第2話✤どこにでもついて行きますとも
聖とメルトがむむむむむ、とうなりながら地図とにらめっこをしている。
傍から見ると同じ表情、同じポーズで体の傾き加減も同じなもんだからつい、微笑んでしまう。
僕は2人の服を繕いつつ、次の目的地が決まるのを待つだけだ。
メルトの新しい服を何着か選ぶついでに、聖のシャツも何枚か買ってきた。
まだまだ成長するメルトと聖。
こうやって繕い物をする度に、それが感じられて嬉しい気持ちになる。
「父、わたしはお魚さんがいい」
「魚もいいが、こっちは豚さんと鹿さんなんだよなー」
「鹿さん·····じゅるり·····」
·····君ら、食べたいもので行き先決めてない?
そのお魚さんてジャイアントレイクシーサーペントじゃないよね?豚さんはオークキングとか言わないよね?鹿さんはエルダーデッドディアーとか言わないよね??
「鹿さん·····」
「鹿にすっかー。ジビエ料理楽しみだなー。そろそろメルト用の解体ナイフを買うかね」
「!!メルト、解体したい!母!教えてください!」
メルトがキラキラした目をこちらに向けてくる。
そう言えば先日、そろそろ1人での戦闘と解体をさせようか、と話し合っていたっけ。
「そうだね。メルトも解体が出来るようになってくれると嬉しいな」
「やる!メルトがんばる!」
そう、解体の手はいくらあっても足りないのだ。
何せこの元勇者様は倒すのと食べるの専門で、解体はからっきしなのだ。
なんというか、勇者らしいスキルしか持ってないことの弊害か。
「じゃあ、香辛料とかハーブとか補充しておくね」
「よろしく!あ、あとポテチとコーラと竹輪と·····後なんか適当に本を何冊か!」
「母!わたしはグミ!」
「はいはい。わかったよ」
と、なんの話をしているのかと言うと、僕には異世界通販スキルがあるからだ。
この世界のお金や素材を使って、地球とカザマ商会の商品が買えるのだ。
地球のはほぼアマゾンヌさんか六天、エイトホールディングスの所がメイン。
食材や生活必需品は専らこれでまかなっている。
対してカザマ商会はと言うと、ファンタジー用品御用達みたいなサイトだ。
各種能力値アップのスクロールやポーション類、呪いを解いたり、はては蘇生薬まで売っている。
武器や防具も売っているし、それらの耐久値を上げたり、属性を付与できるアイテムまであるので、こちらも重宝している。
メルトの解体ナイフも見ておこうかな。
「えーと·····まずは·····」
食品から。
ざっとストレージの中を確認して足りない食材を追加して行く。
肉類は問題ないので野菜や調味料、加工品がメイン。
幸い聖もメルトも好き嫌いなく育ってくれているのは有難い。
ジビエ用オリジナルブレンドのスパイスセット、無塩バター、塩麹、葉野菜、根菜、竹輪10袋、果汁系グミ3袋、コーラ1ケース·····。
お酒もチラ見するけれど、聖が20歳になるまでそっ閉じ。
新刊は何があるかな。
聖は読書家で暇を見つけては本を読んでいる。
ちょうどオススメ新刊コーナーがあったので、一巻で完結のハードカバー作品を6冊、上下巻の物を2セットカートに入れた。
僕も読みたいからね。メルトにも算数ドリルと子供用の図鑑に書き取り用ノートを数冊。
この世界、読み書き計算もだが、魔法の威力底上げにはイメージが大事との事で、図で説明してくれる子供用のなぜなに説明本は有難いのだ。
それに、魔道具や魔導書も通販で買えるので、理解度二併せてそれらも読ませてみようと思う。
「支払い終了、と。聖、竹輪は?メルト、ご飯前だからグミは3粒までだよ」
「今食べるー」
「はーい!」
ちなみに、異世界物のゴミはストレージからリサイクルに回せばリサイクルポイントがつくのが有難いね。
美味しいね、といい合って好物を食べる2人を残し、僕は簡易キッチンでご飯作りを始めた。
宿屋、とは言っても母屋の他にコテージが何軒かあり、僕らはコテージを借りている。
その方が簡易キッチンを使えるからね。
コテージの中央には大きなかまどもあり、いっぺんに何個ものパンが焼ける。
作り方は知っているから、パンも焼いてみたいんだよね。
「さて·····と」
今日は鶏もも肉とごろごろお野菜のクリーム煮。
鶏もも肉5枚は1口サイズに切って塩コショウを振り、ビニール袋に香草と共に入れて味と香りを馴染ませる。
人参、じがゃいも、玉ねぎ、ブロッコリー、アスパラガス、しめじも大きさが均等になるようにしておいた。
28cmの丸型の深鍋にバターをいれ、香草と共に皮目を下にして焼いていき、皮がパリパリになったら一旦鍋からあげて、香草を取り除いておく。
バターと鶏の油でざっと他の具をある程度炒めたら、牛乳を1パック投入。
吹きこぼれないように注意しつつアクをとり、とろけるチーズをふたひとつかみ。
ここに鶏肉を戻して塩コショウで味を整え、火が通ったら完成。
コンソメを少々いれても良かったかな。
つぎは副菜。
人参とレンコンと竹輪のきんぴら、パプリカとかぼちゃの彩りサラダ。
主食はご飯とロールパンにした。
沢山あるね、って聖が3人前食べるからね。若い子羨ましい。
「お待たせ、出来たよー。運ぶの手伝ってくれるひとー?」
「はい!母!メルト手伝える!」
ぴゅーん!と飛んできたメルトが可愛い。
メルトにはロールパン20個入った籠を持って行って貰おう。
「聖、取りに来てー」
「あーい!あ、やった!鶏のクリーム煮だ!」
鶏肉とチーズをこよなく愛する聖は嬉しそうに料理を運んでいく。
テーブルに全ての料理をだしたら、みんなで手を合わせて『いただきます』をした。
「そう言えば、次はどこに行くことになったの?鹿さんってなんなの?」
気になっていたことを聞くと、聖はニヤリと笑った。
「エルダーデッドディアー。2つ隣のマティーファ国のサンカーハっていう街に近いダンジョン」
「母!メルトが母に鹿肉プレゼントする!」
「ありがとう、メルト。無理はしないようにね」
「任せて!」
うん。うちの娘は本当に可愛いなぁ。
なら僕は2人のサポートをしっかりとしないとね。
後で2人の魔法鞄になっているショルダーバッグとピンクの羊さんリュックの中身も確認しておかないと。
僕のやるべきことは、2人が後方の憂いなく、安心して前を向いて居られる環境を作り上げることなのだから。
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