第3話✤旅の支度は大変なのです
次の目的地が決まったところで、家族会議です。
二つ隣の国に行くならまずは五大王国に連絡をしなければならない。
元勇者である
これは聖が勇者を辞めて、諸国漫遊する条件のひとつだった。
国同士の戦争ではない、魔物による危機的状況には必ず参じるために。
「さーて、連絡馬車を乗り継いで直接行くか、途中経路の街に寄って観光しながら行くか·····。幸い路銀はたんまりあるのでどっちでもいいぞー」
「メルトはどうしたい?」
「色んなとこいきたい!」
「じゃあそうするか。
「あ、それは助かるよ。寄りたい」
聖の見ているマップを映写魔法で机の上に地図を表示しながら、ルートを調べていく。
このマップ、常に最新情報がアップデートされているらしく、街の名前をクリックすれば、大凡の説明がでてくる優れスキルだ。
「母!新しい魔道コンロでチェリーパイ焼ける?」
「焼ける焼ける。オーブン付きならチェリーパイもアップルパイも、なんならローストビーフや煮込み料理もできるよ」
「お、いいな。枢のチェリーパイ、食べたいなぁ」
今使っている魔道コンロは、連合軍が使っていたものの払い下げ品だったので、オーブン機能が半年前にご臨終してしまったのだ。
三口コンロだけで料理は作れるけれど、オーブン料理が出来ないからレパートリーは少なくなる。
一応、ケーキ類は通販出来るんだけど、2人は僕の作ったチェリーパイがお気に入りなので、作れるようになると知ると、テンションが上がった。
「父!真っ先に魔道コンロの街にいく!最新型を買う!」
「よっしゃ!なら道中高ランクの魔物狩りまくるぞ、メルト。素材狩りだ!」
「はい、父!メルトがんばる!」
いえーい!とハイタッチする2人を横目に、3人の魔法鞄の中身を確認する。
この魔法鞄、聖が作ってくれた3人なら誰でもどの鞄でも取り出せる仕様になっている。
所有者登録付きの魔法鞄出各個人のストレージに繋がっている。
かと言って、何でも取り出せるのではなく、保護されたものは取り出せない。便利な機能付きだ。
えーと、洗濯物は出してあるから、畳んだものと新しいものをしまって、おやつの補助と武器防具を手入れするから出して·····。
保存食が心もとないから、明日から作り置きしないとな。
2人のリクエストも聞かないと。
あ、聞くといえば。
「そう言えば、指名依頼とかはどうなの?来てる?」
「ん?メール(受け取り箱)には来てないぞ」
聖と僕のストレージには書状受け取り箱があり、そこに五大王国からの指名依頼があれば依頼状が転送されてくる。
主に高ランクの魔物討伐依頼だったり、王族が他国に移動する時の護衛依頼だったり。
聖としては後者はあまり受けたくはないと愚痴を言う。
何だかんだで自分が勇者であった事をあまり思い出したくはないからだ。
せっかく親子3人でのんびり暮らしてるのに·····、とプチプチ文句を言う様は年相応で可愛いんだけどね。
「なら連絡したら旅に出ても大丈夫そうだね。準備に3日ほしいな」
「解った。手伝える事はやるぞ?」
「母!メルトもお手伝いできる!」
「ウンウン。頼りになる子供たちで僕は嬉しいよ!」
「ひどい!俺!旦那!!!」
ごめんごめん。90歳+前世込だと18歳は本当に曾孫ポジションなんだよ。
わかってるよ、旦那様だね。はいはい。
それから大まかなルートを検索しつつ(何で車のナビみたいな機能もあるんだろうか)、周りの魔物の情報も調べたりもした。
ある程度の魔物であれば、メルトのレベル上げにもちょうどいいだろう。
最近、メルトが冒険者登録をしたので、レベル上げの最中なのだ。
そのために、先日のダンジョンに行ったのだが、あの騒動である。うん、参ったね。
聖はダンジョンに潜ることにすら、領主への連絡が必要だから。
全く、聖の負担になるような面倒ごとはやめて欲しいね。
·····やめやめ。気持ちを切り替えるか。
「明日から保存食作るけど、何食べたい?」
「スガ〇ヤラーメン!」
「それ、インスタントなので却下」
「グミ!」
「お菓子なので却下です」
それからわいわいと、2人は食べたいものを羅列して行くのであった。
メモ帳には3ページに渡ってそれが記入されている。
良くもまぁ出てくるものだ。
「じゃあ頑張ってつくりますかね。まずはお昼ご飯からかな」
僕はコテージのキッチンで通販サイトを開いた。
今日買うのは牛すじ肉1キロと玉ねぎ、ミックスベジタブルとミックスビーンズとトマト缶と固形コンソメの元。
ミックスベジタブルはグリーンピースの代わりにブロッコリーが入っているエイトホールディングスのオリジナル商品だ。
スパイスはまだある。
玉ねぎをみじん切りにして牛すじと共にトロトロになるまで煮込む。
圧力鍋買っておいて良かった。
煮えたらそこにミックスベジタブルとビーンズを投入してコンソメとトマト缶、白ワイン、粉チーズで味を整える。
煮込んでいる間に茹でておいたリガトーニのという大きなペンネを混ぜたらナポリ風ジェノベーゼの出来上がり。
あのバジルソースの緑のではなく、ナポリのは茶色いのだ。
それとサラダとコーンスープ、ロールパンサイズのくるみパンを20個だす。
くるみパン、中庭にあるかまどで沢山焼いておくかなー。
料理を出していると2人が運んでくれていた。たすかる。
聖には烏龍茶を、メルトには果実水、僕は緑茶を並べていく。
「「「いただきます」」」
たくさんおたべ。そして大きくなるんだよ。
「美味い!」
「母、これ美味しい。メルトすき!」
「そう?良かった。ありがとうね」
新しい料理本を買っておいて良かった。
最近ではキャンプ飯なるレシピ本が沢山あり、そのまま野営飯としても使えるものばかりだった。
キャンプ道具も充実してきので、とてもお世話になっている。
野宿してても性能のいいテントや道具で快適に過ごせるし。
あと、蚊取り線香様と害虫害獣避けも。
認識阻害機能付きの結界あるんだけどね。何となくね。
あと、花火はメルトに大好評だった。
「メルト、歯を磨いたらお風呂に入っておいで」
「はーい。父、一緒にいく!」
「え?俺は枢と·····」
「聖、何か言った?」
「なんでもないです·····」
ウンウン。素直な子は好きだよ。
後片付けをした後は、出しておいた武器防具の手入れをする。
先日のダンジョンでは余り出番は無かったが、それでも日々の手入れは重要だ。
凹んでいる箇所を素材と、リペアの魔法を使って錬金して補強していく。
革製のものは馬の油を塗り、メンテナンス。
僕らの装備は軽装なので、手入れも楽なんだよね。
聖は基本的にフライトジャケットにパーカーと厚手のデニムとバイクブーツ。そこに金属と革製のパーツをつけている。
メルトは基本的に魔術師として登録しているので、某日本のアニメの魔法少女的なデザインの可愛い系ローブ。新しく買ったプチプラ系のワンピースに補強や付与魔法を掛けまくった。
そろそろメルトの魔力量と杖の耐久度が合わなくなって来たので、聖のストレージからいいのがあれば見繕って貰うかな。
無ければ材料を狩って、作ればいいし。
そして僕はサポートしやすい感じで。
基本はメルトと同じくローブ系なんだけど、その上からポケットが沢山ついたベストを着ている。
一応、剣も魔法も出来るけれど、メイン武器はソードメイスを腰からぶら下げている。
聖から貰った『メテオ・アルカナ』とかいう物騒な名前がついているけれど、振りやすくてクルミも割れるので重宝している。
それぞれの装備品の手入れが終わったところで、2人がお風呂から上がってきた。
少しだけ水分を取らせてベッドに向かわせる。
それから僕が風呂に入り、戸締りの確認をしてから寝室へ。
·····なんか聖がワクワクしながら待っていたけど、気にせず布団に潜り込んだ。
うん、いまはそんな気分じゃないので。
ごめんね✩.*˚
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