第4話✤出発しますよ?

 道中のご飯も作ったし、魔法鞄の中も整理整頓したし。

 借りていたコテージも解約して鍵を宿に返却した。

 伯爵令嬢のおかげで聖が元勇者だと幾人かは知ってしまったけれど、周りからの視線はあるものの何も言われないから箝口令や詮索不可の指令でも出たのだろう。

 おかげである程度はのんびりと旅ができる。

 宿の人達にお世話になったことへの礼を言ってから、連絡馬車が集まる門前広場へ。

 そこで詰所にいる係の人に、指定のルートを走る馬車の乗り場番号を聞いて3人分のチケットを購入。

 急いでいれば終着駅までのルートチケットを買うけれど、今回は観光とメルトのレベル上げをメインにするから、急ぐ旅ではない。

 とりあえず、ダンジョンがあるか、素材が美味しい魔物がいる街まで行くことにした。


「次に降りるところは5階までは初心者用だけど、それ以降は5階層事にランクが上がり、最下層の15階が中の上くらいのランクになる『カラミティ』ダンジョンがある、ユレスクの街だ」

「はい、父。特産品はなんですか!」

「はい、メルト君。ユレスクの街は絹製品と革製品。あとは大きな市場と露店街があります」

「いちば!母、いちばだって!」

「着いたら寄ってみようか。時間によるけど、そこの露店街でご飯にしてもいいし」

「そうだなー。ここからだと、明日の夕方にはつくかな。途中の駐車場で車中一泊して、隣街ジャルタを抜けたらその日のうちに着くはずだ」


 連絡馬車を利用する場合、国同士が出資して整備した馬車3台分の幅はある大通りを運行する。

 その途中途中には大きめの駐車場が作られていて、そこで休憩をとることが出来る。

 言うなればサービスエリアのようなものか。

 国が派遣した兵士が5人ほど詰めているので、滅多なことでは盗賊なんかは出ないし、魔物よけの魔道具も地中に埋め込まれているので安心できる。

 ちなみに盗賊は見敵必殺、全力全壊、悪即斬、慈悲はない、て感じで見かけ次第殲滅コースだ。

 目こぼししても次の被害者が出るだけだからね!

 まぁ、捕らえたら捕らえたで賞金首なら礼金が貰えるけれど、ほぼ首だけでオッケー!ていうノリなので生け捕りは意味が無い。

 出ないといね、盗賊。

 フラグじゃないよ?フラグじゃ·····。


「3番乗り場でますよー!行先はジャルタ経由ユレスクの街!車中一泊のルートですー!」


 2頭引きの中型馬車の前にいる御者さん2人が、大声を出して出発を叫んでいた。

 あれか。


「おーい、3人乗るぞー。大人2名、子供1名だ」

「へい!確認しました。お子さんと女性にはクッションのサービスがつきまさが、どうします?」


 チケットを渡せば御者さんはそう言って籐籠に入ったクッションを差し出してきた。


「いんや、自前があるが大丈夫だ」

「じゃぁお嬢さん、こちらの蜂蜜飴でもいかがです?」


 ほい、ともう1人の御者さんが油紙に包まれた飴をくれたので、有難く貰うことにする。


「おじちゃん、ありがとう!」

「どういたしまして!」


 魔族であるメルトに対しても偏見はないみたいだし、いい御者さんたちだ。

 未だに魔族国との戦争を覚えている老人がいる家庭だと、魔族に対してのヘイト教育がされちゃうからね。

 過去何度もその事でメルトが悪く言われたり危険な目にあって、聖が物凄くキレたことがある·····。

 あの時は宥めるのに大変だった。

 招集により手配された馬車での出来事だったので、聖が「もう行かない!招集とか知らん!」て言い出しちゃったんだよねぇ。

 その時の馬車ギルドの偉い人とか領主様とかが総出で土下座してきたのは心臓に悪かった。

「2度と人種に対しての偏見は待ちません!」て血判押させてたし、馬車ギルドにも毎朝の朝礼で社訓と共に唱和することで怒りを収めたのだ。

 うん。それで改善されたのなら良かったの·····かな?


「ではこちらの席になります」


 と案内されたのは1番後ろの席。

 中型サイズなので馬車の3分の2は席が用意されている。

 2席と通路挟んで1席。

 余りのスペースは客の荷物や2日分の食料、あれば駐車場行きの荷物が乗る。

 横1列の3席が僕らの席なので、1人席に聖、2人席に僕とメルトが座る。


「メルト、真ん中に座る?」

「うん!」


 メルトが座りたいところを選ばせ、僕は奥の席に。

 座ったところでひっそりと馬車全体に保護シールドを張った。

 一応、盗賊の遠距離攻撃避けにね·····うん。フラグじゃないよ?


「それでは出発しまーす!次の停車は二時間後のジャルタ第3駐車場です。走行中に席を離れますと、転ぶ危険がありますので、なるべく席から立たないようにお願いします」


 御者さんの1人がそう言うと、馬車はゆっくりと走り出した。




 ジャルタ第3駐車場では商会の馬車が露店を出していた。

 駐車場は色んな地域から集まってくるので、駐車場専門の販売業者もいるらしい。

 2時間で銀貨1枚なので販売数に寄っては延長したりしている。

 あとは名前を出している街が派遣した食事をだす露店もある。

 ジャルタならジャルタの街が、ユレスクならユレスクの街が、というように。

 そこでの売上と税は道の整備や警備に使われるので、滅多に道が荒れたままにはならないのだ。

 街を出てからの初めての休憩なので30分で離れるという。

 ほんとにトイレ休憩のためだけに寄った感じだ。

 聖はさっそくメルトと串焼きを買って食べていた。

 美味しかったので10本買ったから後で食べよう、と話したんだけど、10本で足りるの?

 あと10本買ってきなさい、とお金を渡したら、ついでに揚げ芋も5袋買ってきた。

 まぁ、馬車で用意されるご飯じゃ足りないもんねぇ。


 次の停車は4時間後のジャルタ第5駐車場出、そこも30分休憩。

 続いて2時間後のジャルタ第6駐車場出1泊。

 朝の7時にご飯、8時半には出発。ジャルタ経由でユレスクへの大通りを走る。

 そこで御者さん2人はユレスクの馬車ギルドの御者さんと交代。

 長距離を同じ御者が走らせるのではなく、街区切りで交代させて方が説明もしやすく、土地勘もあるからだろう。

 昔々、冒険者だった頃は土地勘のない御者の長距離運行馬車にのって、一緒に迷った事があったよなぁ、と思い出に浸る。


「出発しまーす!」


 御者さんが全員居ることを確認してから、駐車場を後にした。


「駐車場をひとつ飛ばしますが、何かあれば寄るので遠慮なく言ってください」


 うん、そういう気遣いは好きだな。

 暫く走らせていると、馬車の他のお客さんも慣れてきたのか、話し声があちらこちらから聞こえてくる。

 仕事でユレスクまでに行く人、家族に会いに行くために乗り継ぎをする人、行商する為に旅をしている人。

 色んな人が、この馬車には乗っていた·····。


「母、眠い·····」

「次は4時間後だから、寝てていいよ」

「うん·····」


 小さな声でそう告げられたので、僕はメルトを横にして背中を叩いた。

 すると小さな寝息が聞こえてきたので、魔法鞄からメルト用の大判ブランケットを出して、掛けてやった。


 願わくば、道中もこんな風に穏やかな旅路でありますように·····。

 フラグじゃないからね?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る