ただのサポーターですが元勇者に溺愛されてます。~可愛い娘も出来たので三人でのんびり諸国漫遊します~

葎璃蓮

第1話✤サポーターは勇者に溺愛されていたらしいです

「なんでよ!私よりもあの冴えない戦うことも出来ない、役立たずの愚図の方がいいって言うの!?」


ヒステリックな金切り声がダンジョン内に木霊した。

いくらここが低階層のセーフティエリアだとしても、他にも人は居るし、夜も遅いしご迷惑になるからやめて欲しいなぁ、と思う。

なんだなんだ?とセーフティエリアに設置されたご自由にお使いください的なテントからも人が出てきてこちらを伺っている。

それに、子供の前でキーキーいうのは情操教育的にちょっと·····。


「何とか言いなさいよ!謝るなら今なら許してあげるわよ!?私がいないと困るんでしょ?」


と、その女性はなおも声を大きくする。

困る·····かなぁ?

ちらり、と言い詰められている金髪翠目のイケメンの表情を見るけれど、あーこれ、あまり関心持ってない目だね。


「このダンジョンは私のお父様が管理しているのよ?!それなのに私がこのまま死んでもいいの?!私を愛してくれないならこのまま最下層に行って死んでやるんだから!!」


あ、これ、だめだ。

彼の地雷踏んじゃったよ·····。


僕はそばに居た8歳の少女をギュッと抱きしめた。

もちろん、彼女がこちらに攻撃をしてこないようにするのもあるが、彼女が彼に協力しないための処置でもある。


彼は自分のワガママを通すために、死ぬだのなんだの言う人間が大嫌いだ。

そして彼女は自分のワガママを通す為に、自身を殺した親がいた。

ダブル地雷を踏み抜いただなんて、あの人は知らないんだろうな。


「わかった?!だったらあの子たちと別れて!私と一緒になってよ!勇者様!」


その一言で、周りがザワザワしだす。

あちゃー!それ言っちゃったんだ。

ううん、どうしよう·····。


「え?勇者·····?あの兄ちゃんが·····?」

「でも、勇者って8年前に魔王を倒して共倒れしたって聞いたぞ?」

「それに、あの兄ちゃんはまだ若いぞ?」


先程よりも人が集まってきた。

それでも10人ほどなのだが、それでもギャラリーとしては充分だ。


「言いたいことはそれだけか?満足したなら帰れ。現地調達モブNPC」

「?!」


静かな、でもよく通る声がこの場にいる全員の耳に届いた。


「現地調達·····」

「モブNPC·····?」


なんぞ?と先程とは違った意味でざわざわしだす。


「はぁ〜。俺たちは別にお前のとーちゃんに配慮してここにいる訳じゃねぇし、お前が勝手に着いてきてあれこれ口出してきただけだろ?言ったよな、俺は!邪魔すんな、帰れ!ってさ。どんだけ馬鹿な教育されたの?貴族だろ?お前もお前を教育したモブも馬鹿しか居ねーの?」

「·····え?」


あとこの元勇者。敵と見なした相手には口が悪いです。


「わ、私は伯爵家の·····!」

「その伯爵サマも言ってたんじゃねぇの?俺の邪魔はすんな、ってさ」

「邪魔なんかじゃないわ!役に立ってるし、貴方の隣にいて妻になるのは私が適任なのよ?!」

「くっそうぜぇお前が?飯の準備もしねぇし敵を一撃で倒せる魔法力もねぇ、やることと言えば俺の周りでうるさくする事だけ。しかも勝手に人の寝床に入ってくるような馬鹿が?だから3階のポータルで帰れって言ったんだよ」


これである。

まぁ、うん。

あの現地調達NPCさんに関しては彼の言うことは正しかった。

こと戦闘に関しては初歩級のレベルの火魔法しか撃てない。

しかも3発打てればいい方で、スグ魔力切れを起こしてる魔法力回復ポーションを強請る。

行軍はすぐばてるし足が痛いだの言い出す。

·····うん、僕は出来るだけサポートもしたし、タライにお湯を貼ってリラックス効果のあるお手製アロマ油を垂らして上げたし(マッサージはしなかったよ。未婚の女性に触れることは出来ないからね)、ご飯もなるべく品数増やしてたんだけどな。


「役に立つ?何を勘違いしたらそんなこと言えるわけ?」

「わ、私はそこの男より役にたってるわよ!」


あら、こちらに飛び火してきた。

腕に抱えている少女がもそもそしているけれど、君が出ちゃうと面倒な事になるから少しだけ待ってね。


「お前さぁ·····」

「は、はい?」


ずごん!という音を立てて空気が一瞬にして変わった。

それに、確実に気温も下がってきている。


「ひっ·····ぃ·····!」


女性もやっと自分が彼を怒らせた事を理解したのか、ガタガタと震え出した。


「少なくとも8年前からずーっと自分ではなく俺とあの子を支えてきたあいつよりも、先日出会ったばかりで何の役にも立たないお前が?なり代われると本気で思ったの?どれだけおめでたい頭なの?お花畑なの?天空の城に住んでるの?バルスする?」

「え、·····え?」

「はー。しょうもな。無駄な時間食ったな。エスメルディア、出来たか?」

「はい、ちち」


彼はこちらを見ずに手だけ出してきた。

そこには6つの書状が渡されていて·····。


「ちち。その女が勝手に着いてきたあたりから今の経緯と会話内容、それとははに対しての嫌がらせも記してある。全部おなじ内容」

「そうかそうか。メルトはお利口さんだなぁ。父はメルトの父である事がとても自慢です!」

「メルトも父が自慢!父の娘であることが自慢!」

「む、むすめ·····!?」


と、あの人も周りも僕らを見比べる。

うん、どう見ても種族的に親子じゃないし、僕は女性じゃないよね。

メルトは魔族国の出身なので、青い肌に黒目の青と翠の虹彩異常。頭の左右には羊のようにくるりんとした可愛い角が生えている。

対して僕は黒髪赤目でエルフの見た目、でも身長はエルフにしては

低い方。

彼は人間で年齢は18歳。神槍をメインウェポン出戦う、元・勇者様。

そんなへんてこな一行が親子と名乗っているのだからまぁ、ざわざわしてるのは仕方がない。


「よーし、お前もう要らねーから、家に帰れ。あ、この書状はお前のとーちゃんに渡せな?その位のお使いはできまちゅよねー?えらいんでちゅよねー?」

「まって!ねぇ!!」

「またねーよ!後の5つの書状は五大王国の国王宛に送るからな!帰りにお前ん家寄ってオトシマエ付けるかんな!っと!転送!」

「·····!!!」


なにか言おうとしてたのかな?

あの人が口を開いた瞬間、彼の転送術によって、伯爵家に強制送還された。

彼は1度よった場所であれば、座標指定できるから·····。


「おーい、見せもんじゃねーぞ。散った散った!」

「お、おう·····」

「兄ちゃん、その·····すまん、ジロジロと·····」

「いいって。俺も我慢したのが悪かったしな·····」


手のひらを振って周りのギャラリーを散らす彼は本物の元勇者だ。





10歳の頃、この国に勇者として召喚され、強制的に戦場に出て生き延びることを余儀なくされた。

当時の僕は異世界転生者でもあり、ある程度の魔法と戦略が見込まれてあの戦いに参加していた。

そこで見た彼は異常な強さを持っていた。

この世界の神から授かった神槍がきらめく度に、敵である魔族があっという間に倒れていく。

そこに感情なんかなかった。

ただただ作業として、黙々と周りを刈り取っているだけだった。

勝手に召喚された10歳の男の子は周りに頼れる大人も友人もおらず、身勝手で一方的な理由で殺すためだけの機械となってしまったのだ。

そして、魔王という職業の魔族を殺した瞬間、彼はにやりと笑ったのだ。


やっと死ねる!


歓喜に笑う彼は10歳の子供では無くなっていた。


やっと自分を殺せる!ざまぁみろ!!!


笑いながら自分の胸に神槍を振るった瞬間、それは弾かれた。


「·····え?」


彼を守ったのは僕·····と、もう1人。


「済まないな。君には俺を殺した褒美をやらないとならんのでな」


息も絶え絶えで、少し動いたら即死してしまうはずの魔王はそう言って笑った。


「君には私の娘を託したい」


ポウ、と光が溢れたと思ったら産まれたての赤子があの子の目の前に現れた。


「名をエスメルディアという。彼女は神竜の転生体だ·····。一部だがな」

「神竜って·····」


神竜は神武器の製作者であり、この世界の神様だ。

それが·····一部とはいえ転生した?


「彼女が覚醒しない為に、私は魔王としてここで死ぬ決意をしたのだ」

「なんでですか·····?」


なんで、そんなことを?

僕の言葉に、魔王は薬と笑う。


「彼女が私の娘だからだよ。異世界からの転生者君。私は神竜が作り上げた武器で持って死ぬ事で、神竜の力のを利用して私の魂が核となり、彼女が覚醒するのを阻害する封印となる決意をしたのだ」

「この子を守るために·····?」

「神竜は気まぐれに力の一部を1人の個体として転生し、この世界を滅ぼすかどうか選択をするのだ。その場合、依代となった個体を利用して、世界のリセットボタンを押すことになる。だがな、それは私の娘なんだよ·····」

「魔王·····俺は·····」


小さな赤子を抱いたあの子は、小さく呟いた。


「済まないな、勇者よ。私のワガママで私を殺させてしまった·····」

「!?」

「君が娘の面倒を見られないと言うなら、誰も知らない、人種差別の無い国を見つけてそこに預けてくれてもいい。ただ、悪意に長く晒すことはしないで欲しいんだ。封印が弱くなるからね·····」


魔王の声がだんだんと小さくなって行き、体が砂のように崩れていく。


「おれ、俺は·····!!」

「魔王様!僕が責任を持ちます。転生者、神宮寺枢じんぐうじかなめが彼女を幸せに育てます!」

「おれも·····、八握聖やつかあきらは魔王の願いを聞き届ける!」


僕達2人の言葉を聞いて、魔王はにこやかに笑って消えていった。


「なぁ、枢」

「なぁに、聖」

「俺さ、もう自分のワガママで死なないよ·····」

「そうだね。僕も嬉しいよ」


顔を見合わせてクスリと笑い合う。


「それにしても10歳で子持ちかー! 勇者なんて不安定な職業なんかとっととやめて、稼ぎのいい仕事についてこの子を育てなきゃだなー!」

「待って?ねえ、君まだ10歳だよね?なんでそう達観してるの??僕一応、転生者だけどこの世界では90年は生きてるからね?先輩だからね?頼ってもいいんだよ?」

「えー?枢、見た目が頼りないからなー」

「酷くない?!それを言うなら君まだ10歳だからね?!」


ぎゃぁぎゃぁと言い合っていると、やっと生き残った自軍の将軍がやってきた。

僕ら以外いないなーとは思ってたんだけど、どうも僕ら2人だけを魔王が居る謁見の間に転移させていたらしい。


「勇者殿!それに軍師殿!ご無事で?!」

「うん、僕らは平気」

「俺も問題は無い。それよりもあのクソ野郎にオトシマエつけに行くぞ、枢」

「聖、言葉使い悪いから!」

「ゆ、勇者·····殿?軍師殿、これは·····?それにこの子は·····」


今まで言葉も話さず黙々と作業していた姿しか見たことがない将軍は余りの豹変ブリにオロオロしていた。

それに、視線は僕の腕の中で眠る赤子に向いている。


「あ?この子は俺と枢の娘だ。クソ国王に今までの報酬とこの子の養育費、俺の勇者としての責任からの解放を要求すっかんな。枢、頼んだ」

「はいはい。仕方ないなー、小さいお父さんは」

「小さいいうな!いずれ枢よりもでかくなるからな!」

「期待しないで待ってる!」


あははー!と笑いながら去る僕らを、将軍がどんな目で見ていたのかは知らない。

でも、戦争後の事後処理ではかなり僕らに有利な条件を提示してくれたし、将軍の甥であり王弟殿下であるムジョルニア大公も僕達の後見人として名乗り出てくれた。





そして今·····。


「うちの馬鹿娘が本当に申し訳ありませんでしたーーーー!!!」


例の現地調達NPCの父親が見事なジャンピング土下座で目の前に降ってきた。

あれから僕らはある程度ダンジョンを進んでから、予告通りに伯爵家を尋ねた。

娘が持ってきた書状を見て泡を吹いて倒れて、事の重大さを理解して直ぐに、娘を地方の修道院に強制収容させた。

一応貴族籍は抜かないものの、僕ら3人の許しがなければ戻ることは出来ないらしい。

対応早いな、伯爵家。

まぁ、跡取りはちゃんといるし、娘はあと2人いるようなので、大丈夫·····なのかな?


「母あまい。あの手のやつは貴族籍も抜いて一生軟禁が妥当」

「だよなぁ。俺もそう思うぜ?」

「でも、母は優しいから」

「優しすぎっからなー」

「「仕方がない」」


·····なんかため息疲れたんですけど·····。


あの後、メルトと聖が伯爵家と交渉して、詫び料として魔剣2本、路銀に金貨2000枚、伝説級魔道具を10個でようやく手打ちになった。

ついでにバカ娘の修道院期間は30年としておいた。

手打ちなの?それで?トドメさしてない?


伯爵領から出た僕らは、街中の宿屋で次はどこに行こうと話している。


「あれ?そう言えば、あの人が僕にやった嫌がらせて何だったの?」


なんかされただろうか?

ん?と首を傾げる僕をみて、2人は同時にため息をついた。

親子だからかタイミングが同じだなぁ。


「父ー、やはり母は気づいてなかった」

「まじかー?いや、あれは気づくレベルだったぞ?」

「父、母の鈍さは年々酷くなっている」

「あー、やっぱりなぁ·····」


え?なに?なにかdisられてる??


「あの女、お前の飯をまずいだの品数少ないだの言ってたじゃんか。枢の寝床も奪ってたし。結局抜け出して俺ん所きたとかバカか!」

「え?その程度?女の人はそれが普通じゃない?今までも臨時で組んだ人とかさ」


ちーがーいーまーすー!

と同時に2人がハモる。


「冒険者ならなんでも自分でこなせっての。人のもん頼ってんじゃねーよってハナシ!」

「母のごはんまずいって言った!ごはん残した!万死に値する!母が寝床追い出されたからメルトはあの女と一緒のテントになった!許すまじヒューマン!」


あれー?なんか怒ってらっしゃる?


「えーと、次回は気をつけます·····?」

「父だめだ、母はあんまし理解してない·····」

「枢だからなー。そーゆーとこも込みで愛してるんだけどなー。なんであれだけの醜悪な戦争こなしてて性善説信じてるかなー。好きだけど!」


えー?

だって今はただのサポーターだし?

戦闘はほぼ聖とメルトに任せてるから、楽をさせてもらってるしさ。


「母は反省して今日はメルトと一緒にねる!」

「いつも一緒にねてるよー?」

「俺とも最近寝てな「シャラップ!!」」


僕は一撃で聖を沈めると、メルトの手を取って立ち上がった。


「メルト。お金入ったからメルトのお洋服買いに行こうか。最近袖がキツいって言ってたからこの期に何着か買おうね」


じゃあね!と聖をほっといて部屋を出ていく。

全くもう、子供の前で!

さすが18歳!若いね!僕はもう90歳なので!!激しい運動は御遠慮したいのです!


「父、あわれ·····」


メルトの呟きは誰の耳にも入らなかった。






「かーーっ!!いってぇ!ほんといってぇ!一撃で生命力8割り減ったぞ?」


枢に殴られてから体感で1時間後に意識を取り戻した俺は、殴られ慣れてきたなと思う。

自身のログを見ればその位のダメージは負っているんだよなぁ。

さすがレベルカンストかつ元連合国最強軍師、照れにより実力を発揮しなくても元勇者の生命力を軽く削ってくれる。


「正直、枢が居ないとなんも出来ない役立たずは俺の方だしなぁ」


だからあの女の言葉が刺さったのかもしれない。


「はー。まだまだガキだなぁ、俺·····」


ベットに転がって天井をみやる。

ぶっちゃけ、枢1人でメルトはどうとでも育てられるのだが、メルトは頑なに俺を父と、枢を母と呼んでくれる。


『娘をたのむ·····』


はいはい、魔王様。

願わくば、メルトと俺と枢を見守っててくれよ。

責任は、とるからさ·····。




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