第9話✤ユレスクまで何マイル?
明くる日、冒険者ギルドにこの街を出ることを伝えてから連絡馬車の集合ターミナルに到着する。
ユレスクの街へはここから約8時間。
連絡馬車は二通り。
途中休憩が最低限の高速コースか、ゆっくり休憩コース。
どっちがいい?と聖とメルトに聞けば、2人とも駐車場が楽しいからとゆっくりコースを選んだ。
総合案内所で乗車券を買い次の発車時間を聞くと、20分後には出るようだ。
直ぐに乗り場まで行くと、最新式の連絡馬車だった。
サスペンションが改良され揺れが少なくなり、家族用の四人席ボックスシートもある。
これの豪華版になると、中で区切られて6人掛けの3室しかない個室仕様になっているのだと御者さんは教えてくれた。
へー。1度は乗ってみたいまのだね。
「お客さん方は後方のボックスシートになりますね。相席は居ないと思います」
「わかりました。ありがとうございます」
御者さんの指定した席には予めクッションが置かれていた。
必要なら使ってくれと言うことなのだろう。
「ボックスシートなんて久しぶりだなぁ。日本じゃよくあるしね」
「え?そうなの?俺はこういう席はテレビとかでしか見たことないや」
「·····ジェネレーションギャップか·····」
「お向かいになってていいね。みんなの顔みておしゃべりできるね!」
メルトにも好評だ。
小さいが備え付けのテーブルもあるし、少しは快適な度になりそうだね。
そんなことを話しているうちに全ての乗客が席に着き、時間になったので出発する。
ゆっくりと馬車は街の門を潜り、街道を進んで行った·····。
道中は快適だった。
最新式というのもあるし、何よりもトラブルが無かった。
休憩場では商隊の露店をみたり、ちょっとした芸で稼いでいる旅人もいた。
こういう長閑な旅路ならいくらでもOKなんだよねぇ。
「母ー。魔族の子がいたー」
と、メルトの視線の先を見れば、別の商隊の従業員だろう魔族の家族がいた。
そのそばを小さな、メルトよりも小さい子が母親の傍にいて、何やら甘えている。
「この辺は大きな街があるからね。その街から来たのかも」
「魔族は少ないの?」
「そんなことはないぞ。ただ、住んでいる国からあまり外に出て商売や旅をする魔族が少ないってだけだ」
メルトの言葉に、聖が補足をした。
確かに魔族はある意味引きこもり体質なので、めったに魔族国から出てくる個体は少ない。
その気質のせいで、やれ悪だくみをしているだの世界を滅ぼそうとしているだのと言われているけれど、人間が勝手に妄想しているだけで冤罪なんだよねぇ。
「休憩時間がもうないから今回は見送って、次に他の魔族の子がいたら声をかけて見ようか」
「ほんとに?できる?」
「メルトがそうしたいならな」
「うん。メルトやる!声かける!」
ふんすっ!とやる気を出した彼女を促して、馬車に戻る。
次はユレクトの街。
今回の旅の、目的地だ……。
◆◇◆
ユレスクの街についたので下車するときに御者さんにお礼をいう。
そのまま冒険者ギルドに行って、冒険者カードを見せてからギルドマスターを呼んでもらうようにお願いした。
「ようこそ、ユレクトの街へ。ギルドマスターのフェイルレッドだ。レッドでいいぞ」
「副ギルドマスターのアンジーネイトよ、宜しくね。アーネと呼んでくださいな」
ギルドマスターの部屋に通され、それぞれと挨拶を交わす。
ソファに案内され、お茶が運ばれてきた。
「早速ですが、この子が冒険者になったのでこの街のダンジョンでレベルを上げようと思ってます。何もなければ当分はこの街に居たいので、コテージのある宿やか借家を紹介してもらいたいのですが、どうでしょうか?」
丁寧に聞けばギルマスはうってつけの借家がある、と提案してくれた。
「本来なら宿泊施設の紹介は商業ギルドの管轄なんだが、俺の実家にすむ姉が先月結婚して王都にいっちまってな、今はだれも住んでないんだ。売れるまでの管理を頼まれたからそこなら提供できるぞ。あとで売買を任せている商業ギルドには人に貸したといっておくので、鍵を渡しておくよ」
「ありがとうございます」
「場所は城壁の門から少し離れるが、その分治安はいい。ダンジョンまでは定期便の馬車も出ているから、さほど苦労はしないはずだ」
「そうなんですか。よかった」
街の管理とはいえ、ダンジョンが遠くにあると歩くので疲れてしまうことがあるしね。
定期便があるのはありがたい。
「ではこちらが鍵です。それと、こちらがダンジョンへの出入りを制限しないという書類になります。ダンジョンコアさえ破壊しなければ、その場の判断を罪には問わないものになります」
アンジーネイトさんがそう言って一枚の書状を差し出してきた。
それは免罪符だ。
ダンジョンの中ではあらゆる危険やトラブルが想定される。
それは元勇者であとうと、元連合軍最高軍師であろうと平等に。
モンスターを引きつれて他のパーティに擦り付けるトレイン行為や、休憩中を襲う冒険者崩れのならず者などなど。
魔物とのよりも、人間同士のトラブルの方が数知れない。
そういったマナー違反の者たちとトラブルになり、こちらがうっかり処してしまってもギルドは関知しないし罪には問わないよ、っていうやつだ。
「……てことは、いるんですね?厄介なのが……」
はぁ、とため息をつく。
「まぁ、できれば……ってことで」
「そうですか……」
「りょーかい。遭遇しないことを祈りたいが……な……」
レッドさんがいうには、少し前に素行不良や脅迫、暴力が祟って冒険者ギルドから追放されたBランク3人組がダンジョンに身を潜めているらしい。
本来であれば捕獲するために10人くらいの冒険者を派遣するのだが、依頼が途切れなくて上手くスケジュールが合わないまま、今に至る。
「それと、うちのダンジョンは20階層が最深部でBランク相当の実力があれば到達することができるのだけれど、件の冒険者たちはダンジョンコア手前のセーフティエリアと拠点化しててね。ちょっと困っているのよ」
「なのでそいつらをどんな状態でもいいから外に出してくれれば、依頼として処理し、報酬を出したい」
まぁ、ダンジョンコア手前のセーフティエリアはボス部屋に挑む冒険者にとって最後の安息の場所だ。
そこを拠点化されてしまうと、ボスへの挑戦がしずらくなる。
それに『どんな状態でも』っていうあたり、戦闘は不可避という事か。
「メルトに対人戦はまだ早いんだがなぁ……」
「その場合、僕がメルトと一緒に離れて行動するよ。簡易安全地帯の結界を張ればある程度は安全だし」
ドラゴンブレスも防ぐからね。『ある程度』なら大丈夫だ。
それに、メルトにはどんなに悪人でも人を殺してほしくない、というのは親としてのエゴなんだろう。
善悪に側面在り、とは言えメルトはまだ親からの教えが必要な年齢だ。
この辺もちゃんと、教えて理解してもらわないと……。
「んじゃ今日はまず、借りた部屋に行って休むとするよ。ダンジョン攻略は三日後あたりからでいいか?」
「僕は大丈夫だよ」
「メルトもいつでもおっけー!」
僕は書状をベストのポケットにしまうとソファから立ち上がり、ギルドを後にした。
「おお、ここか」
レッドさんから教えられた地図を頼りに、住宅街の中にある赤い屋根の家に着く。
小さいながらも庭があり、一家で暮らしていたというだけあって二階建てで大きさも十分だった。
「まずは洗浄と風通しと、防犯結界を……っと。よし。入れるぞー」
聖が家全体を洗浄魔法で綺麗にし、チリ一つないきれいな空気が循環する環境にした。
その上で、防犯結界を物理と魔法の二重で張って行く。
修繕すべき場所もあったが、レッドさんにその辺を聞いてなかったので後回し。
レッドさんがOK出せばお礼としいてやっておこうと思う。
それから各部屋や小物も込みで洗浄魔法で綺麗にし、お風呂の準備をする。
お風呂場の水の魔石と火の魔石は取り外されていたので、手持ちを使ってお湯を張った。
幸い、台所の魔石は取り付けられたままなのでありがたく使わせてもらおう。
灯り用のはクズ魔石で充分なので、余ったゴブリンやウルフの、小さい奴を使用した。
「お部屋、あかるいー」
「そうだねー。お布団も洗浄して火の魔法で乾かしたし、今日はふかふか布団で眠れるね」
寝具の類もなかったので自前のを使う。
聖がついでに、と水魔法で全部丸洗いして火魔法で乾燥してくれた。
「俺もふかふかで寝たいしな~。枢、そろそろ腹減った~」
「そうだね、ご飯にしようか。今日は出来合いでいい?」
「はーい!」
「よろしく」
一階のリビングのテーブルに布を敷き、その上に料理を出していく。
今日は
副菜は根菜のピクルスに沢庵、自家製のなめたけと野沢菜漬け。
それとコロッケとメンチカツ、土鍋ご飯も出した。
金翅鳥は黄金の羽をもつ鳥の王と言われ、風属性の魔法を使う。
本来であれば神の領域の山に住むのだが、繁殖しすぎて人里に降りてきてしまったのを討伐したやつだ。
身は脂がのってジュージーだし、羽毛は金になり、尾羽は魔法使いの杖の素材にもなる。
メルトを引き取ったばかりだったので、いい稼ぎになりましたさ。
そろそろ土鍋ご飯や作り置きが少なくなったので、明日は市場に行ったりご飯を作ったりしますか。
「足りなければまだ出すからね。頂きます」
「いただきまーす」
「いただきます!」
今日はご飯を食べたらお風呂に入って、早めに寝ようと思うのであった……。
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