第11話✤ダンジョンに行こう
モヤモヤした気分を払拭させるには、無心になれる事をするのが1番だ。
なので、先日新しく購入したアウトドアレシピ本と作り置きの本を参考に色々作っていた。
起き出したメルトも手伝ってくれたので味見する?と聞いたけど、なんかお腹いっぱいだがらいい、と首を傾げていた。
·····ですよね。
「おー?なんかすごいぞ」
「あ、父起きたー」
「お茶飲むならそこにあるからー」
「ん、自分でやるから大丈夫だぞー」
一定の温度を保つ効果のある鍋敷き型の魔道具で温められているお湯を使い、魔法鞄の共有収納から紅茶のティーパックを出して3つのマグカップにそれぞれを注いでくれた。
「メルト、今日ははちみつとミルクはどうする?枢はストレート?」
「今日は両方いるー。父ありがとー!」
「うん、そのままでお願い。ありがとね」
「どういたしまして」
と、淹れたての紅茶をキッチンまで持ってきてくれた。
作業台の上には各M~LLサイズ10個ずつはあるタッパー(便利だよね)にぎっちり詰められた副菜の山が。
入り切らなかったものは木の器に合わせ盛りにしてテーブルの上に置いてある。
つまみ食い用にね。
聖にお箸を渡したら早速、テーブルに向かっていった。
メルトにも聞いたけど、まだお手伝いはするとのこと。
うう、いい娘に育って嬉しいなぁ。
「母。肉焼けた!」
「じゃぁオーブンから取り出そうか。熱いから僕がやるよ」
「任せた!」
オーブンで作っていたのはドラゴンとカルネブエという食肉に適した牛系の魔物の肉のローストドラゴン&ビーフ。
コンロをフル稼働して沢山作っているのは2人がローストビーフ丼と野菜マシマシラーメンのセットをこよなく愛しているからだ。
メルトにはなるべくこの世界の物を食べさせたいのに、卵と麺類だけは·····、なので許して欲しいと思う。
後は普通にレシピ本から出来そうな主菜を片っ端から作る予定。
それだけあれば、ダンジョンに篭もっても大丈夫かな。
メルトもやる気だし、僕らはそれをサポートするだけ。
◆◇◆
さて、まずは冒険者ギルドに行って、ギルドマスターにこれからダンジョンに入ると告げる。
例の件もあるので、僕らがダンジョンに潜ってくれるのが嬉しいみたい。
ギルドから携帯食100食分が入った小容量の魔法の箱をプレゼントされたので、ありがたく頂くことにした。
自前はあるしいくらでも購入はできるけれど、これはこれで役に立つのだ。
時たま遭難した人にわけたりもするので、携帯食はいくらあっても困らない。
僕らはギルドを出て、ダンジョンまでの定期便に乗り込んだ。
街からダンジョンまでは馬車で約15分。
それなりに混んでいて活気があった。
「ダンジョンに入りたいんだが、とりあえずこれを確認してもらっていいかな?」
ダンジョンへの出入りを管理している関所の門番さんに、先日レッドさんからもらった免罪符を見せる。
すると連絡が来ていたのか、どうぞよろしくお願いします、と一礼された。
話を聞くとそれなりには被害が出ているようで、王都の騎士団に討伐要請を具申するべきだとギルドマスターに掛け合っていたらしい。
「まぁ、騎士団に具申したところで、どうにかなるとは思えないんだけれどな」
ダンジョンに1階に降りて暫く歩いていると、聖がそんなことをボソッとつぶやいた。
「確かにね。Bランク冒険者っていうと大体騎士団とどっこいって言われてるし、実際そうだし」
「だよなぁ」
「母、騎士団よわいの?」
僕たちの会話を聞いて、メルトが首を傾げた。
「うーん、8年前にちょいとデカい戦があってな。それで結構な数のベテラン騎士団の人たちが戦死しちゃったんだよ。で、今の騎士団っていうのはその時にまだ子供だった見習いさんたちが主戦力でな、実力不足なのは否めないんだ」
「そうなんだ……。騎士団さんたち、これから強くなるといいね」
「そうだねぇ。強くなってもらわないといけないね……」
そんな話をしながら5階層までやってきた。
初級層のモンスターは魔物除けでなんとでもなるので、時間短縮させてもらった。
そして、5階層ごとにボス部屋と呼ばれる、ちょっと強いモンスターや上位種が出てくる大部屋がある。
そこをクリアすれば下の階への階段が出現する仕組みだ。
「5階層のボスはオークウォーリア5体、オークメイジ3体、オークジェネラル1体か。まぁメルトなら問題ないだろう。部屋に入ったらぶちかませ、メルト」
「おっけー父!メルトいきまーす!」
ボス部屋に挑む冒険者が他にはいなかったようで、すぐに入ることができた。
入るとすぐに扉が閉まり、召喚陣からボス部屋の主たちが姿を現した。
それらが全員揃ったところで、メルトの魔法が炸裂した。
「ロックオン!フレイムホーミングアロー!シュート!」
MAP機能と連携した追尾型の炎の矢……、矢というか1本の大きさはほぼ短槍ほどのものが、モンスターの群れに降り注ぐ。
逃げても無駄な追尾型攻撃魔法はメルトの得意魔法だ。
ランダムな軌道を描きながら、1体に対して数本、それらは貫通していく。
「父ー!おわったー!」
「えらいぞメルト!ドロップ品を拾い終わるまでがボス部屋での行動だからな」
「わかったー!」
光の粒子となって消えていった活躍することも出来なかったモンスターたちのドロップ品を、メルトはちまちまと集めて回っている。
そうこうしていたら下層に降りる階段が出現する。
この階段、ボス部屋をクリアした者たちにしか反応しないので、下層に降りないでボス部屋から出ると消えてしまう。
急ぐものではないが、メルトが拾い終わったタイミングでさっさと降りることにする。
ちなみに、帰還用魔法陣も同時に出現するので、帰りたい人はこちら、という訳だ。
「15層までノンストップでいけるかな?」
「その前にメルトが疲れちゃうよ。10階層クリア時点で休むかどうかメルトに決めてもらおう」
「だな。あくまでメルトのレベルアップの為に来てるしな」
「ついでに討伐される元冒険者さんたちが可哀想になってきた」
メルトの実力的にまだBランクは無理だ。
聖や僕と試合形式の訓練はしているけれど、本格的な対人戦は未経験だし。
なるべくなら経験しないままでいてほしいけれど、冒険者を続けていくのであれば、避けては通れないか……。
「怖い人は父にまかせる!」
「任された!」
最下層6階への階段を下りながら、そんな会話をした。
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