとうございます。他の方にもお礼を言いたいので、天幕まで御一緒してもいいですか?」
「問題ないよ。他のふたりも気にしてたから、無事を伝えて欲しいな」
「はい!レネ、ちょっと行ってくるね!」
「うん、行ってらっしゃい」
僕と杏は天幕をでて、僕らの天幕まで移動した。
「聖、メルト。戻ったよ。ご飯作るから外でご飯の支度していい?」
天幕の外から声をかければ、中から聖とメルトが顔をだした。
メルトは聖の後ろに隠れて、もじもじしている。
多分、自分が魔族だからというのもあるのだろう。
「もう大丈夫なのか?」
「あ、はい!枢さんのおかげで目を覚ましました!」
「そうかそうか。俺は聖。槍と剣をメインに戦ってる。こっちは娘だ」
「初めまして。メルトです。目を覚まされとのことで、安堵致しました」
「は、はい。ありがとうございます·····」
メルトが完璧なカテーシーをしながら畏まった対応をしたので戸惑ったようだ。
「飯つくるんだろ?外に厚手の敷物敷くから、座って待っててな」
「あの、これ。怪我してる人にかけてあげて?」
聖が天幕の中から何本か丸めた厚手の敷物を敷き詰め、その上から大きめの織物を掛ける。
8畳位のスペースができた。
メルトはさっきドロップしたカルネブエの毛皮を、聖に加工して貰ったのだろう、毛布にしたものを杏に渡していた。
「混んな高価なもの·····いいんですか?」
「いいよ、元手はタダだし。ドロップしたのはメルトだから。メルトの望むままにしてあげてくれ」
そういや、あんな厚手の毛布は庶民では見ないな、と思ったりしたが、まぁいいか。
サヘルに渡してくる!と自分の天幕に戻った杏を見送って、僕はみんなのご飯を作ることにした。
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